GW-9

 翌日、長四郎達四人は、吉川プリンセスホテルの事件現場の部屋に推理もの恒例の推理を披露する個亜田広子、風原行美、意識高い刑事の三人を集める。

「どうも、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。

私、熱海探偵事務所の熱海長四郎と申します」

 長四郎は初めて会う個亜田、風原に名刺を渡し自己紹介する。

「あんた、探偵だったのか・・・・・・」

 意識高い刑事はそれまで、一川警部に引っ付いている腰巾着の刑事だとばかり思っていたので驚くと同時に、公務執行妨害でしょっ引けるとも思う。

「はい。そうでゲスけど。

事件の話をしても?」

「ああ、どうぞ」

 取り敢えず、しょっ引くのは話を聞いてからでも遅くはないかと意識高い刑事は考え、長四郎の推理に耳を傾けることにした。

「担当直入に申しますと個亜田さん、風原さんあなた達2人が中尾襟さんを殺害した犯人です」

「犯人はこの女子高生だろ!」

 燐を指して長四郎の発言に食いつく意識高い刑事。

「何を証拠にといった感じですね」

 意識高い刑事を無視し、個亜田、風原両名にそう言うと二人揃って頷く。

「貴方達、旧知の知り合いですよね?」

『違います!!』2人揃って否定する。

「そうですか。ではこれは何ですか?」

 絢巡査長がとある写真のコピーを三人に渡すと、個亜田、風原の目が見開く。

 その写真は二人の学生時代の写真であった。

「私達が知り合いだったら何だっていうんですか!?」

 開き尚なった風原が長四郎を怒鳴りつける。

「怒るにはまだ早いと思いますけどね」

 冷静に諭す長四郎。

「あの私達が知り合いなことが、なぜ、中尾さんの殺害に繋がるんですか?」

 ここで初めて個亜田が発言する。

「良い質問ですね。実はこの刑事さん達にあなた方の過去を調べてもらったんです。

その時にピンっと来たものがありましてね。

個亜田さん、貴方のお姉さん、10年前に死亡事故で無くなっていますよね?」

「それが何か?」個亜田は眉を上げ、昔の事を掘り返すなと言わんばかりの表情を浮かべる。

「昨晩、その事件の捜査資料を読み明かしていたんですけど。どう考えても中尾さんが犯人としか思えませんでした」

 個亜田広子の姉のさきは10年前、水泳部の部活動練習中に大学構内の屋内温水プールで溺死した。

 原因は飛び込みに失敗してプールの底に頭をぶつけてしまい、そのまま意識を失い溺れ死亡した。

 その時の状況が、事故というにはあまりに不可解であった。

 生徒を指導する顧問が不在かつ部員全員が飛び込み台の上に居たのだ。

 アクシデントが発生しても、下で助けに行く者が不在の状態。

 最初に飛び込んだのが咲、その次に飛ぶのが中尾襟であった。

 その為、咲の一番近くに居た人間なのだ。

 早い話が、中尾襟が咲を突き落としたと考えられるわけだ。

 もちろん警察も捜査したが、部員全員で口裏を合わせて隠蔽し、警察もその証言を鵜吞みにして事故として処理した。

「そうですか・・・・・・」個亜田は、下を向いて頷く。

「この事件の動機は、その殺人事件の復讐です。風原さんは大方、お手伝いといった感じでしょうか」

「それは・・・・・・・」

 風原はいらぬことを言いそうであることを自覚し、口を閉じる。

「聞いて良いか? 犯行時刻に鍵を開けたのは羅猛燐が使用していたルームキーだ。

それに凶器からも彼女の指紋が検出されている。

これだけの証拠が揃っているのにまだ羅猛燐が犯人ではないというのか?」

 意識高い刑事が食い下がる。

「単純に考えればそうなります。が、鍵を盗むなんて簡単なことなんですよ」

 絢巡査長に目で合図すると絢巡査長は昨日の実験映像を見せる。

「これはバーからエステルームの裏口そして、ラモちゃんが荷物を預けた場所までの往復時間を記録した映像です」

 長四郎は映像の解説をする。

「それがどうしたっていうんだ」

「よく見てみてみ。あんたの推理が怪しいことがバッチリ映っとるけん」

 一川警部が再度よく見るように意識高い刑事に促す。

 その言葉を受けて再度真剣に動画を見る。

「これだけで彼女じゃないって?

ふざけるな!」

 意識高い刑事は激昂する。

「じゃあ、これなーんだ?」

 長四郎はそう言って、エレベーターの防犯カメラの映像の静止画を二枚渡す。。

「これは・・・・・・・」

 受け取った意識高い刑事は口をあんぐりさせる。

 2枚目の静止画は、21時25分に部屋に向かう為、エレベーターに乗る個亜田と風原の静止画。

 そして、2枚目は2人がバーに戻ってくるエレベーターの静止画。

 しかし、それを示す時刻が21時45分であった。

「ここまで、調べましたか?」

 長四郎のその一言を受け、鬼の形相で長四郎を睨む意識高い刑事。

「さぁ、ここからはあなた達にお聞きしたい。

この20分間、何をされていた?

部屋が分からなかった若しくは、風原さんの部屋で休んでいたという言い訳は通用しませんよ。

調べは点いてますから」

 長四郎の言う通り、その時刻付近に風原行美の部屋が開けられた履歴は残っていなかった。

「まさか、このまま黙秘を貫いて、このギリ未成年者に罪を被せるつもりですか?」

「分かりました。本当のことを話します」

「広子・・・・・・」

 観念し自白しようとする個亜田に涙を流す風原。

「中尾襟を殺したのは私です」

 そこから個亜田は淡々と自分の手口を語り始めた。

 きっかけは、一年程前のとあるツアーガイドをしていた時であった。

 ツアー客の一人が咲と同じ部活の後輩で事件当日、現場に居合わせた人物だったのだ。

 そして、そのツアー客から自身の罪を許す事を条件に、10年前の事件の真相が語られた。

 咲を突き落としたのは、中尾襟であることを。

 ただ、いじめとかそういったものではなく普段からその様な遊びをしていた際の不注意で起こったことであり、その事件をきっかけに、優しかった先輩たちが鬼のように変わった事。

 そのツアー客は先輩から目をつけられない為に事件当時、この事実を証言できなかったと言われた。

 個亜田の復讐心に火をつけた。

 ツアー客から現在の中尾襟の情報を聞き出し、彼女がやっているSNSアカウントを突き止めるまでに至っていた。

 が、どのように殺害するかまでは考えていなかった。

「それで、私が今回の計画を立てました」

 風原がそう自供し、深々と頭を下げながら崩れ落ちる。

 偶々、個亜田と遊んでいた風原は様子がおかしいことに気づいた。

 詳しく話を聞くと、中尾襟への復讐を考えていることを知らされる。

 咲には良くしてもらっていた風原はそのSNSアカウントを利用したかつ個亜田のフィールドで殺害が出来る方法を思いつく。

 まず、SNSで風原が中尾襟と親しい間柄になりかつそこに何も知らない第三者も巻き込む。

 その第三者と共に個亜田が企画するツアーに参加するよう促し、参加させる。

 そして、その第三者と中尾襟を相部屋にさせその相部屋で殺害。

 凶器は第三者の私物を使用する。

 そうする事で自分達に目は向かないというものであった。

 因みに、風原は中尾襟がSNSで赤の他人と交流する癖がることを知りこの計画を思いついた。

「その第三者が、ラモちゃんやったわけか・・・・・・」

 一川警部は可哀想にと燐を見ると、燐は怒りに身を震わせていた。

 燐は風原に近づくとビンタする。

「ちょっと、落ち着いて」

 すぐさまもう一発お見舞いしようとする燐を抱きかかえて辞めさせようとする絢巡査長。

「離して!! 風原さん、あんなに楽しそうに一緒に食べ歩きしたり、下らない話して笑いあったのも全部演技だったのかよ!!!」大粒の涙をこぼしている燐。

「それは・・・・・・」

 風原は、心苦しいといった顔をする。

「それで、ラモちゃんのルームキーの盗む算段を立てたのはあなたですよね。

個亜田さん」

「はい」

 個亜田は長四郎の推理を認め、話を続ける。

 ツアーの下見でこのホテルの監視カメラの所在地そして、非常階段付近の防犯カメラが30分でリセットされ1分間録画が止まることを調べ上げた。

 そして、睡眠薬は個亜田が不眠症のふりをして、精神科から処方してもらったものを利用した。

 風原もまた上手いこと中尾襟に取り入ることが出来かつ第三者の燐という生き贄を手に入れた。

 そして、計画は実行に移された。

 ツアーへの参加を提案した風原は美味いこと二人を誘い出すことに成功。

 ホテルに着くまではまだ動かず、ホテル到着後に部屋決めの際のくじ引きに細工をし、燐と中尾襟を相部屋にさせ、夕食後、燐をエステルームに案内した個亜田。

 時を同じくしてバーでは風原が個亜田からあらかじめ受け取っていた睡眠薬を中尾襟のウエルカムドリンクに仕込み飲ませた。

 30分程して、薬が効いてきたので介抱する形で個亜田が部屋へと連れていく。

 その時はまだ意識があったので何もせず、中尾襟に気づかれぬよう燐のカバンから凶器となる2mの充電ケーブルを取り出して部屋を後にする。

 その20分後、まだ意識があるかどうか確認するため風原が部屋に行くと中から物音がしたのですぐさま引き返した。

 その間に個亜田は燐のルームキーを盗む。

 そして、21時20分頃、様子を観に行くという口実でバーを出た2人は部屋に向かう。

 ドアベルを鳴らしても反応が無かったので燐のルームキーを使用し中に入るとベットで眠りについている中尾襟の姿があった。

 個亜田が、そっと中尾襟のクビにケーブルを巻き付け2人がかりでケーブルをひっ張りベットから引きずり落とす。

 最初の数十秒だけ抵抗した中尾襟だったが、それもすぐに止んだ。

 抵抗しなくなったので、死亡したことを確認した個亜田と風原は自分達が部屋に来た痕跡がないか再度入念に確認する。

 そして、気が動転していた風原は入ってもいない風呂場にも痕跡があると思いアメニティ全部を持って痕跡を隠したと判断した二人は部屋を出て一緒にエレベーター乗ったのが21時45分。

 燐が所持していたルームキーを戻すため風原と別れた個亜田は様子を見に来たと偽って燐が預けた荷物の中にルームキーを戻しバーに戻っていった。

「といった感じです」

 個亜田は項垂れ自供を終える。

「燐ちゃん。ごめんね」

 風原はここでようやく燐に謝罪する。

「私からも巻き添えにして申し訳ございません」

 個亜田もまた深々と頭を下げて謝罪する。

 そんな2人を見て燐は、複雑な心境であった。

 怒りと少しだけ許そうという気持ちのせめぎあいに。

「謝るのは私じゃない。襟さんでしょ」

 燐はそう呟く。

「そうね。そうよね」

 風原はそう言うと両手を差し出す。個亜田もまた一緒に。

「中尾襟殺害容疑で、緊急逮捕する」

 一川警部と絢巡査長が二人に手錠をかける。

「犯人の人が謝っているのに、あんたは謝らないのか?」

 長四郎は意識高い刑事を見て言う。

「・・・・・・・・・・・すまなかった」

「あんた、この人達どうするとね?」

 一川警部の問いに答えることもなくか細い声で燐に謝罪した意識高い刑事は部屋を出ていった。

「警視庁で取り調べましょう」

 絢巡査長は一川警部に進言し、風原を連行する。

「そうね。長さん、後、宜しく」

 長四郎に燐の面倒を任せ、個亜田を連れ部屋を出た。

 残された2人に沈黙が流れる。

 すると、いきなり燐が長四郎にしがみつき大泣きし始める。

 長四郎はまだ子供かと思いながら燐が泣き止むまで直立不動を維持するのであった。

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