GW-8

 実験を終えた長四郎は、燐と絢巡査長に別の任務を任せ一川警部を伴って事件を担当している所轄署へと来ていた。

 一川警部が所轄署の刑事に話を通し、現時点での捜査資料を貰い空き会議室で資料を読む。

「どう?」

 隣で出された珈琲を飲んでいた一川警部は、成果があったか確認する。

「そうですね。犯人の目星はつきました」

「それは良かった」

「でも、証拠がないというのが苦しいですね」

「そうなの?」

「そうですよ」

「証拠ならあるじゃないですか」

 二人が振り向くと意識高い刑事が立っていた。

「まだ、ラモちゃんが犯人だと考えているんすか?」

 長四郎は、うざって~よと思いながら再度、考えに変更がないか確認する。

「それ以外、考えられません」

「確かに、物的証拠では優位ですもんね」

「はい」

「ちょっと、お聞きしたいんですが」

「何でしょう」

 長四郎に近づき要件を伺う。

「ここなんですけどね」

 長四郎が指した箇所は、ツアー客の証言であった。

 その証言というのは、ツアー客の1人が21時頃にツアーガイドの個亜田がバーから数分、姿を消していたというものであった。

「これ犯行時刻間の出来事ですよね。その間、何をしていたか聞き込みしましたか?」

「大方、トイレに行っていたんでしょう」

「ふ~ん、つまり聞いていないというわけか・・・・・・」

「気になる事あると?」

 ここで一川警部が口を開く。

「まぁ」

 一川警部と長四郎の会話に腑に落ちない意識高い刑事。

「まさか、ツアーガイドの個亜田広子に聞き込みを行う気ですか?」

「そうですけど」

「捜査の邪魔をしないでください!」

 普段、感情を殺しているので警視庁が新たに開発したロボットとだ思っていた意識高い刑事が感情を爆発させているので少し驚く長四郎。

「いや、邪魔なんて滅相もないよ」

「あんたら親しい人間が容疑者だからって、庇いたくなる気持ちは分からなくもないが犯人を取り逃しても良いのか!?」

「本当に犯人だったらの話ですがね」

 長四郎は何のそのといった感じで、意識高い刑事に反論する。

「分かりました。そっちがその気ならこちらにも考えがあります!! 監察に報告させて頂きます」

「か、監察!?」

 素っ頓狂な声を上げる一川警部。

「では、失礼します」

 意識高い刑事はそう言い放ち、会議室を後にした。

「長さん、あたし警察クビになるかもしれんばい」

「そうですね」

「何よ、素っ気ない感じ」

 一川警部を無視し、長四郎は捜査資料を真剣な面持ちで読み込んでいる。

「他に気なる所でもあったと?」

「犯行時刻とされている21時20分頃に風原行美と個亜田広子が部屋に行っているんですよ」

「つまり・・・・・・」

「この間に犯行が行われたと考えるのが妥当でしょうね」

「そうやね。でも、捜査本部はその線で捜査してないのが不思議やね」

「部屋に入れない事に気づいて引き返したと言っていますね」

「ラモちゃんの部屋の近くって、防犯カメラ設置してあったけ?」

「え~っと」

 そのことが記載されているぺージを探す長四郎。

「ありませんね」

「それやったら益々、クロに近くない?」

「そうですね。

それとバーでの吞み放題が開始されて30分で被害者の中尾襟が、酔いつぶれて個亜田が部屋に連れて行ったと証言しています。

これ酔いつぶれていたって言ってますけど、何か飲まされたんじゃないかのではないかと」

「それ、確認できるかな?」

 長四郎のその発言を受け、慌てて一川警部は監察医務院に電話する。

 運よく中尾襟の遺体はまだ残されており、行われていなかった血液検査を頼む。

「これで、何か出れば良いけど」

「出るんじゃないですか? 多分」

「やと良いんだけど。仮に何かを飲み物に仕掛けられていたとして、なんで部屋に連れて行った際に殺さんかったんやろ?」

「その時はまだ被害者に意識があったとからじゃないですかね。

で、20分後に風原行美が部屋に行ってまだ意識がったのかもしれません。

かなり計画的な犯行ですね。

殺さないにしても相手がなるべく抵抗できない状態で殺害したいというのが、計画犯の心理じゃないですか?」

「そうやね」

「死体には防御層はありましたけど。激しく抵抗できなかったのではないかと」

「そこまで、考えていると?」

「まぁねぇ~でも、全部俺の憶測ですから」

「安心せんね。あたしが長さんの憶測がほぼ的中するのは分かっとるけん」

 その時、一川警部のスマホに着信が入る。

「絢ちゃん、どうしたと?」

 相手は絢巡査長らしい。

「うん、うん。分かりました。ありがとう。は~い」

 通話を終了した一川警部は長四郎の方を見て報告する。

「長さん、絢ちゃんがとんでもない収穫を持ってきたばい」

「ほぉ」

 長四郎は手を顎に当て擦りながら、一川警部から得た大まかな情報を聞くのであった。

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