異人-16

 絢巡査長がミシェルの取り調べの申請をしている間、暇な長四郎と燐が命捜班の部屋でお茶をしていると内線が入る。

「はい、こちら来々軒です」

 電話に出た長四郎の開口一番の台詞はそれであった。

「すいません。間違えました!」電話の向こうの女性が、慌てた様子で電話を切ろうとする。

「あ、嘘です。警視庁命捜班です。事件ですか?」

「ちょっと! 噓って何ですか!! 貴方、ふざけているんですか!!!」

 そこから5分程、長四郎は怒られた。

「すいませんでした。以後、気を付けます。それで、ご用件は?」

 涙声の長四郎が用件を尋ねる。

「あ、実はそちらの一川という男性が病院に搬送されてきまして」

「一川さんが病院へ搬送!?」

 長四郎の言葉を聞いた燐は咄嗟に椅子から立ち上がり、長四郎の反応を見守る。

「はい、はい。分かりました。直ちにそちらへ向かいます」

 病院の住所を控えた長四郎は、燐を見てこう言った。

「絢ちゃん、招集して行こう」

「分かった」

 燐はすぐさま絢巡査長に連絡を取り、絢巡査長と合流し一川警部が搬送された二度寝総合病院に向かった。

 絢巡査長は病院のロビーに入ってすぐ受付の女性に、一川警部の所在について尋ねた。

「あのすいません。こちらに一川という刑事が運び込まれたって聞いたんですけど」

「少々お待ちください」

 受付の女性がパソコンを操作し始めたその時、背後から「ここばぁ~い」と聞きなれた声がした。

 3人が振り返ると傷一つない一川警部が立っていた。

「一川さん、何かあったんじゃ・・・・・・」

「絢ちゃん、病院からどういう説明を受けたと?」

「どうって。一川さんが病院へ搬送されたって、長さんが」

 絢巡査長にそう言われた長四郎は突然、靴紐が緩んでいないかをチェックし始めた。

「うん、大丈夫そうだな」

「大丈夫じゃないわよ」燐はそう言いながら、長四郎の服の襟を掴み立たす。

「そんな事はさておき、一川さんが俺たちを呼んだのには理由がありますよね?」

「勿の論。ついて来て」

 一川警部にそう言われた3人は案内され、相部屋の病室へと入った。

 そこには、一川警部を襲った5人組が体中包帯だらけでベッドに横たわっていた。

「この人達は?」燐がいの一番に説明を求める。

「こん人達は、中村商会の回し者ばい」

「あ~やっぱり、役員の中村っていうのは」

「中村商会組長の中村に事やったと」

「あの、どういうことですか?」

 2人の会話についていけない燐は質問した。

「いや、長さんがベンガンサの中村っていう役員が居ってその身辺調査をして欲しいって。怖い系の人やと思うからあたしに頼んできたけん。調べたこうなった」

「はぁ」とだけしか返事しない燐。

「ラモちゃんの疑問が解決したところで、彼らから話は聞けました?」

「いや、こん人らは組長さんからの指示だけであたしを襲いに来たらしい。だから、ベンガンサについてはなんも知らん見たいやね。他の企業も似たような感じばい」

「大した手掛かりはなしか」つまらなさそうに言う長四郎。

「手掛かり?」燐が真っ先に食いついてきた。

「とある人物からの情報で、中村を調べたらどうですか? って、進言されてな」

「でも、大した情報はないじゃない」

「そうなんだよ。なんで、あんな事を教えたんだろ」

「知らないわよ。そんな事」

「ラモちゃん、ツッコむ所はそこじゃなくて。長さんに教えたのが誰かだと思うけど」

 絢巡査長のその言葉に「あ、そうですね。あんたにタレこんだのは誰なの?」と長四郎を問い詰める燐。

「教えてやっても良いんだが、ここで教えると情報提供者の危険が危ない」

 長四郎はそう答えながら、ベッドで寝ている男達を見る。

 男達は長四郎達の会話を聞いていたらしく、視線が長四郎達に向けられていた。

「何よ! 盗み聞きってわけ?」

 燐が憤慨していると、大人3人はこんな所で話している自分達が悪いのではという思いで怒りの矛先を向けられる5人組に少し同情した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る