支援-15

「さ、全てを話して貰おうじゃありませんか。東ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「うるさいだけだし、しつこい」

 半沢直樹のモノマネをする長四郎を諌める燐。

「すんません」

「それで、この写真の意味を聞かせて」

 燐は驚いた表情で映る東の写真を見せながら、説明を求める。

「黙秘する」

 東はそれだけ言い、そっぽ向く。

「黙秘ってね。あんた、ふざけてんの?」

「ラモちゃん、そう怒ってばっかりだと。将来、禿るよ。一川さんみたいに」

「うんうん。って、長さん、それどういう意味?」

 一川警部は、長四郎に言葉の真意について質問する。

「そんな事より、事件の話をしましょう」

 絢巡査長はそう言いながら、一川警部の頭を見て長四郎の言葉が甦り思わず笑ってしまう。

「あんた、黙秘続けたら逃げられると思っているわけ? バカだろ」

 東は自分の事を鼻で笑う長四郎に、鋭い眼光を向ける。

「これを隠しとったとね」

 一川警部が下駄箱から東が入れた靴を持ってきて、机の上に置く。

「これ、事件現場から発見されたんだけど」

 万年筆の蓋の写真を東に見せると、東は「あっ」と声を上げた。

「否定しても無駄だよ。あんたの所の記者から、ウラは取っているから」

「・・・・・・・・・・・・」

 それでも、黙秘を続ける東に長四郎は構わず、話を続ける。

「この2つが物語っているように、林野 広さんを殺害したのはあんただ。東さん」

「そうだよ。

あいつが、ありもしない事を言うからだ・・・・・・」

 東は、自供し始めた。

 事件当夜、東の携帯に見ず知らずの番号から一本の電話がかかってきた。

 新たなタレコミかと思い電話に出ると、林野と名乗る人物であった。

 内容は、自分の横領記事について話したいことがある。

 それだけであった。

 記事を出したら、記事の当該人物からアポイントメントが取ってくるのは日常茶飯事のこと。

 しかし、林野と話をしているとこれに応じない場合、訴訟に踏み切るかつ裁判になった際、100%勝訴すると言われた。

 ここまで自身に満ちた発言を受けたのは初めてだったので、その話に乗ることにした。

 東は人目を避ける為、以前に事務所が入っていたビルを指定した。

 その電話から2時間後、東がビルを訪れると林野は先に来ていた。

「遅かったですね」

 待ちくたびれたといった顔をする林野は、東を見てそう言った。

「申し訳ない。色々と忙しいもので」

「忙しいですか? 碌にウラも足らないで、記事をお書きになるですもんね。納得です」

「どういう意味です?」

 すると、林野は東に一つの資料を渡す。

 東はそれを受け取ると、資料に目を通した。

 そこには、タレコミをしてきた源が横領をしていた証拠の数々が記載されていた。

「こ、これは!?」

 資料から東は顔を上げ、林野を見る。

 林野は腕を組み仁王立ちして、東を睨み付けていた。

「どうです?」

 感想を求める林野。

「そ、それは・・・・・・ウ、ウラを取ってみない事には・・・・・・」

「ウラですか・・・・・・・自分の立場が危うくなると、ウラどりをする。最低ですね」

 林野の言葉に、下唇を噛む東。

「も、申し訳ありません」

 東は静かに頭を下げて、謝罪する。

「私は貴方に謝って貰いたくて、ここに来たんじゃない」

「ど、どうすれば良いのでしょうか?」

 頭を下げたまま自分がどのようにしたら、許しを乞えるか伺う。

「そうですね。

この証拠のウラ取りをして貰ってからでも構わないんで、この事を記事にしてください。

勿論、私に対する謝罪記事も掲載してください」

「わ、分かりました。善処させて頂きます」

「善処って。東さんでしたっけ? 確約して頂けないようなので、別の週刊誌、記者に託します」

 林野は東の手から資料を引っ手繰ると、踵を返してその場を去ろうとする。

「待って下さい!!」

 東は逃げられないように、林野の肩を掴んで引き留める。

「離してくれ!!」

 その手を振り払う林野。

 その勢いで尻餅をつき転倒した東は、林野に食らいつく。

「な、何だよ!! 離せっ!!!」と林野は抵抗しながら叫ぶ。

 くんずほぐれつのもみ合いになる二人。

 東はそのままの勢いで縁まで、林野を追い込み突き落とすことに成功した。

 時を同じくして、東の万年筆の蓋が屋上の排水口に落ちていった。

「はぁはぁ」

 東は息を切らしながら、その場にぶちまけられた資料を回収してその場から立ち去った。

「あいつが、俺を脅すからいけないんだ!!」

 机をガンっと叩いて、悔しがる東。

「ふざけんな!」

 長四郎が東に掴みかかり、拳を振り降ろそうとする。

「ひぃっ!!」

 顔を引きつらせ、東は身構える。

「てめぇの自己満足の正義の為になぁ、どれだけの人間に不幸を招いているのか。

分かってんのか!!」

 東を殴らずにその体を揺さぶる長四郎。

「お、俺のペンには、社会正義が込められているんだよ!

 お前もその洗礼を受けたはずだ。どうせ、あいつが俺に見せた証拠は捏造品だ!!

俺を貶める為のな!!!」

 言い終える瞬間、燐のビンタが東に炸裂した。

「ラモちゃん・・・・・・」

「何が社会正義よ。あんたがやったのは、無実の人に罪を着せて殺しただけの事。

カッコつけてんじゃねぇよ!!!」

 燐がもう一発、ビンタをお見舞いしようとするのを必死に止める長四郎。

「何にせよ。あんたに社会正義がどんなものなのか。みっちり教えてやるけん」

 一川警部は冷酷な目で東を見ると、手錠をかけて連行する。

「じゃ、長さん。これから取り調べで締め上げてきますから」

 絢巡査長は証拠品の靴を持って、2人を残して部屋を後にした。

「にしても、作戦がこうも上手くいくとはね」

 燐はビンタしてスッキリしたといった感じで、長四郎に言う。

「ああ、全くだ」

 燐の作戦と言うのは、源を林野殺しの殺人犯として逮捕したと見せかけて、東自身に証拠品の靴を持ってくるよう仕向けるものであった。

 その為、一度、燐と共に事務所に行き張り込みをしていた東の部下・北西に尾行させ、でっち上げの顛末を源に自供して貰い、その事を東に報告させる。

 それから東が動いてくれるかは、イチかバチかの賭けであった。

 一応、事前に源には一川警部から演技をするよう指導を受けていた。

 そして、源は十分すぎる演技を披露したというわけだ。

「じゃ、ラモちゃん。俺達もお暇しよう」

「うん」

 燐を先に外に出して、長四郎は部屋を出ると同時に照明を落とした。

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