将軍-6

「ふわぁ~あ」

 長四郎は大きな欠伸をしながら、練馬区の事件現場のコンビニに入る。

「探偵さん。少し緊張感を持ってください」明野巡査に注意されると「すいません」とうわべだけの謝罪をする。

「遅いんだよ!」

 そう遊原巡査に怒鳴りつける捜査本部の刑事。

「すいませんでした」不貞腐れながら形だけの謝罪の意を示すがその目は反抗的そのものであった。

「よさないか」光浦はそう注意しながら、苦々しい顔で明野巡査に連れられ犯行現場のバックヤードへと近づいてい来る長四郎を見る。

「その節はどうも」眠そうな顔をして光浦に挨拶する長四郎に「本当に犯人に心当たりはないのか?」すぐに本題を切り出した。

「ないね。ゲネラールとかふざけた名前を使うような奴は少なくとも俺の知り合いには居ない」

「じゃあ、何故、ゲネラールは君を名指しでこのような犯罪をするんだ? 君が過去に解決した事件の犯人と何かしら関わりがあるんじゃないのか?」

「そう思うのは結構だけど。何かウラでも取ったの? 例えば、事件の被害者が過去の事件の関係者とか?」

「それは今、調べている最中だ」

 光浦はそう言ったが、実際のところ今現在そのような事実はなかった。

「そうかい。ま、精々頑張ってねぇ~」

 長四郎は手をひらひらと振って、壁一面、血に染まったバックヤードを出て行こうとする。

「ちょっと、探偵さん!」明野巡査は参ったなぁ~ という顔をし、取り敢えず、光浦達に一礼して長四郎の後を追いかける。

「じゃ、失礼します」

 遊原巡査も一礼して、怒鳴りつけてきた刑事をギッと睨んでから明野巡査

続く。

「探偵さん。急に現場を離れないでくださいよぉ~」明野巡査が長四郎に小言を言う。

「なぁ、ファミレスのモーニングでも食べ行かない?」

 長四郎の急な誘いに戸惑っていると遊原巡査が「行きましょう。泉、近くのファミレス検索してくれ」と指示を出して男二人そそくさと乗ってきパトカーに乗り込む。

「あの二人って、似た者同士なのか?」明野巡査は眉をひそめながら、パトカーに乗った。

 明野巡査が見つけた事件現場から数キロ離れたファミレスで長四郎達は朝ご飯を食べる事となった。

「あの、私達、こういう事してて良いんですかね?」

 明野巡査は配膳ロボットの盆に載せられた皿を机に並べながらお伺いを立てる。

「良いんだよ。それにまだ朝の8時だぜ。泉ちゃん。朝ご飯はしっかり食べなきゃ」

「探偵さんの言う通り」

 遊原巡査は自分の目の前に置かれた焼き鮭定食に箸をつけ始める。

 そんな遊原巡査を横目に吞気な奴が相棒でこの先大丈夫なのだろうか。明野巡査はそう思い始める。

「お二人さん。食事しながら仕事の話しても大丈夫なたち?」

 長四郎は若い刑事二人に質問すると二人は声を揃えて「大丈夫です」と答えた。

「じゃ、話すわ。ゲネラールって奴が次に仕掛けてくる物は少し派手になると思うよ」

「どういう事です?」明野巡査が最初に食いついた。

「うん。最初の犯行現場は、不自然なくらい小綺麗だったろ? 例のメッセージ以外は。そんで次の殺害現場では、周辺にその、まぁ、言葉の通り何の海を演出したわけだ」

「確かに、第一の現場からすると、第二の現場、第三の現場は酷かった」

 遊原巡査はうんうんと頷いて、味噌汁を啜り始める。

「第三の現場はさ、ド派手なぐらい汚していただろ。絶対に大量の返り血を浴びていてもおかしくないくらい。でも、店の方には一滴の血もなかったでしょ。だから、犯人は相当な手練れかつサイコパスな奴。それと思う一つ」

「もう一つ?」明野巡査は長四郎の言った事を興味深そうに復唱する。

「多分、第二、第三の現場でも犯人の目撃証言は出ないと俺は考えている」

「なんか、幽霊みたい」明野巡査は思った事をそのまま口に出した。

「泉ちゃんの今の発言は言い得て妙なんだよ。だから、犯人は幽霊のように身を隠して殺せる人物」

「特殊部隊の人間とか超一流の殺し屋しか出来なさそうな芸当ですね」

「遊原君。今、自分が良い事を言ったの気づかない?」

「俺、そんなようなこと言った?」と隣に座る明野巡査に尋ねると「言っていない」と答えてすぐに「言った!」と先程の発言を撤回した。

「泉ちゃんは分かったようだな」長四郎はニヤッと笑い、ウインナーを頬張る。

「ほら、祐希。特殊部隊だよ。特殊部隊」

「あ、最初の被害者、自衛隊だったよな。でも、そんなドラマみたいな話」

「いいや、奴らは居るんだ」

「奴らって?」

「別班だ」

 明野巡査の質問に阿部寛のモノマネをしながら長四郎はドヤ顔で答えるのだった。

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