オニ-16
「で、誰のスマホにバックドアを仕込んだ?」
長四郎は、目の前に座っている地牛にそう尋ねる。
それは30分前の出来事であった。
授業が終わり普段通り、誰ともつるまず一人寂しく校門を潜って下校しようとした矢先、何者かに背後から羽交い絞めにされ、抵抗する間もなく鳩尾に強い衝撃を受けて気を失った。
気がつくと、喫茶店の椅子に座らされていて、目の前に燐と見知らぬ男が並んで座っていた。
そして、見知らぬ男にいきなり「で、誰のスマホにバックドアを仕込んだ?」と質問され、困惑していた。
「答えてっ!!」燐が身を乗り出して地牛に質問する。
「何なんだよ。いきなり」
「お前さんが誰かのスマホにバックドア仕掛けたのはラモちゃんから聞いた話で分かっているんだからな。しらばっくれても無駄だぞ」
「ラモちゃん?」
「ああ、私の事」
「ふ~ん」と相槌を打ち地牛は話し始めた。
「バックドアを仕掛けたのは、弥里杉のスマホです」
「弥里杉って?」長四郎は燐に説明を求めると「クラスで二番目の秀才の生徒」と答えた。
「一番目は?」
「わ・た・し」
「聞いた俺がバカだったよ」
長四郎の言葉に同情するように地牛も頷いた。
「話を戻そう。なんで、弥里杉って野郎にバックドアを仕込んだんだ?」
「よくぞ、聞いてくれました。実はあいつ女子生徒のパパ活斡旋業者なんですよ」
「うそぉ~」燐は驚愕した反応をする。
「ホント、ホント。パパ活なんて言葉は良いけど、実際は売春斡旋業者だからな」
「高校生の癖によぉ調べ上げたな。ハッキングで調べ上げたの?」
長四郎の質問に「はい、そうです。というか、あなた誰なんです?」と認めると共に、地牛は質問を返した。
「あ、俺ね。俺はめ組で居候している貧乏御家人の
「ああ、徳田さんね。宜しくお願い致します」地牛は納得したらしく長四郎と固い握手を交わす。
「こいつ、徳田じゃないし」燐はすぐさま、訂正するが地牛は耳を貸さず弥里杉の蛮行を語り続けようとするが長四郎に遮られる。
「そんなん良いから。それで、いつバックドアを仕込んだ?」
「それは奴がスマホの調子がおかしいっていうから、見てやった時に仕掛けた」
「成程ね」
「いい加減に説明してよ。バックドアって何?」
「簡単に言えば、いじくりたい端末にハッキングをかけていつでも覗き見できる状態にすることかな」燐の疑問に大雑把に説明する長四郎。
「そんで、いつでも覗き見できるかつ遠隔で操作できるようにもなるから、奴のスマホからあの会社のサーバーにハッキングをかけたの」
地牛が補足で説明するが、燐は理解したのか、していないのかよく分からない表情で頷くだけであった。
「その弥里杉が、どこに居るか。分かるか?」
「ちょっと、待ってて」
タブレット端末を操作し始める。
「あー今、学校に居るなぁ」
「流石にどこの部屋にいるかまでは分からないよな?」
「いや、分かるよ。待っててくれ」
そこからまたタブレット端末を操作し始め、数秒後にどこに居るか特定した。
「これは、更衣室だな」
長四郎にタブレット端末を見せる。
「あーホントだ。更衣室だな」
そこには、弥里杉のスマホのインカメラからの映像が映っており、弥里杉はスマホ片手に誰かと談笑していた。
「えっ、見せて。見せて」燐が顔を覗かせようとすると長四郎はサッと胸にタブレット端末を押し当て隠す。
「ダメだよ。何、男子生徒の更衣室覗こうとしてんのよ。スケベ女子高生」
「べ、別にやらしい気持ちで見ようとなんて思っていないから!」
「絶対、噓だ」地牛はそう呟いた。
「そんな事はさておき、お前がやっているのは犯罪だからな。それを自覚しろよ。高校生」
長四郎はタブレット端末を返し、席を立つ。
「ああ。もしかしたら、また力を借りるかもしれないから。その時は宜しく」
長四郎は地牛にそう言うと、その場を去って行った。
「結局、あの人って誰だったの?」
残された燐に地牛はそう質問した。
「探偵よ」
燐はそれだけ答えて、店を出た。
店を出た足で、長四郎は警視庁へと向かった。
命捜班の部屋に入ると、今後の捜査方針で絢巡査長と齋藤刑事と揉めていたようだった。
「だから、任意で引っ張れば良いじゃないですか!!」
「無理に決まっているでしょう! どれも状況証拠だけだし。家宅捜索礼状なんて取れないよ」
齋藤刑事と絢巡査長が激論を交わしている中、一川警部はというと椅子の上で眠りこけていた。
「あのぉ~」
恐る恐る話しかける長四郎の言葉なぞ、激論を交わす二人の耳に届くはずもなく二人の激論は激しさをます一方であった。
「絢さんが何と言おうと僕はあの夫婦を任意で引っ張って来て、吐かせます」
「止めても無駄なようね。だったら、好きにしなさい」
「あーそうさせてもらいます!!」
齋藤刑事は踵を返して部屋を出ようとすると長四郎にぶつかって転がる。
「あ、熱海さん!!」
「熱海さん!! じゃねぇよ。何、二人で揉めているんだよ」
「いや、絢さんが犯人を引っ張らないって言うもんですから」
「モブ刑事。絢ちゃんが正しいよ」
「熱海さんまで、そういう事言うんですか?」
「言うよ。そんで、頭を抱える君たちに朗報だ」
「朗報ですか?」嬉しそうな顔を浮かべる齋藤刑事に「秘策を持って来た」と長四郎は淡々と言った。
「秘策?」絢巡査長が食いつく。
「まぁ、相手がこの秘策に乗ってくれるかは、賭けだな」
長四郎はニヤリと笑いながら一人頷くのだった。
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