対決-25

 長四郎と勇仁は都内某所のバーで、酒を酌み交わしていた。

「長さん。前尾の目的は何だと思う?」

 勇仁はおもむろに聞いてきたので、長四郎は少し考えてから話出した。

「そうだな。小岩の事件から察するに政治的な意図はあると言えるだろうな。俺達が昨晩、留置場にお泊まりした件だってそうだ。守さんや命捜班に圧力をかけた前尾の協力者のおかげだし」

「前尾の協力者・・・・・・ やっぱり、政治関係なのかそれとも警察庁の人間か?」

「どっちかだろうな。今の俺は、それしか言えない」

 長四郎はそう言うと、チャームで出されたピーナッツを口に放り込みバーボンで流し込んだ。

「勇仁。それより俺が気になっているのは」

「燐の友達のお兄さんだろ」

 勇仁もバーボンを飲み、話を続ける。

「孫と実の妹をあんな目に合わせた奴だ。相当、腐ってる奴だって事は分かる」

「ああ、腐ってる」

「やっぱり、長さんもそう思うだろ。俺達、気が合うなぁ~」

 勇仁は嬉しそうにグラスを傾ける。

「いや、違う。このチーズ、腐ってる」

「長さん。そのチーズは臭いのが売りなの。ねぇ、マスター」

 バーカウンターの向こうに居るマスターは長四郎が食べていたのと同じ物を取って口の中に入れこう言った。

「腐ってるね。これ」

 勇仁はその一言にガクッと身体を傾けるのだった。

 翌日、長四郎と勇仁の探偵二人は、守の言いつけ通り芽衣が入院する病院へと訪れた。

「燐の友達の容態は?」

 勇仁は出迎えにきた絢巡査長に質問した。

「山は越えたようで、後は意識が回復するのを待つだけです」

「それで、ラモちゃんの方は?」

「そっちはかなり重症です」

 絢巡査長はそう答えICU専用の待合室のドアを開けた。

 そこには、ソファーに腰掛け真っ白に燃え尽きたボクサーのように俯いた燐の姿があった。

 長四郎は敢えて燐に声を掛けず、話を続けた。

「絢ちゃん。守さんは?」

「もうそろそろ、一川警部と来るはずですけど」

「じゃ、外で待つとしようか」

 勇仁の提案に「分かった」と返事をする長四郎はすぐに部屋を後にしようとする。

「あ、長さん。先に行っといてくれ」

「OK.」

 そう答え、長四郎は待合室のドアを閉めた。

「さ、落ち込んだ孫を元気づけますか」

 勇仁は自身の両手を擦り、気合いを入れる。

「大丈夫ですよ。お爺様」

 燐は顔を上げて勇仁を見る。

「おっ、その顔は大丈夫そうだな」

 燐の目は死んでおらず、寧ろ怒りに満ち満ちていた。

「いやね、この美人な刑事さんが燐の方が重症だって言うからね。俺は大丈夫だって信じてたよ」

 勇仁の軽いトークに思わず、プっと吹き出して笑ってしまう燐。

「お爺様。こんな所で油売ってないで、あのバカを助けに行ってください」

「All Right.」

 勇仁はそれだけ言うと、部屋を出て長四郎の後を追う。

「絢さん。頼みたい事があるんですけど」

「何?」

 絢巡査長は燐の頼み事に耳を傾けるのだった。

 長四郎に追いついた勇仁は、長四郎と共に駐車場へと向かった。

 二人が駐車場に着いたタイミングで守と一川警部、それぞれが運転する二台の車が入ってきた。

「おっ、来たな!!」

 嬉しそうな笑顔を浮かべながら、勇仁は手ぐすねを引く。

「先輩。お待たせしました」

「遅い! 遅い! 何をしていたんじゃあ~」

「これを用意していたんですよ。先輩」

 守は自身が運転してきた車のトランクを開ける。

 トランクの中には、銃が入っていた。

「おいおい。これじゃ、まんま帰ってきた」と勇仁が言う前に「これ、エアガンでしょ?」と長四郎が言う。

「流石は、長さん。ご明察」一川警部は拍手を送る。

「で、このエアガンで奴らと戦えと?」

「ま、そう言う所です。あ、でもこのエアガン暴発する可能性もあるので使う時は注意してくださいね」

「という事は、改造銃ですか?」

「長さん。安心して、一応、18禁の規制値を若干、越えた銃ばっかりやけん。暴発するとしたら、10丁に1丁ぐらいじゃなかとね」

「10丁に1丁か。ま、無いよりかはマシか」

 長四郎は半袖の上着を脱ぎ、ガンホルスターを身体につける。

 勇仁も迷いなく同じように、ガンホルスターをつけM10 2inch Earlyを入れる。

 長四郎はガバメントをホルスターにしまうと同時に、守から車の鍵を渡される。

「これで、前尾の所に向かってください。先程、張り込みしている刑事から前尾が晴海ふ頭に向けて出かけたとの報告を受けてますから」

「長さん、車の鍵」

「おう」

 勇仁に投げ渡すと勇仁はすぐに車に乗り込む。長四郎もそれに続いて乗る。

 発進前に助手席側の窓を守にノックされ、窓を開ける。

「どうしたんだよ? 守」

「良いですか? くれぐれも無茶しないように」

「守さん」

「何?」

「俺達は、無茶しないと滅びちゃうタイプなんです」

 長四郎が言うと同時に、探偵二人はサングラスを掛け晴海ふ頭に向けて車を走らせるのだった。

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