能力-8

「もうお終いだ」

 項垂れた丹湯はそう呟いた。

「あんたがお終いにさせたのは自分の人生じゃない。水川教授の人生だ」冷たく突き放すように長四郎は言う。

「何時から、俺を疑っていた?」丹湯は長四郎に何時から自分に疑いの目を向けていたのか質問した。

「確信を持てたのは、大判さんだっけ? その人の車を見た時だ」

「大判の車?」

「そう。助手席のヘッドレストが後部座席の方に歪んでいたし、後部座席の床に落ちていた服に付いていた泥汚れを見て、犯人の靴に泥汚れが付いていると思ってあんたらの靴を見たら分かりやすいように泥汚れが付いていた」

「そういう事やったとね」一川警部はそこで納得する。

「何度も言うが俺は人殺しに関わっていないし、死んでいるなんて思ってもみなかったんだ」サイキック木馬はあいもかわらず自分の身の潔白を主張する。

「わーってるよ。んな事は。あんたが人殺ししたって強要されたことも察しがつくよ」

 長四郎はもう黙ってろと言わんばかりの口調で、サイキック木馬を諭す。

「俺も」大判は呟き今度はその場に居る人間に向かって「俺も人殺しはしていない!!」と訴えた。

「じゃあ、あんたが知っている事を教えてくれ」

 長四郎にそう言われた大判は自分の知っている事を白状し始めた。

「さ、最初はただのバラエティー番組の企画だった・・・・・・」

 一ヶ月半前、2時間バラエティー番組の新企画会議で煮詰まりを起こしていた。

 そんな時、YouTubeで超能力を売りにしているYouTuberを発見した大判はすぐに丹湯に報告した。

 丹湯は食いつきサイキック木馬に取材をするよう命を受けて、大判は取材の申し出を出しサイキック木馬はこれを快諾し番組の足掛かりの準備はできた。

 丹湯は上手いことスポンサーを言いくるめてサイキック木馬の超能力検証番組の放送日獲得までこぎ着けた。

 そして、検証する相手に目星をつけたのは水川教授だった。

 水川教授を収録に参加させるまでの経緯は、読者の皆様もご存知の通りだろう。

 ここではその裏側に迫ろう。

 収録日の三日前。

 丹湯は水川教授にうんざりしていた。

 水川教授に秘密裏で、この番組の一番の推し企画を進行していた。

 その企画というのは、サイキック木馬の透視能力で行方不明者の捜索をするというのものだった。

 勿論のこと、ヤラセの企画だ。

 行方不明者も仕込みでサイキック木馬とも入念な打ち合わせをしていた矢先に何故か、水川教授にその事が露見したのだ。

 これに水川教授は激昂した。

「信頼関係が崩れた。協力はここまでとさせて頂く!」

 収録三日前にして、協力を拒まれることになった丹湯。

「クソっ!!!」

 丹湯は会議室に置いてあるゴミ箱を蹴飛ばす。

「落ち着いてくださいよ。丹湯さん」

 大判は散らかったゴミを集めながら丹湯を宥める。

「収録三日前で、企画が頓挫しかかってるんだぞ!!!」

「それはそうですが・・・・・・」

「ったく、あのタヌキ爺」

「別の人を探します」

「もう遅い!」

「ですが・・・・・・」

「殺してやりてぇ」

「それはいくら何でも」

 丹湯のこの発言にドン引きする大判だった。

 すると、丹湯はハッとした顔になりこう呟いた。

「殺そう」

「はい?」思わず聞き返す大判に名案が浮かんだような顔で丹湯は再度「殺すんだよ。あのタヌキ爺を!!」と意気揚々に話し始める。

「お、落ち着いて。何を言っているんですか!!」

「いいか? あのタヌキ爺を殺してその死体をサイキック木馬の透視能力で見つけさせるんだよ!!!」

「そんなぁ~」

「善は急げだ。今から計画を練るぞ」

 大判が人殺しの計画に賛同する事に躊躇していると、「安心しろっ!! お前に人殺しはさせないから。考えるぞ」その丹湯の言葉を鵜吞みにし悪魔の計画に乗ってしまった。

 そして、サイキック木馬には予定が変更したといい、立てた計画の一部を伝え本番に備えてもらう所まで話を付け、他のスタッフ達にはこの事を伏せていた。

 問題はへそを曲げられた水川教授だ。

 残り二日でそのご機嫌を直しかつ殺害しなければいけないのだ。

 翌日、丹湯と大判は計画実行の為、水川教授に地面に頭をこすり付けて謝罪した。

 その誠意が伝わったのか、お許しを得た丹湯と大判。

 当初、計画していた行方不明者捜索の手の内を明かす事となり事前に用意した演者に水川教授を合わせて話を聞かせたりと嘘の検証をさせた。

 事件当日は、会場に行く前に行方不明者が消えたとされる現場写真を押さえてこいという水川教授の指示で埼玉県の山で写真撮影した際、昨晩雨が降ったようで靴に泥汚れが付いた。

 それから大学まで行き水川教授を拾い会場に向かい、事前に細工が無いか調査し終えた教授を送迎する為、大判は自分の車に誘導している隙に丹湯が先回りし後部座席に隠れる。

 教授が乗り込み大判が忘れ物をしたと車を離れた後、丹湯が水川教授の首に紐をかけ殺害した。

 教授の死体を車から運び出す役を大判が教授に扮して大学にタクシーを走らせる役を丹湯が担当し、丹湯は具志堅が走らせるタクシーで大学に行き森林に目撃された。

 そこから再び会場に戻り大判と共に水川教授を柵に括り付け、収録中サイキック木馬のパフォーマンスに合わせて括り付けたワイヤーを切断しその死体を落とした大判。

 勿論、警察沙汰になる事を見越してサイキック木馬には自分の超能力で殺害したそう言うよう打合せしていたのだ。

「という事なんです。だから、だから俺は悪くない! こいつ、こいつが悪いんだ!!」

 大判は必死で自分の保身を守ろうとする。

「せからしかっ!!」一川警部は怒鳴りつけ「あんたらさっきから調子の良いこと言ってんじゃねぇぞ!!! 自分がしたことをしっかり行くべき所行って、反省せぇ!!!!」丹湯、大判とサイキック木馬を𠮟りつけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る