帰国-11
長四郎と勇仁は良器の会社を後にし、今度は情報提供者の蒼間の会社を訪れる。
良器の時とは違い、受付で社長の面会がすんなりと通った。
まるで、長四郎達が来るのが分かっていたかのように。
そして今、社長室で蒼間から14年前の事件当時の話を聞いていた。
「事件当夜、貴方と賀美氏が発見された噴水で口論をしていたらしいですけど。何を口論していたのでしょうか?」長四郎は杉下右京のような口調で質問する。
「それが今回の事件に関係あるんですか?」
まさかの質問に、蒼間は怪訝そうな表情で質問を返す。
「そういう細かいところが事件に繋がる可能性があるんですよ」勇仁はすかさずフォローを入れる。
「そうですか。あの時、私が彼に自首するように促していたんですよ」
「自首ですか」
「そうです。自首です。あの女性を殺したのはあいつなので。
あの夜、私達は酒を飲んでいましてね。酔った勢いであいつが女性にナンパをしまして、私は止めていたんですけど、あいつはしつこく食い下がって大変だったんですよ」
「それで、どうして
核心をつかない蒼間に長四郎はズバッと話を切り込む。
「それは・・・・・」言葉に詰まりながら蒼間は続ける「女性が断った事に、あいつが逆上したんです。昔から怒り出すと見境が無くなる所があって、そのまま殺しちゃったんです。私が抑え込んだ時には、女性は動かなくなってました」
「成程ね」勇仁は興味なさそうに耳をほじりながら蒼間の話に頷く。
「それで気が動転して、その場から逃げたんです」
「で、我に返った時、賀美氏に自首を促した?」
長四郎の問いに、ゆっくりと頷いて同意する育哉。
「じゃあ、今度は俺から良いかな?」勇仁はそう前置き「事件現場に置いてある献花について何か知っている?」と質問した。
「え? ああ、あれは私が毎月、月命日に献花しているんですよ」
「そうでしたか。そうでしたか」長四郎はニタニタしながら相槌を打つ。
「それが事件と関わりがあるんでしょうか?」
「大いにありますよ。事件現場に献花している貴方に成り代わって容疑者の女性に接触した可能性がありますからね」
「そういう事ですか」蒼間は納得したと言った感じでソファーに身体を預ける。
「では、我々は賀美氏の裏付けに戻りますので。失礼します」
長四郎は蒼間にそう断り、勇仁と共にその場を後にした。
蒼間は長四郎達が出て行ってすぐに蒼間刑事部長へと電話をかけた。
「おじさん。今、例の探偵が来た」
「どうだった?」
「こっちの都合通り、動いている感じですかね」
「そうか。なら、良かった」
「これもおじさんの知恵のおかげです」
「おだてても何も出ないぞ」
「それは困りましたね。良かったら、今夜食事でもどうですか?」
「じゃあ、招待に呼ばれようかな」
「では、今夜の20時にいつもの場所で」
「ああ」
そこで通話が切れた。
「だって。どうする? 長さん」
勇仁は長四郎とイヤホンを恋人のように共有しながら、蒼間と蒼間刑事部長の会話を盗聴する。
長四郎は社長室を出る前に、応接テーブルの下に盗聴器を仕掛けたのだ。
「いつもの場所とやらにご相伴を預かりますか」
「そうするか。でも、20時まで時間あるな」
勇仁の腕時計は15時を示していた。
「マジか。どこかで、お茶するか」
「いいねぇ~」
二人は、近くのオープンテラスがある喫茶店に場所を移した。
「なぁ、蒼間と話してみてどう感じた?」勇仁は長四郎に感想を求める。
「胸糞悪かった」そう一言だけ返し、カフェオレを口に入れる。
「胸糞悪いか。同感だな」
「お待たせしました」という言葉を二人に掛けながら、燐は長四郎の隣に座る。
「待ってないけど。調べてきたこと話して」
「それどういう意味よ!」長四郎の耳を引っ張りながら嚙みつく。
「長さん、可哀想」
勇仁が長四郎の身を案じていると、燐は勇仁を睨み付ける。
「何か言いました? お爺様」
燐はそう言いながら長四郎の耳を思いっきり引っ張り上げる。
「痛い。痛い。ラモちゃん、放してっ」目に涙を浮かべながら、長四郎は懇願する。
「あ、ごめん。ごめん」燐はその手を放す。
「で、どうだったの?」
長四郎は引っ張られた耳を撫でながら、再度、燐に報告を求める。
「そうね。疑問しか湧かなかったっていうのが感想かな。だから、その疑問をメッセージで送ったでしょ」
「その疑問だけど、献花している人物は分かったよ」
「誰?」
「蒼間 育哉。本人がそう言っているんだから間違いはないと思うぜ」
尋ねられた長四郎ではなく勇仁が答える。
「そうなの?」長四郎に確認すると「ああ」とだけ答えた。
「ふーん」詰まらなそうに答える燐。
「因みに、噴水で口論していたのは蒼間が良器に自首を促していたんだと」長四郎はもう一つの疑問の解答を燐に伝える。
「そうだったんだ」燐は一人納得する。
「それで命捜班の二人は今、何しているの?」勇仁は燐に尋ねた。
「絢さん達は今、警視庁本部で事件の報告をしに戻りました」
「そうか」そう返事し、長四郎にアイコンタクトで勇仁は何かを伝える。
「なぁ、ラモちゃん。今日の捜査はもう終了してさ、明日また一川さん達と調べて来て欲しいことがあるんだけど」
「またそれ、私もそっちに混ざりたいんだけど」
「それは明日のラモちゃん次第にかかっているかな」
「分かった」燐は渋々、了承した。
「じゃ、宜しく」
「で、これからお爺様達は何するの?」
『秘密』
長四郎と勇仁は二重唱で即答するのだった。
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