オニ-6

「近所の不良との事ですが、もう捕まえとうとですか?」

 一川警部に「はい」と即答する木谷田課長。

「不良って事は、グループって事ですか?」

 長四郎の質問に木谷田課長は不機嫌そうに「ええそうです。人数は三人。と言ってもゴミどものいう事ですから、大方仲間を庇っているんじゃないでしょうかね」と答えた。

「では、取り調べの結果を聞きに帰らなければなりませんので、失礼します。行くぞ。齋藤」

「はい」

 齋藤刑事を連れて、部屋を出ていった。

「あーあ、行っちゃった」長四郎は回転椅子に座り自身の身体をクルクルと回しながら言った。

「にしても、不良って言うのが気になりますね」

 絢巡査長は自分専用のマグカップにコーヒーを注ぎ入れる。

「全くばい。大人数やったとしたらダイイングメッセージなんて残せないと思うんやけど、長さんはどう考えとうと?」

「そうですねーあれからダイイングメッセージの意味を考えた結果、「どうり」という文字の意味は「同僚」を指すのではないかと」

「同僚? 誰の事やろ?」一川警部は首を傾げて、心当たりのある平凡の同僚を考える。

「まぁ、被害者の知り合いに「どうり」という人物がいるかもしれないので何とも言えませんけどね」

「じゃあ、絢ちゃん。平凡さんのお知り合いに「どうり」と言う名前が入っている人物を探してきてくれんね」

「はい。分かりました」

 絢巡査長は一気にコーヒーを飲み干すと部屋を後にした。

 その仕草を見て長四郎は「うわー寺脇みたい」と呟いた。

「で、残された長さんはどうすると?」

「さぁ、どうしましょうかねぇ~」

 天井を見上げようと顔を上げると目の前に燐の顔があった。

「うわぁ!!」素っ頓狂な声を上げ、長四郎は椅子から転げ落ちる。

「なぁ~んで、私の事を見て驚くかなぁ~」燐は笑みを浮かべながら、ゆっくりと長四郎に近づく。

「い、いや今日も可愛いお顔だな。そう思いましてね」

「ふ~ん。私ってさ、相手の匂いで相手が噓をついているか分かるんだよね」

「へ?」戸惑う長四郎の匂いを嗅ぐ。

「うん、この匂いは噓をついていない。そんな匂いだ」

「ほぉっ」うまく切り抜けられた長四郎はそう思ったが、「この匂いは噓の匂いだ! 今、お前は噓の匂いをだした!」燐は長四郎の真横で怒鳴りつける。

「それやっていて、楽しい?」

「うん」燐は頷く。

「じゃ、長さんはラモちゃんと共に行動するっていう事やね。了解したけん。気をつけてね」

「一川さん、何勝手に決めているんですか!!」

「じゃ、お借りしまぁ~す」燐は長四郎の首根っこを掴み部屋から引きずり出されるのだった。

「結局、いつものパターンか」

 一川警部はぎゃんぎゃん喚き散らす長四郎を見ながら、パソコンの電源を入れるのだった。

 警視庁から引きずり出された長四郎は、燐に首根っこを掴まれたまま燐が住むタワマンへと移動した。

 広いリビングに通された長四郎はソファーに腰を降ろす。

「部屋綺麗にしたまんまみたいで、安心した」

 長四郎はリビングを見回しながら感想を述べる。

「あんたは私の保護者かなんか?」

「保護者って・・・・・・・学校をサボって警視庁に出入りする女子高生の保護者なんて御免だね」

「あんた、自分が失礼な事言ってるの分かってんの?」燐はお茶が入ったコップを長四郎に出す。

「うん!!」無邪気な子供のように頷いて返事をする。

「はぁ」手で顔を覆い呆れる燐。

「それで、そろそろ聞かせて欲しいな。俺に何の用?」

「何の用って。例の会社員の事よ」

「会社員? ああ、血生臭いって言っていた会社員のことか」

「そうよ」

「どうして欲しいの?」

「それはこっちのセリフよ。今、追っている事件と関わり合いがあるんでしょう? 川尻って男」

「誰に聞いたのよ。それ」

「ということは図星って事か」

「チっ!」上手いこと載せられた悔しさの舌打ちをする長四郎。

「ふっ、私に誤魔化しなんて聞かないわよ」

「へい。参りました」

 長四郎は頭を下げて観念する。

「では、話を戻すわね。あんた的には川尻は事件に関わっていると思っているの?」

「候補の一人ではあるかな」

「候補の一人?」

「そこまでは知らんのかい」

「説明を求めます」燐は挙手して事件の概要の説明を求める。

「八王子の廃工場でサラリーマンの刺殺体が発見されたの。そのサラリーマンの勤務先が並外商事。そんで、遺体の側に「どうり」という三文字のダイイングメッセージが書き記してあったわけ」

「うんうん」

「俺達はそのダイイングメッセージが事件解決というか、犯人に繋がる可能性があると考えているわけなんだけど」

「けど?」

「所轄署はそうは考えていないみたいでな。廃工場に出入りしていた不良が犯人つーことで今、搾り上げられているらしい」

「へぇ~」話に飽きて来たのか適当な返事をしながら、燐は長四郎が飲むはずのお茶に口をつける。

「おい、飽きたって顔するなよ」

「べ、別にそんな顔をしてないんだからね!!」

「そんな可愛くないツンデレはいらない」

「なっ!」

「では、話を戻そう」どこかの芸人みたいなことを言い長四郎は話を続ける。

「それで俺達は「どうり」の文字が「同僚」を示すのではないかと考えたわけ。とはいえ、名前の可能性もあるから絢ちゃんに確認してもらっているところ」

「じゃあ、私達はその同僚が誰なのかを突き止めなくちゃいけないわけね」

「そう」

 そう返事する長四郎はのどに渇きを感じ出されたお茶を取ろうとするが先程、燐が口を付けていたことを思い出し辞める。

「その同僚が川尻だと思っているわけ」燐の問いに長四郎は黙って頷いた。

「決め手は?」続けざまの問いに「微かだが、川尻から血生臭い匂いを感じたから」長四郎はそう答えた。

「やっぱり、私の言っていた事は間違いじゃなかったんだ」

「悔しいがそうなるな。でもな、動機が見えない。被害者をわざわざあんな廃工場に連れ込んで殺す理由が」

「恨みでもあったんじゃない?」

「いや、あいつと話してみてそんな感じはなかった。寧ろ、警察が来るのを見越して自分自身が応対している感じだった」

「計画的犯行ってことかな?」

「それも分からん。だが、あの男が事件に関わっている事は間違いないと思うんだがな。

つーか、何か飲み物くれない? 俺、飲み物くんない?」

「はい」燐は自分が口を付けたコップを差し出す。

「なんで、ラモちゃんが口付けた物に口付けなきゃならんの。汚い」

「汚い」その一言がまずかった。

 長四郎は燐の怒りに触れ、お茶を貰う前に燐の拳を貰うのだった。

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