対決-23
燐と芽衣が晴海ふ頭に向かっている頃、長四郎と勇仁は留置場から釈放されたところであった。
「全く、酷い所だった」
長四郎は背伸びしながら、固まった身体をほぐす。
「長さんは、初めての体験だったか」
「まぁな」
そう言いながら、所持品を自身のポケットにしまう長四郎。
「あ、燐から着信だ」
勇仁はスマホを見ながら、顔を青ざめさせる。
「え?」長四郎もすぐにスマホの着信履歴を確認すると燐から大量の着信とメッセージが送られていた。
「うわぁ~ 留置場にお泊まりしてましたなんて言ったら、婆さんに報告されちゃうよ」
「恐れるのは、そこじゃないぜ。勇仁」
「どういう意味?」
勇仁は長四郎のスマホに視線を向ける。
そこには、芽衣の兄・慶次が接触してきたこと、そして、海外に高飛びする予定であることがメッセージに書かれていた。
「こりゃ、まずいな。守! いや、守さぁ~ん」
勇仁は留置場を飛び出し、守の元に駆けっていくのだった。
「もっと、飛ばせよ! 守!!」
サイレンを鳴らした覆面パトカーを運転する守を急かす勇仁。
「勇仁、焦りは禁物。クールに行こうぜ。クールに」
「そうですよ。先輩。長さんの言うようにクールに行かないと」
守から長さんと初めて呼ばれて少し驚いた表情を見せる長四郎。
「何、とろい事、言ってるんだよ。こっちは孫の命がかかってんだぞ!!」
「分かってますって! だから、サイレン鳴らして飛ばしてるでしょ!!」
守は勇仁を宥めつつ、パトカーを晴海ふ頭に向けて全速力で飛ばす。
すると、長四郎のスマホに着信が入る。
「あ、ラモちゃんからだ」長四郎はそう言いながら通話ボタンを押し「もしもしぃ~」と吞気な声で電話に出る。
「芽衣ちゃんが撃たれた」
燐のその一言を聞き、長四郎はスマホをスピーカーモードにして会話を続ける。
「芽衣ちゃんが撃たれたのか?」再度、確認すると「うん」と答える。
「守!」勇仁に言われるや否や「はい!」と無線で救急車の手配をする守。
「ラモちゃん、落ち着けよ。もう少しで俺達も晴海ふ頭に着く。止血はしてるのか?」
「してるけど。血が止まらないんだよ」
声を震わせ動揺しているのが、電話口でも分かる。
「燐、良いか? 芽衣ちゃんに意識がなくても話続けるんだ」
勇仁の指示に「分かった」と返事をして「芽衣ちゃん」と弱弱しい声で話しかける。
「そんなんじゃ駄目だ! 目ぇ覚ますぐらいの声で言うんだよ!!」
勇仁に発破を掛けられ燐はいつものように大きな声で芽衣に声を掛ける。
「それでこそ。俺の孫だ」
すると、スマホの向こうからサイレンの音がした守が呼んだ救急車が近くまで来たようだった。
「救急車が来ても、話かけ続けるんだぞ」
「分かった」と涙声で燐は返事をした。
長四郎は通話を切らずに、救急隊員と燐のやり取りを聞く。
「このまま、芽衣ちゃんの病院に行きますか?」
「いや、晴海ふ頭に向かってください」と長四郎が言う。
「でも、燐ちゃんの所に向かった方が良いですよね? 先輩」
「守。ここは、長さんの言う事を聞いてくれ」
「分かりました」
守は覆面パトカーを晴海ふ頭に向かって走らせた。
三人を乗せた覆面パトカーが晴海ふ頭に着いた頃には、燐と芽衣を乗せた救急車は病院へ行った後だった。
「ここで、ドンパチやられたってことですよね?」
車を降りてすぐに二人に向かってそう話しかける守。
「ああ、そうだな」と勇仁は敵がまだいるかもしれないと思い周囲を警戒する。
一方、長四郎は芽衣が撃たれた場所を見つけ、事件に繋がる証拠がないかを捜し始める。
「守。変だとは思わないか。銃が発砲されたのに警官の人っ子一人いやしないこの状況」
「言われれば、そうですね。普通、あの船の船員が通報してもおかしくないのに。うん?
もしかして、先輩」
「その、もしかしてかもだぞ。守」
勇仁が守も同じ事を察したと分かると、ニヤリと笑う。
「そこの先輩、後輩ブラザーズ。こんなもの見つけたんですけど」
長四郎はそう言いながら、地面に落ちていたUSBメモリを二人に見せた。
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