オニ-15

「それで、地牛って子はどの子なの?」

 双眼鏡を覗きながら、校庭で体育をしている生徒達を見る長四郎は燐に尋ねる。

「ほらっ、眼鏡をかけてちょっと癖っ毛の男の子がいるでしょう」

 燐の持つ双眼鏡からは地牛を捉えていた。

「どこぉ~」

 長四郎は燐が言う特徴を持った生徒は10人程おり、どの生徒が地牛なのか分からなかった。

「ったく、ここよ」

 燐は長四郎の腕を引っ張り、地牛が立っている所に視点を合わさせる。

 長四郎の双眼鏡に地牛の姿が入る。

「あー確かに地牛だな」

「何よ、その感想。初めて見た癖に」

「いや、彼は地牛って顔してるよ。うん」

「お前ら、そこで何してるっ!」

 背後から怒鳴られた二人は、肩をビクッと揺らしながら後ろを振り返ると熱血教師が真後ろに立っていた。

「あ、どうもぉ~」長四郎は愛想笑いを浮かべ誤魔化し、「げっ! アホ教師!」燐は悪態をつく。

「職員室に来いっ!! 不審者!!!」

 そのまま、長四郎と燐は職員室へと連行された。

「羅猛っ! 不審者を学校に連れ込むとは何事だっ!!」机を叩き燐を恫喝するのだが、燐は反省の色を見せるどころかふてぶてしい態度で窓から景色を眺めていた。

「俺って、不審者なの?」

 隣に居る燐に話しかけると「うん、そうだよ」と辛辣な言葉だけが帰ってきた。

「マジかよ」

 ショックを受ける長四郎に「あんたは何者なんだよ」熱血教師は失礼な口調で質問する。

「私ですか? 何に見えます?」

「質問を質問で返すなぁぁぁぁ」

 怒鳴り上げる熱血教師を見ながら、長四郎は頭の血管が切れないのか、少し心配になる。

「お前はこの学校に何をしに来たんだっ!!」

「何しにって。御校の生徒さんをガードしに来た探偵ですよ」

「はぁ?」意味が分からず首を傾げる熱血教師に淡々と説明を続ける長四郎。

「実はこの学校の生徒さんが、殺人鬼に狙われる可能性がありましてね」

「ウチの生徒が? 殺人鬼に? はっ」

 長四郎の言葉を信用せず、鼻で笑う。

「ラモちゃん、この人話通じないね」

「ああ、いつもの事だから」

「そうなんだ」

 この間も熱血教師は、長四郎に怒鳴り散らしていた。

「聞いているのか! 不審者っ!!」

「不審者だって」

「だって」

 長四郎の言う事を燐はそのまま復唱し、熱血教師を指差す。

「羅猛、ふざけるなぁ~」

「はい、もう十分かな」長四郎は急にマジトーンで話し出した。

「な、何がだ!」

「今までに浴びせた罵声全て録音しましたので。万が一、こちらの生徒さんが事件に巻き込まれてもこちらには責任はありませんので。学校の協力を得られなかったのは事実なのでね。ラモちゃんも証言してくれるよね?」

「勿論」

「何を言っているんだ。お前ら!」

「ご安心を。事件が起きた場合にこの録音データをマスコミにタレコミますので」

「脅迫するのか?」

「脅迫なんてとんでもない。人の話を信用せずかつ不審者が校内に侵入しているのにも関わらず、上の者にも話を通そうとすることすらしない。この学校の危機管理がどうなっているのか。よく分かりましたので、不審者の私は失礼します」

 長四郎は職員室を出て行こうとし、燐もそれに続く。

「ま、待て!!」

 ここで、事の重大さに気づいたのか。熱血教師は呼び止めるが長四郎達はそのまま無視して職員室を出て行った。

「どうする?」

「ん~放課後まで待つしかないんじゃないかな」

「そうね。ここの近くに学校に美味しいケーキを出す喫茶店があるから行こう」

「おっ、そうだな」

 長四郎はそう返事をし、燐おすすめの喫茶店に移動した。

 喫茶店に入り、燐がおすすめするチーズケーキとカフェオレを二つずつ注文し、席に着く。

「あの地牛って子は、部活動しているの?」長四郎は座るや否や燐に質問する。

「どうだったかなぁ~」

 燐もそこまでは把握しておらず、困った顔を浮かべる。

「ったく、調べておけよな」

「どうして、クラスメイトの部活まで私が知っていなきゃならないのよ!」

「ああ、そうか。ごめん、ごめん」

 何かを察したような感じで、謝罪する長四郎に「何よ」とその真意を聞く。

「だって、変な不良探偵とつるんでいる不登校生徒だからな」

「べ、別に不登校じゃないし」

「ま、そんな事はさておき、彼が部活をやっているか、やっていないか次第で接触の時間が変わって来るんだよなぁ~」

「お待ちどうさま」

 マスターがカフェオレとチーズケーキを二人に出してその場を去った。

「あのマスターって」

「ああ。カラフルのマスターだ」

 カラフルのマスターとは、第参話-話合に登場する喫茶カラフルを経営する男性である。

 気になった方は、「探偵は女子高生と共にやって来る。」第参話を読んでみて下さい♡

 以上、露骨な宣伝でした。

 では、本編に戻ろう。

「あ、そう言えば」燐は何かを思い出したのか、話を続ける。

「もし、ハッキングがバレたとしても自分にはたどり着けない。って言ってた」

「それってラモちゃんが、ハッキングがバレたかもしれないって言いに行った時?」

「そうそう」

「バックドア・・・・・・・」長四郎は何か思いついたのか一人でうんうんと頷く。

「何? どうかしたの?」

「いや、地牛って奴は恐ろしい奴かもな」

「意味が分からないんだけど」

「彼に早く接触しないと、別の奴がやられるかもな」

「まずいじゃん! それ!!」燐は席から思いっきりよく立ち上がる。

「そう、まずいんだよ」

「こんな所でケーキ食べてる暇ないじゃん!!」

「そうだな」と返事しながらチーズケーキを口に入れる長四郎。

「ちょっと、ケーキ食べていないで学校に行くよ!」

「おいおい、勘弁してくれ。あの変な教師に見つかったら面倒だぞ」

「それはそうかも知れないけどさ」

「まぁ、放課後まで待とう。いや、あの事務室って何時まで開いているの?」

「確かぁ~17時までだったけど」

「そうか」長四郎はフォークに付いたチーズケーキの残りカスを舐めながら、考えを張り巡らせる、

「何か思いついたの?」

「共犯者が学校に居るからな。対象者の監視はいつでもできるし、殺すにしても自分達の目に向かないように犯行はするだろうから突発的な殺害はしないと思うけど、その対象がどの人物か特定されているのかが知りたいんだよ」

「でも、川尻夫妻にそれを聞いても答えないわよね」

「そうなんだよな。だから、地牛なんだよ」

「地牛が知っているって言うの?」

「その可能性が大いにある」

「その根拠は?」

「バックドア」

「バックドアって何?」

 燐は素直に疑問をぶつけると、長四郎は深いため息つく。

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