仲間-14

 長四郎達は、絢巡査長が寄越した刑事に事情を説明しその場を後にした。

「今度は、どこ行くの?」

 取り敢えず、歩を進めながら燐は長四郎に質問する。

「分からん!! が、河合は探す」

「行き先も分からないのにどうやって探すのよ」

「あれはどう見たって、一人で行えるもんじゃないでしょ」

「それはそうだけど。協力者分かってるの?」

「少なくとも、夜逃げ屋本舗ではない事だけは確かだな」

「そういう業者でもあるの?」

「夜逃げ屋本舗も知らんとは、俺ってジジィなのか?」

「十二分にジジィよ」

 燐は行き先も分からないまま、長四郎の先を歩いて行くのだった。

 そうして、辿り着いた先は河合の地元・町田であった。

「さ、調査にかかるぞ」

 ストレッチをしながら、長四郎は気合を入れる。

「なんでストレッチしてるの?」

「探偵というのはね、自分の脚が物を言うのよ。探偵学校の安西あんざい先生がよく言ってた」

「その人は実在する人?」

「勿論、実在するよ。俺の師匠みたいな人だもん」

 そんな話を聞いた燐は、安西先生という人物に会いたくなってみたくなる。

「ふ~ん、そうなんだ」

「そうなんだって。そんな事より聞き込み行くぞ」

 長四郎は自分の顔をパンパンっと叩き、聞き込みを開始する。

 それから二時間近く経過し、長四郎と燐は小さな公園で休憩していた。

「全然手がかり無しなんだけどぉ~」

 燐はベンチに座りながら、すらりと伸びる長い脚を揉んでマッサージする。

「二時間ちょっと歩いただけで、音を上げるなんてまだまだだね」

「でも、収穫無しなんだから仕方ないじゃん」

 二手に分かれて、町田萬侍苦巳が抗争していたグループについて貴島、河合と同世代の人間から話を聞くのだが数々の逸話が残さており、終いにはチャイニーズマフィアと血と血で争う激しい抗争を繰り広げたなどのあきらかに噓であるような話まで飛び出す始末で燐は困り果てていた。

「あんなほら話まで聞かされた私の身にもなってよ」

「俺も数々の話を聞いたぜ。貴島が一人で百人もの暴走族チームを潰しただとか、新垣が捕らえられた磯部を助けに行くために仲間の制止振り切って助けに行ったやら、貴島と新垣はタイムリープしまくって今現在を作り出したとか」

「なんか、漫画みたいな感じの話だよね」

「事実は小説より奇なりという言葉もあるから、あながちホントの話かもしれない」

「まっさかぁ~」燐は眉を上げ長四郎の言う事に訝しむ。

「まぁ、腹も減ったことだし、近くに美味しい町中華の店があるんだって。飯食おうや」

「町中華か。太っちゃうなぁ~」

「何、言ってんだ? 週七でフードデリバリーを頼む女が」

「そんな事ないし! あんたにご飯作ってあげてるじゃん!!」

「へいへい」とだけ返事し、町中華に向かって歩き始める。

 だが、長四郎の歩みはすぐに止まった。

 その理由は、背後から飛び蹴りがお見舞いされたからであった。

「痛ってぇ~」

 自分の背を擦りながら、長四郎は頼んだあんかけチャーハンと餃子を待つ。

「自業自得よ」

 燐は酢豚にパイナップルを口に入れる。

「自業自得ってね。痛たたたたた」

 反論する度に、長四郎は背中が痛むので苦労する。

「良い罰よ」

「お客さん、背中汚れてるよ」

 店の看板おばちゃんがそう言いながら、長四郎の背中をパンパンっと叩く。

 その瞬間、長四郎の絶叫が店に響き渡る。

 それから少し時が経ち、痛みが和らいだ長四郎は少し元気を取り戻し頼んだあんかけラーメンと餃子を美味しそうに頬張っていた。

「ラモちゃん、さっきのおばちゃんに聞き込みして」

「え? あのおばちゃんに聞いても意味ないと思うけど」

「良いから、聞くっ」

「あのぉ~すいませぇ~ん」

「はい」

 燐に呼ばれたおばちゃんは燐達が座るテーブル席へと来た。

「あの、町田萬侍苦巳っていう暴走族はご存知ですか?」

「ああ、あいつらね。よく知ってるよ」

「え! あ、あのその人達と抗争していた県外を拠点とするグループをご存知じゃありませんか?」

「そうねぇ~潮見の所かな?」

「潮見?」

「そう、潮見。と言ってもグループの名前だけどね」

「はぁ」

「その人達も萬侍苦巳に吸収されたんすか」長四郎はそう聞いてからあんかけラーメンをすする。

「私もそこまではねぇ~それがどうしたの?」

「いえ、少し気になった物ですから」燐は愛想笑いで誤魔化す。

「潮見ってどこの県の人達?」

「神奈川の湘南」

「湘南ね」長四郎は一人頷いて納得する。

「ありがとうございました」燐はおばちゃんに礼を言い席から離そうとする。

「あ、おばちゃん。追加注文でチャーハンとレバニラ」

「あいよっ!! チャーハンとレバニラァ~」

 おばちゃんはでかい声で、厨房に注文を通すのだった。

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