話合-14

 逃げ出した桂太郎だったが、割とあっさ捕まり小春の説得を受けて長四郎の話を聞くというのでサンデーが住んでいた部屋へと場所を移していた。

「機嫌は直ったか?」

「ふんっ!!!」

 長四郎の問いに桂太郎は、そっぽ向く。

「すいません。ケイ、その態度はないでしょう!!」小春が桂太郎をしかりつける。

「ああ、気にしないで下さい。17にして、礼儀も知らないアホもいるんで」

 長四郎はそう言うと、燐はキッと長四郎を睨みつける。

「今のは、忘れてください」

 すぐ様、失念するよう小春に頼む長四郎。

「はぁ」

「良いから、早く話しなさいよ」燐は肘で長四郎を小突く。

「すいません。では、本題に。桂太郎君の依頼内容は、「お父さんの遊平さんが自分に何かを伝えたがっていたので、それが何かだったのかを知りたい」というものでした。

その答えは、この部屋にあったんですよ」

「それ、本当!!」

 桂太郎の目に輝きが戻る。

「ああ、これを見てください」」

 長四郎は天井を指す。

 3人は天井を見上げるとサンデーが書いていたA3サイズの半紙を見る。

「あのぉ~ これは?」

 小春が説明を求める。

「子は鎹の下げの部分です」

「子は鎹?」

 桂太郎は、聞いた事が無く首を傾げる。

「子は鎹って言うのは、落語の話」

「ふ~ん、それで父ちゃんの言いたかった事とその話が関係あるの?」

 小春と燐も桂太郎の意見を聞き、うんうんと頷く。

「この話はな、大工として腕は立つが酒癖や女癖の悪い旦那が、不倫相手と結婚するために嫁と子供を捨てるんだが、その再婚相手の女がこれまた酷い女でな。

そこでその大工は目が覚めて再婚相手と別れて、真面目に働き始めるんだ。

そんなある日、息子と再会してその息子と近況を報告して、小遣いを渡して鰻食いに行く約束をしてその日は別れるんだ。

そんで、息子が小遣いを家に持って帰ると母親がその小遣いを見つけて息子が人様の金を盗んできたと勘違いして怒るんだけどな、息子が父親と再会したって白状すると母親は父親の事をあれこれ聞いてな。

次の日、息子と一緒に父親と再会し、子供がきっかけで夫婦がよりを戻す。

何処かで聞いた話だろ」

「もしかして、家の話だって言いたいんですか?」

 小春がそう尋ねると長四郎は頷く。

「という事は、父ちゃんはもう一度、俺と母ちゃんと暮らしたかったってこと?」

「そういう事。ここからは俺の推測になるが、小春さん。

サンデーさんとよりを戻す話をなさっていたんじゃないですか?」

「そうなの? 母ちゃん」

 桂太郎は、小春を見て質問する。

「その通りです。この子には、話が纏まってから話をするつもりでした・・・・・・」

「というより、纏まっていた矢先にあんな事になった。ですよね?」

「はい、その通りです。

今度、会った時にケイに話そうって打合せしていたんです」

「そんなどうして教えてくれなかったんだよ。母ちゃん!!」

「だって、あんたすぐに人に教えるでしょう」

「なんだよ、それ」

 拗ねる桂太郎。

「拗ねたくなるのも分かるが、拗ねるなよ」

 長四郎は桂太郎の肩をポンポンと叩く。

「拗ねてねぇよ」

「そう。というより、お前さんの依頼には答えたつもりだけど、納得して頂けたかな?」

「まぁな」

「まぁな。じゃないでしょう! こういう時は」

「ありがとう」

 小春に言われるより先に感謝の気持ちを伝える桂太郎。

「ふんっ!!」

 桂太郎の真似をして長四郎はそっぽ向く。

「何、バカやってんのよ」

 燐は長四郎の頭を叩き、床に倒れる長四郎。

「痛っ!! 何するんだよ!!」

「27歳の大人がやることじゃないでしょう」

「やりますぅ~私の心は5歳児だもん!」

「俺より年下じゃん。おっさん」

 桂太郎はそう言うと倒れている長四郎の頭を撫でる。

 その光景を見て小春が笑いを堪えなくなり吹き出し、燐もつられて大笑いする。

 そして、その二人を見て桂太郎も大笑いしサンデーの部屋は笑いに包まれるのであった。

 後で「うるさい!」と近隣住民から苦情がきたのはここだけの話である。

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