支援-16
「それで、悪い人は捕まったんだ」
照美は燐に向かって、納得いったのか満面の笑みを浮かべる。
燐は今、一番目の依頼人である純平と照美に事件が解決した事を報告しに来ていた。
「俺、おじちゃんの復讐をする! おじちゃんの仇を!!」
純平がそう言って立ち上がると、長四郎が声を掛けてくる。
「坊主、その必要はないな。おじさんとやらもそれを望んでいないんじゃないかな?」
「誰だよ。おっさん」
「おっさんは、この変なおばさんの雇い主」
「雇い主?」
雇い主の意味が分からないのか、首を傾げる純平。
「もうちょっと、分かりやすいように説明しなさいよ。てか、誰がおばさんよ!!!」
長四郎にヘッドロックをかける燐。
「お許しを、お許しを」
じゃれ合う2人を見て、純平と照美は大笑いする。
「そういう事だよ」
長四郎は大笑いする純平に向かってそう言う。
「え?」
その言葉に戸惑う純平に、長四郎は話を続ける。
「おじさんが望んでいるのは、復讐じゃない。お前らが笑って、立派な大人になることだ。
それに、復讐する必要はないと思うけどね」
長四郎の言葉通り、東は逮捕後世間からかなりのバッシングを浴び、違法な取材方法も明らかになりその余罪でも刑事、民事共に訴訟を起こされることになりその賠償金たるや相当な額らしい。
故に、社会的抹殺を文字通り当人が受ける結果となった。
「そうなの? おじさん」
照美が長四郎に尋ねる。
「ああ。だから、復讐なんて考えるな。お前達には、真っ白な未来が待っているんだからな」
「真っ白ぉ?」
純平は嫌そうな顔をする。
明るい未来とかそう言った言葉を期待していたのに、真っ白という言葉に不服なのだ。
「真っ白っていうのはな、型に縛られずどんな未来でも描いていけるそういう事。だから、俺の人生、復讐しかないなんていう型に自分から嵌める必要はないの。分かったか?」
長四郎は純平の頭を撫でる。
「やめろよ!!」
純平は嬉しそうにしながら、長四郎の手を振りほどく。
「じゃ、これからは笑って生きていけ。おっさんとの約束」
長四郎はそう言って、純平と指切りげんまんをする。
「私もぉ~」
照美とも指切りげんまんをした長四郎。
「さぁ、行って来い!!!」
長四郎のその言葉と同時に、純平と照美は駆けって行き遊んでいる子供達の中に混ざっていく。
「今回は、ありがとうございました」
純平達より先に報告を受けていた洋子が、2人に礼を言いに来た。
「いえ、それが仕事ですから」
長四郎はそれだけ言うと、その場から立ち去った。
「何、カッコつけてんの?あいつ」
燐は去っていく長四郎を見送り洋子に挨拶をし、遊んでいる子供達の輪に入っていく。
1ヶ月後
あの事件以来、燐が接触してくる事はなくなった。
長四郎は、本来の探偵稼業に専念していた。
只、ここ数か月、昔のように事件を解決していたので、心にぽっかり穴が開いたような感覚が拭えなかった。
この日も報告書を作成していると、どこか頭の片隅に燐の事がある。
「はぁ~」
キーボードを叩くのを止め、回転椅子を回転させ窓からの景色をぼぉーっと眺める。
あのじゃじゃ馬娘は、大人しく授業を受けているのか?
そんな事を思い巡らせていると、事務所のドアが開く音がした。
客かと思い、そちらの方を向くと燐が立っていた。
「久しぶり、髪切った?」
「切ってないわよ。それより」
長四郎はこの瞬間、嫌な予感がした。
「それより?」
「新たな事件の発生よ」
「マジかぁ~」
頭を抱える長四郎を他所に燐は長四郎の手を取り、現場に連れて行こうとする。
「いや、待て待て」
椅子にしがみつき離れようとしない長四郎を引き離そうとする燐。
「何よ。探偵料は払うから」
「そういう問題じゃないから」
すると、長四郎のスマホに一川警部から着信が入る。
「もしもし、今取り込み中なのですが」
「ラモちゃんがおるとやろ。早よ、来てよ」
「はぁ、分かりました」
そう言って、通話を切った長四郎は燐に嵌められたと思う。
「行くよ」
「はい」
燐に連れられ、事件現場に向かう。
「ねぇ、知っている?
今のあんたの肩書?」
「知らない」
不貞腐れながら、長四郎は答える。
「全く、何で知らないのかな」
「勉強不足で、すいやせん」
「探偵は女子高生と共にやって来る」
「は?」
「だ・か・ら、探偵は女子高生と共にやって来る。そう呼ばれてんの!! バカ!!!」
「バカはないんじゃない? バカは」
「うるさい!! あんたは、私に従って事件を解決すれば良いの!!」
「何て傲慢な女。嫁の貰い手ねぇぞ」
「やかましい」
燐は1人駆け出す。
「ちょっ、待てよ!!」
長四郎もまた駆けって、燐を追いかける。
長四郎は自分の新たな肩書・「探偵は女子高生と共にやって来る」に悪い気はしないと思いながら、新しい事件に挑むのであった。
完
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