話合-15

 長四郎と燐は居酒屋で行われている事件解決の慰労会に参加していた。

 参加者は、長四郎、燐、一川警部、絢巡査長の四人だけである。

「いやぁ~ 今回も長さんの力を借りれてホント助かったばい」

 一川警部はそう言いながら、長四郎の手の中にあるグラスにビールを注ぐ。

「探偵助手気取りの女子高生が、呼び出したおかげですよ」

「呼び出して、悪かったわね!!」

 燐は隣に座る長四郎の耳を引っ張る。

「バカ! 零れる!! 零れる!!!」

 グラスのビールがこぼれないよう必死でバランスを取ろうとする長四郎。

「でも、運が良かったですよ。証拠隠滅寸前でしたもの」

 ここで、絢巡査長が話に入ってくる。

「え、毒物を持っていれば充分な証拠じゃないですか?」

「毒持っていたからって、殺したとは限らないだろう。盗まれましたって言われたそれまでだし」燐の質問に長四郎は答えビールを吞む。

 そう答える長四郎を無視し、質問を続ける燐。

「その証拠って何ですか?」

「事件直前、被害者に飲ませた毒物の入ったペットボトル。ごみ回収される一歩手前だったから」

 絢巡査長の顔は、危機一髪だったと言わんばかりの顔で話す。

「そうだったんですね。

あ、そう言えば何でサンデーさんはチャラーンしていたのか。

結局、分からずじまいだったね」

 長四郎に向かってそう言う燐。

「あれは多分、サンデーさんが最後の力を振り絞ってやったことなんだろうな」

「長さん、それどういう事?」

「いや、そのまま死んだらお客さんが不安がるから、今できる精一杯のギャグで誤魔化そうとしたんだろうな。まぁ、本人に聞いてみない事には分からないけど。

自分が死ぬかもしれない中でそういう事が出来るっていうのは、本物のプロという事だけだ」

「そうね。そうだよね」

 燐はその場に居る二人の刑事に賛同を求めると絢巡査長だけ「うん」と答える。

「にしても、あの楽志って落語家を危うく誤認逮捕する所やったけん。

ホント、事件のどさくさに紛れてネタ帳なんか盗むから疑われるったい。

長さんが強く引き留めてくれなきゃあ、もう」

「そうですか? 結局あの落語家、落語芸術協会から三ヶ月の謹慎処分になったらしいじゃないですか。

ネットニュースに書いてありましたよ。ほら」

 長四郎は一川警部にスマホで、ネットニュースを見せると老眼鏡をかけて確認する一川警部。

「あら、ホントやね。

犯罪ではないけど、人の物を無断で我が物顔で使うのはいかんけんね」

「その通りです。そう言えば、あの親子はどうしたんですか?」

 絢巡査長は、口の中の枝豆を放り込みながら長四郎に質問する。

「ああ、桂太郎は父親の様な落語家になるとか言って今、必死に落語の勉強をしているらしいですよ。

お母さんも一生懸命、桂太郎を育てていくとかこの前、事務所に来た時に言ってましたわ。

後、今回の依頼料はラモちゃん、あんたが払ってね」

 長四郎はそう言って、請求書を燐に差し出す。

「そんな話、私、聞いてないんだけど!?」

 再び、燐は長四郎の耳を引っ張る。

「いたたたた!」

「相変わらず仲睦まじいね。この2人は・・・・・・」

 一川警部は、じゃれ合う長四郎と燐を見て微笑ましく思う。

「そうですね。でも、恋人っていうよりかは親子ですけどね」

「絢ちゃん、上手いこと言うね」

「ありがとうございます」

「じゃ、改めて乾杯を」

 何故、ここで乾杯をと思いながら絢巡査長は一川警部とグラスを酌み交わすのだった。

 イチャイチャし、じゃれ合う長四郎と燐を眺めながら。


                                     完

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