過去-4

「以上の理由で、物取りの線は薄いと言うのが僕の推理です」

 長四郎は玲に自分の推理を説明した。

「そうですか。でも、目撃証言が取れているので君の推理は当てにならないからここから立ち去りなさい」

「失礼ですが、その証言者の方って複数ですか?」

 長四郎の質問に「1人ですけど何か?」と渋々答える玲。

「1人だけですか?」

「そうですけど。何か?」玲は眉を寄せる。

 そんな険悪な雰囲気の2人を見て、一川巡査部長はただならぬ雰囲気を感じとる。

「その人に会わして頂けませんか?」

「その必要はないと思います。お引き取りを」

 玲はきっぱりと長四郎に言い放つのだが、長四郎も引き下がらず食い下がる。

「そんな事で、この事件を迷宮入りさせて良いんですか?」

「素人のあなたに何が分かるの!」

「プロのあんたがポンコツだから、アドバイスしてやってんだろ!!」

 長四郎と玲が面血を切りあい始めたので、一川巡査部長は慌てて2人を引き離す。

「わぁ~った。お2人さん、目撃者から話を聞きましょう。それで良かね?」

 一川巡査部長の提案に納得した長四郎と玲は、『分かりました』とまだ面血を切りながら返答した。

「目撃者の稲垣いながき けいさんです」

 玲に紹介された稲垣は、長四郎と一川巡査部長に軽い会釈する。

「あの不審な人物を目撃されたとの事ですが、どのような人物だったんですか?」

「亡くられた剛田ごうだ 恒造つねぞうさんがトイレに行かれてから、間もなくして覆面姿の男が走り去って行ったんです」

 制服姿の高校生に質問された稲垣は、少し戸惑いながらも答えた。

「そうですか。でも、僕はそんな人物見ていないんですよね」

 長四郎の思いもよらぬその一言に、その場に居た全員が目を見開いて驚くのだった。

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