帰国-10

 燐達、警視庁チームは14年前の事件現場へと来ていた。

「ここで事件が・・・・・・」

 燐は電柱の下に置かれている献花を観ながら呟いた。

「変ね。この付近で事件事故は無かったはずなのに」絢巡査長は不思議そうに献花を見る。

「そげな事より、事件当日の話をしてくれる?」

 一川警部は調書に書かれている事件当日の説明を求める。

「すいません。え~事件が起きたのは14年前の8月23日の午後22時頃。

被害者の福部 藤枝さん、18歳はアルバイトの帰り道に二人組の男に襲われている所を近所の住人が目撃し通報したことで事件は発覚しました。

警官が到着した頃には、男達は逃亡しており藤江さんは意識不明の重体でした。そして、搬送された病院で藤江さんの死亡が確認されました」

「なるへそ。それで、容疑者達の供述はどうなっとうと?」

「それが、記載されていないんです」

「記載されていない?」燐はすぐさま食いついた。

「そう。一切、記載されていないの」

 絢巡査長は調書のデータが入ったタブレット端末を燐に見せる。

「ホントだ」

 燐の言葉通り、調書の供述の欄が真っ白な状態であった。

「これどういう事だと思います? 一川さん」

 絢巡査長は一川警部にお伺いを立てると「そういう事だと思います」とだけ答える。

「そこに今回の事の鍵があると思うんですけど。どう思います? 絢さん」

 今度は燐が絢巡査長にお伺いを立てる。

「私もラモちゃんの意見に同意するわ」

「うしっ!」小さくガッツポーズを取る燐。

「まぁ、あたしらは事件の外堀を調査していくばい」

「どうしてですか?」燐は食い下がる。

「そこら辺の事は、容疑者周辺の捜査をしている長さん達に任せておいて大丈夫やけん」

「分かりました」不服そうに返事をする燐であった。

「じゃ、お次は容疑者が確保された所に行くばい」

 一川警部のその言葉と共に三人は、近くの運動公園に移動した。

 昼間の公園なので、ジョギングするご婦人や小さい子供を連れた親子連れが細々とジョギングをしたり遊んでたりしていた。

「この公園のどこで確保されたと?」一川警部の問いに絢巡査長は中央の噴水を指差し「あそこです」と答える。

「当時の状況は?」

「はい。通報後、付近を巡回していた捜査員に見つかり服に血が付いてたので、職質したところ犯行を認めたようです」

「そう」素っ気ない感じで返答する一川警部。

「ここで何をしていたんだろう?」

 燐は感じた疑問を率直に述べる。

「そうねぇ~ここで男二人口論していたと書いているわね」

「口論・・・・・・・」

 燐は何か引っかかるといった顔で噴水を見上げる。

 一方、長四郎と勇仁は良器が社長を務める会社の本社ビルを訪れていた。

「あの社長の賀美 良器さんはいらっしゃいますか?」

 受付の女性に良器の所在を聞くと「少々お待ちください」と言われ内線で確認を取ってくれた。

「社長の賀美は居りますが、只今、会議中です」

「会議だってよ。どうする勇仁?」

「そうだな。君、これからお茶しない?」

 まさか自分がナンパされるとは思っておらず、「はい?」と聞き返す。

「いやだから、お兄さんたちとお茶しない?」再びお茶に誘う勇仁に「仕事中なので」きっぱりと断りを入れる。

「ダメみたいだぜ。俺の勝ち」長四郎は不敵な笑みを浮かべる。

 長四郎と勇仁はここに来る前にどちらかがナンパをし、失敗した場合、夕飯を奢るゲームをしていた。

「負けたよ。またね」勇仁は受付嬢にそう告げ、エレベーターホールに向かって歩き、そのまま上階に上がるエレベーターに乗って社長室がある階へと移動する。

「なぁ、本当に最上階に社長室はあるのか?」長四郎はエレベーターの階層を見ながら勇仁に話しかける。

「こういう大手企業の社長室は最上階にあるって、相場が決まってるんだよ」

「そうか」

 エレベーターは最上階に着き二人はエレベーターを降りて、同じ方向に歩き出す。

「な、あったろ」

 そう言う勇仁の目の前には、社長室と書かれたドアがあった。

「ホントだな」

 長四郎はそう言って、ノックもせずにドアを開ける。

 すると中で驚いた表情でこちらを見る良器の姿があった。

「先日はどうも」長四郎は部屋に入り勇仁もそれに続いて入る。

「急に何ですか?」不機嫌そうに用件を聞く良器。

「事件解決の為に、貴方の力をお借りしたい」

「私の力ですか?」長四郎の言葉の真意が読めず困惑する良器に勇仁は補足説明を入れる。

「良器さんよ。今、会社での立場が怪しいんじゃないか?」

「どうして分かるんですか?」

「社長が殺人事件の前科持ちかもしれないんだ。株主も黙っちゃいないだろ?」

「その通りです」

 事実、習子が逮捕されたとの報道がされて以来、良器の勤める会社の株価は下がり続ける一方であった。

「もし、こうなるように仕向けた奴がいるとしたらどうです?」

「そいつの心当たりはあるんですか?」

「勿論、ありますよ」長四郎が勇仁よりも先に答えた。

「それで、私は何をすれば?」

 そこから長四郎はこれからの指示をする。

「分かりました。背に腹は代えられない。宜しくお願い致します」

 良器は長四郎達の提案の全貌を聞き、苦渋の決断した面持ちで了承した。


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