彼氏-15
翌日、日向の友人からの情報を基に、日向が現れるとされる大学近くのジムの近くで張り込んでいた。
「ホントに来ると思いますか?」
隣であんパンを頬張っている長四郎に質問する絢巡査長。
「来るでしょ。意識高い系はルーティーンを大事にするからね」
「そうなんですか」
長四郎の唱える意識高い系のルーティーン理論に疑問を感じながら、張り込みを続けていると、時間ぴったりに日向が姿を現した。
「来ました!」今にも行くぞという姿勢を見せる絢巡査長に対して、長四郎は「ああ、そう」とつまらなそうに答えながらスマホでゲームをしていた。
「行かないんですか?」
「今、行っても後にして下さい。って言われるだけだよ。だったら、ジム終わりのへとへとになった所を襲った方が良くない?」
「了解です」
こうして。ジム終わりを襲う事にした2人は日向が出てくるの待った。
1時間半後、日向がすっきりした顔でジムから出てきて、張り込んでいる2人の方へと歩き出した。それと同時に身体を物陰から出す長四郎と絢巡査長。
「あの、すいません」そう絢巡査長が声を掛けると、日向は立ち止まって驚いた顔をする。
「驚かせてしまったようで申し訳ございません。私、警視庁捜査一課の刑事で絢と言います」
絢巡査長は警察手帳を提示しながら自分の身分を明かす。それに対して、長四郎はだんまりを決め込んでいた。
「今日、お話を聞きに来たのは円山美歩さんが殺害された事件についてです」
「その件なら知っています。ニュースで見ましたから」と昨日の夜とは打って変わって、動揺する様子はなく、どことなく覚悟を決めたといった感じに長四郎は見えた。
「少し事件についてお話を伺いたいので、場所を変えても?」
「構いませんよ。でしたら、1時間後に講義があるので大学の学食で話を聞いても構いませんか?」
「ええ、良いですよね? 長さん」
「構わんよ」
こうして、阿保田大学の学食へと場所を移した3人。
空いている4人掛けテーブルへと腰を下ろし、事情聴取を開始する。
「美歩についてでしたね」日向がから、話を切り出した。
「ええ。円山さんとお付き合いなさっていたましたよね?」
「事実です。でも、数日前に別れましたが」
「別れた。ですか。差し支えなければ、理由を教えてくれませんか?」
「簡素に言えば、性格の不一致ですね」
「性格の不一致ねぇ~」
ここまで黙っていた長四郎が口を開いた。
「何か問題でも?」
「問題はないよ。でも、それは本当の理由じゃないでしょ」
「どういう意味ですか?」
「だって、この前までJKとお付き合いしていたじゃない。要は、浮気が原因で別れたんじゃないって事」
「心外ですね。何の根拠があってそんな事を仰るんですか?」
長四郎を睨み付ける日向に「海部リリ」と呟く長四郎。
その名前を聞いた途端、日向の眉をピクっと動かし反応を見せる。
「心当たりあるっていう反応だね」
「そうですね」絢巡査長も長四郎の意見に同意する。
「確かにリリちゃんの事は知っています。だからと言って、事件と何の関わりがあるんですか!」
「そんな怒らなくても」
「怒ってはいません。ただ、失礼な質問をされたので」
「失礼な質問した?」
「まぁ、事件とは関係ない質問ではありましたよね」
「あ、そう。じゃあ、事件について聞こうか。君は円山美歩さんの部屋に行った事はあるの?」
「ありません」
「無いか。分かったよ。もういいや、絢ちゃん帰ろう」
「いや、でも」
「帰ろ。帰ろ。彼のご機嫌を損ねたようだし」
「分かりました」
絢巡査長は渋々了承し、椅子から立ち上がる。
そして、長四郎も椅子から立ち上がるとズボンのポケットから何かを落とした。
すかさず、日向がそれを拾い上げる。
「ああ、ありがとう」
長四郎は日向の手から落とし物を受け取ると、絢巡査長を連れて学食を後にした。
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