仲間-13

 翌日、長四郎と燐は夏月産業本社ビルに来ていた。

 今回の目的は、夏月会長ではなく星野静に会う為であった。

「今日は、会長は不在ですが」

「いえ、今日はあなたに用があってきたんですよ。静さん」

 長四郎は訪問理由をストレートに伝えた。

「私にですか?」自分に用があると言われ少し驚く静に長四郎は質問を投げかけた。

「実は、この二人の男性の事を知ってますでしょうか?」

 貴島と磯部の顔写真を静に見せた。

「存知・・・・・・上げないですね」

 少しの間と共に、静の返答が返ってきた。

「そうですよね。大変申し訳ありませんでした」

「あのその二人が犯人何ですか?」今度は静が質問してきた。

「そうではなくて、長部さんの事件の際に現場付近で目撃された不審人物の二人なんです」

「そうでしたか」

 どこか安堵した表情を見せる静を、長四郎と燐は見逃さなかった。

「もし、会長の周りでこの二人を見つけた場合は連絡ください」

「分かりました。注視しておきます」

「宜しくお願い致します」

 長四郎がそう言ったと同時に、長四郎と燐は頭を下げる。

「では、私は会長のスケジュール調整がありますので。これで」

「あ、お忙しい中、お話を聞いて頂きありがとうございました」

「失礼します」

 静はその場から立ち去っていった。

「もう少し、突っ込んだこと聞かなくて良かったの?」

 静の姿が見えなくなってから、燐が話しかける。

「聞いても濁されるだけだし、この前みたいに怒られたいの?」

「それは勘弁だわ」

「でっしょぉ~」

「これからどうするの?」

 燐にそう聞かれた長四郎はスマホで時刻を確認し、喋り出した。

「トラベル弁当の河合に会おぉ~」旧ドラえもん風の声で高らかに宣言する長四郎。

「分かったよ。出木損内できそこないくぅ~ん」

 燐もまた旧ドラえもん風の声真似をしながら、売店へ向けて歩き始めた。

「出来損内って・・・・・・・俺の事か?」長四郎は自分で自分を指差し自問自答するのであった。

 売店に行くと、おばちゃんが嬉しそうに二人を出迎えた。

「いらっしゃい。今日は何を聞きに来たんだい?」

「おばちゃんじゃなくて、あの弁当屋の兄ちゃんに用があってきたんだけど」

「ああ、昨日から休み貰ってるって言ってたわ。だから、今日は別の人間がここに配達に来るよ」

『マジで!?』二重唱で驚愕する長四郎と燐に対して、おばちゃんは冷静に「マジで」と答えた。

「ラモちゃん、行き先変更だ」

「ありがとう、おばちゃん」燐は礼を言ってその場から立ち去ろうとする。

「最後に一個だけ」と前置きし「いつまで休みとか聞いてる?」と長四郎は質問した。

「そこまでは聞いてないね」

「分かった。ありがとう」

 長四郎と燐は、トラベル弁当へと向かった。

 前回来た時に応対してくれたおばちゃんから、河合が退職した事を聞いた二人は河合の住所を聞き出し住んでいるアパートへと移動した。

 河合が住んでいたアパートは、トラベル弁当の工場から徒歩10分の距離にあった。

「ここね」

 燐はそう言いながら、アパートの敷地内に入り部屋の前に移動すると隣にいた長四郎の姿がない。

「あれ? どこ行ったんだろ?」

 燐は辺りを見回しながら長四郎を探していると、管理人を連れて部屋の前に来た。

「お願いします」

 長四郎は管理人にそう言うと、管理人は軽く会釈をし部屋の鍵を開けようとするのだが逆に鍵をかけてしまう。

「あれ?」管理人は首を傾げてもう一度、鍵を開ける。

「ありがとうございました」

 長四郎は礼を言って、ドアを開け中に入る。

 部屋の中は、一部の家具や家電製品を除いて部屋から持ち出された形跡があった。

「これって、もしかして・・・・・・・」

「夜逃げだな」燐の言いたいことを代弁する長四郎。

「借金でもあったのかな?」

「んなわけないだろう。督促状的なものが見当たらん」

 長四郎は残った家具の中を漁りながら、燐の考えを否定した。

「じゃあ、夜逃げする理由って他にあるの?」

「口封じの為に、夜逃げさせたんだろうな」

「ちょっと待って。その話だと河合が殺したみたいじゃん」

「そうだな。実行犯の一人じゃないかと俺は踏んでいるんだけどな」

「今回は複数犯って事?」

「じゃなきゃ、二人もタイミングよく殺せないよ」

「そうなの?」

「そうなのぉ~」

 長四郎はそのまま絢巡査長に電話する。

「絢ちゃん、重要参考人が逃亡した」

 長四郎は電話に出たばかりの絢巡査長にそう話を切り出した。

「うん、うん」相槌を打ちながら絢巡査長の指示を聞く長四郎を他所に、燐は部屋のあちこちを物色する。

「分かった。そうさせて頂きまぁ~す」

 長四郎は絢巡査長にそう告げ、通話を終了した。

「という事になったから」

 燐の方を向くと、当の本人は「どういう事になったのよ?」と言いながら一枚の写真を見ていた。

「何、見てんの?」長四郎は燐が見ている写真を覗き込む。

 その写真には、暴走族現役時代の河合とスーツ姿で肩を組む新垣の写真であった。

「なんか、変だよね。この写真」

「そうか。仲睦まじい写真じゃない」

「変だよ。なんで、暴走族とサラリーマンが仲良く映ってるのよ」

「いや、この新垣だって元は族なわけだし地元が一緒だったら接点はあるだろう」

「そうなのかなぁ~」

「そんな事よりさ、この部屋に鑑識来るから元に戻して」

 長四郎はそう言って、燐が持つ写真を取り上げて元々入ってあっただろう引き出しに写真を戻した。

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