帰国-3
事件が発覚してから10分後、近くの所轄署の警察官達が臨場した。
一川警部達命捜班も、25分後に現場に臨場し燐は事件発生時の状況を説明する。
「悲鳴が聞こえたので、駆け付けたら被害者が血まみれで死んでいたわけね」
燐から聞いた情報をタブレット端末に入力していく絢巡査長。
「この綺麗な刑事さんが燐の知り合いの刑事さん?」
事情聴取を終えた勇仁が燐に話しかけてきた。
「ラモちゃん、この人は?」
「俺は、燐が誇る超絶セクシーな」ターンを決めようと回ると同時に「祖父です」とあっさり燐に答えられた。
「ラモちゃんのお爺様でしたか。初めまして、私、警視庁命捜班の絢です」
「絢って言うんだ。良い名前だね」
「苗字です」
「あた」肩をガクッと落とす勇仁。
「お爺様が第二発見者なんですから、見た時の状況を話してください」
燐が勇仁に促すと勇仁の姿はなく、別の刑事から事情聴取を受けている習子の元に居た。
「なんか、軽いお爺様だね」
「そうなんです」
「長さんの姿が見えないようだけど。呼んでいないの?」
「あ、いや。その・・・・・・・」
「長さんと何かあったの?」
「あいつとはあれ以来会っていないんで」
「あ、そういう事」絢巡査長は燐の意図したいことが読めたようであった。
「おっ、居た。居た」
一川警部は笑顔で近づいてくる。
「ラモちゃんも災難やったねぇ~」
「まぁ」
「元気ないね。どうしたと?」
「まぁ」
「一川さん、ちょっと」
絢巡査長は一川警部を燐から引き離し、隅の方に移動し状況を説明する。
「なんね。絢ちゃん」
「実はラモちゃん、今日はお爺さんとこの会場に来たみたいで。なんか分からないんですけど長さんとお爺さんを合わせたくないみたいな」
「ああ、そういう事ね。了解」
「で、事件の状況は?」
「おお、忘れとった。被害者は賀美 金衛門さん。死因は、眉間を撃ちぬかれたことによる失血死」
「賀美 金衛門って、あの賀美機械工業の会長でしたよね?」
「よう知っとたね」
「常識です。でも、銃殺って穏やかじゃないですね」
「そうなんよ。しかも相手が、相手がだからなぁ~」
「犯人の割り出しは出来ているんですか?」
ここで燐が話に入ってくる。
「それは今、聞き込みしてると」
「そうですか」
「どうかしたの? ラモちゃん」
「いや、犯人らしき人物の姿もなかったなぁと思って」
「参ったな」
「参りましたね」
命捜班の二人の刑事は頭を抱える。
「ちょっと、失礼します」
燐は一川警部と絢巡査長にそう告げ、その場を後にした。
「一川さん、ラモちゃんは発砲音を聞いていないそうです」
絢巡査長は燐が去ってからも報告を続ける。
「あたしが話を聞いた人もそんなこと言うとったばい」
「サイレンサーでしょうか?」
「う~ん、でも意外と音が鳴るからなぁ。サイレンサーを付けても」
「そうなんですか?」
「そうなんよ」
「へ~」絢巡査長は自分のタブレットにその事をメモするのだった。
一方、燐は長四郎を呼び出す為に電話を掛けるのだが、長四郎は出ない。
再度掛けると出たことは出たのだがすぐに切られてしまった。
そして、三度目の通話で出たと同時に燐は名一杯、電話口に向かって叫んだ。
「切るなァァァァァァァァァァァァァァァァ」
「本題に入って貰ってもいい? ラモちゃん」
「事件が起きたの。今すぐ来て」
「嫌だよ。一川さん呼べよ。警察なんだから」
「もう呼んだわよ。今、来てる。後はあんただけ」
面倒くさい事になった長四郎は心の底から思った。
「誰? 彼氏?」
振り向くと勇仁がニヤニヤしながら立っていた。
「あ、お爺様!! とにかく、早く来なさいよっ」
燐は場所も告げず通話を切った。
「燐にもそういう人が出来て、お爺さん嬉しいやら、寂しいやら」
「そんなんじゃないですっ」
「いや、今のはどう見ても彼氏といちゃついているようにしか見えなかったけどな」
「探偵、探偵を呼んだんです」
「探偵!?」
「はい、そうです」
「探偵ならここに居るじゃないのよ」
「どこに居るんですか?」
「ここに居るじゃない。ここに」そう自分を指差す勇仁。
「お爺様って、探偵だったんですか?」
「知らなかったの?」
「はい」
「マジか・・・・・・」
よろよろとふらつきながら壁に頭をぶつける。
「お、お爺様?」
「で、その探偵にここの場所を教えたの?」
「あ、言い忘れてた」
「可哀想な探偵」
勇仁はまだ知らない長四郎に同情した。
それから約40分後、長四郎は事件現場のヘンターコンウタルホテルに到着した。
ロビーに入るとドレス姿の燐が立っていた。
長四郎は飛んでくるであろうドロップキックを想定し身構えていると、燐はゆっくりとこちらに近づいて来る。
「お待ちしておりました」と柄にもないことを言い、長四郎を事件現場に案内する。
一川警部達と軽い挨拶を交わし、パーティー会場の関係者入口へと移動した。
死体はもう運び出されており、現場には血の海だけが残されていた。
「うわぁ~これは凄いなぁ」
事件現場の惨状を見て、率直な感想を述べる長四郎。
「凄かろ~」と一川警部が言う。
「これだけの血だ。死因は何ですか?」
「眉間の所を撃たれたことによる失血死。いわゆる銃殺」
長四郎の真後ろから声がしたので「うわぁ」と声を上げ驚く。
「お爺様っ」
「お爺様?」
「どうも、燐の祖父で探偵の小上ぇ~勇仁です!!」
華麗にターンを決め自己紹介する。
「おおっ~」
長四郎は拍手しながら、感嘆する。
「やめてください。お爺様」
燐は勇仁を諭すが、勇仁は従うそぶりを見せず長四郎に話しかける。
「君が燐の知り合いの探偵?」
「あ、申し遅れました。自分、熱海探偵事務所の熱海 長四郎と言います」
長四郎も勇仁に引けを取らないターンを決めた。
「やるなぁ~若者」
「そちらこそ」
長四郎と勇仁は互いに認め合う意味の握手を交わすのであった。
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