将軍-5

 解放された長四郎は愚痴をこぼす為だけに、命捜班・第一班の部屋を訪れていた。

「ラモちゃんの次は長さんか」絢巡査長はパソコンにデータを入力しながらボソッと呟いた。

「絢ちゃん、何か言った?」

「いえ、何も」と絢巡査長は答え作業を続ける。

「で、長さんはそのゲネラールとかに心当たりはないと?」

 一川警部の質問に首を横に振って否定する。

「ないですよ。しかも、犯人扱い。アホかって話ですよ」

「まぁ、長さんが怒る気持ちも分かるけど」

「分かられても困りますけどねぇ~」

 長四郎の不機嫌は治ることなく一川警部に当たり散らし始める始末。

「長さんが怒るのは、ごもっともやけどね。そげん悔しがるなら捜査したら?」

「嫌ですよ。面倒くさいし、クリスマスが近づいているっていうのにそんな暇ななんてありませんよ」

「でも、ラモちゃんは動いとうみたいよ」

 一川警部は佐藤田警部補から届いた捜査情報が書かれたメッセージを長四郎に見せた。

「うわぁ~ 絶対、巻き込まれるパターンじゃんかぁ~」

 物凄く嫌そうな顔をする長四郎は天井を見上げて放心状態になる。

 噂をすればなんとやら、ドカドカと廊下を駆ける音が聞こえてきた。長四郎は慌てた様子で一川警部の机の下に潜り込みその身を隠そうとする。

「一川さん! バカ居る?」

 ドアを開けるや否や燐のはつらつとした声が部屋に響き渡る。

 一川警部は黙ったまま自分の足元を指さして長四郎の居場所を教えると、燐は一川警部の机を持ち上げた。

「あ、どうもぉ~」姿を現した長四郎は顔を引きつらせながらそう燐に声を掛けた。

「どうもじゃないし、何してるの?」

「か、かくれんぼ?」

「バカじゃなかろうか」燐は言うと同時に持ち上げた机を離した。

 重力に従って机は長四郎の頭に向かって落ちる。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 長四郎の断末魔が警視庁庁内に木霊するのだった。

「探偵さん。大丈夫ですか?」

 氷嚢を頭に当てる長四郎を案ずる明野巡査。

「大丈夫じゃないよ。全く。あ、痛ててて」

 長四郎は痛みに耐えながら、隣に座る燐を睨む。が、燐は気にしないといった感じで車窓からの景色を眺めていた。

 今、第二の事件が起きた田園調布に向かっていた。

「探偵さん。どうやら、今回もメッセージが残されているようですよ」

 遊原巡査が無線から聞こえてくる捜査情報を伝えると「聞こえてるよ」と長四郎はぶっきらぼうに答えた。

「何、怒ってんの?」

「怒るよ。人の頭に机ぶつけてきたと思えば、第二の殺人事件が起きたから付いてこいだろ? 不当な取り調べの後すぐにだぜ」

「探偵さんのお怒りはごもっとも。申し訳ございませんでした」

 明野巡査が頭を下げ謝罪する。

「ほらっ、祐希も」明野巡査に促され「すいませんでした」とハンドルに頭をつけるように下げて謝罪する。

 無関係の若い刑事二人の謝罪を受けて長四郎は少しバツが悪そうな顔をする。

 四人を乗せたパトカーは現場に現着した。

 パトカーを降り規制線に居る警官に明野巡査が警察手帳を提示し、事件現場へと入る四人。

「うわっ!」

 現場を見て驚いた反応を示したのは、挑戦を突きつけられた長四郎であった。

 血がまき散らされており壮絶さを物語る現場であった。

「これか。第二の挑戦状っていうのは」

 遊原巡査はコンクリートの地面に血で書かれた挑戦状を見て神妙な顔をする。

「これの通りに動機を調べたら、犯人が分かるのかな?」

「どうだろう? 挑戦相手の意見を聞こう」

 燐は長四郎に視線を向けると、長四郎は現場の端の方から燐達が居る方を眺めていた。

「何、してるのよ」燐はつかつかと近づくと長四郎の手を引っ張り挑戦状の元へと連れていく。

「これ、見てどう思うの?」

「どうも思わない。動機調べて何になるのやら、さっぱりだな」お手上げだといった顔をする長四郎。

「ねぇ、今思ったんだけど、良い?」

「どうぞ」燐の発言を許可すると「これ、第三、第四の事件が起きるんじゃない?」というこの燐の予想は的中するのだった。

 翌日、練馬区のコンビニで第三の事件が起きた。

 その現場には次のようなメッセージが残されていた。

“いい加減に声明をだせ。このままだと大勢の人間を殺すことになるぞ。私はゲネラール。大量虐殺などはお手の物”と。

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