詐欺-12

 燐は駆け足で命捜班の部屋に入ると、長四郎と一川警部、絢巡査長が驚いた顔で燐を見る。

「ラモちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」最初に質問したのは長四郎であった。

「実はさ、すっごいことが分かったの!」息を切らしながら、燐はその場に居る全員に報告する。

「何が分かったの?」絢巡査長が尋ねる。

「実は、へケべケ達がウチの学校に来たのって仕組まれたことだったの!!」

「ふーん、それで」素っ気ない感じで長四郎は事件関係者の相関図が書き記されたホワイトボードを見る。

「それでって。仕組んだ奴って言うのが」

「へケべケって言うんだろ?」長四郎は燐が言う前に先に言った。

「どうして、分かったの?」

「超・能・力!!」

「はぁ?」

「そんな事よりさ、へケべケの指示で動いた奴がいるだろう?」

「いたわよ。それが聞いて驚くことなかれ、私が昨日見つけたバリバリchannelの運営者」

「へ~世界って案外狭いんだね」

「もっと驚きなさいよ。それにもう一つ、大物kuunhuberの正体が分かった」

「オンジンって言うんでしょ」

「ぐっ!!」

 これまた長四郎に先を越された燐は下唇を噛んで悔しがる。

「長さん、全部お見通しやねぇ~」感心する一川警部に長四郎は「小娘の考えていることぐらい分かりますよ」と勝ち誇ったような顔で答えた。

「じゃあ、あんたの方は何か収穫あったの?」

「いや、何にもない」

「よくそれで私に勝ち誇ったような顔が出来るね」

「出来るよぉ~」

「はぁ~それで、今何してるの?」

「うん? 推理ぃ~」

 長四郎はホワイトボードをコンコンと叩く。

「その推理とやらで、何が分かったの?」

「分からん!!」きっぱりと長四郎は即答する。

「全然、ダメじゃん」

「そう、ダメなの」絢巡査長も燐の意見に賛同する。

「このオンジンって奴が、どげん風にこん事件に関わっておるのかが見えんね」

 一川警部は腕を組みしかめっ面でホワイトボードに貼ってあるオンジンのコラ画像を見つめる。

「聖人君子ぶっている奴なんてのは、本当の顔を見せたりしないものですよ」

「何? 長さんは、こん人が聖人君子ぶってるって知っとうと」

「知ってるも何も。会ったら分かりますよ。ラモちゃんも胡散臭い奴だって言ってましたからね」

 長四郎のその言葉にうんうんと頷き「確かに胡散臭い感じの善人面した奴だった」と発言した。

「ふーん。そう聞くと、ますます会いたくなってくるね」

「一川さん」絢巡査長は、浮足立つ一川警部を窘める。

「今日のあの感じで行けば、社長の鎌飯を突いても手応えは感じないから、オンジンを突いてみるかな」

 長四郎はそう言って、オンジンのコラ画像を小突く。

「ねぇ、どうして、オンジンの写真だけコラ画像なの?」

 燐はホワイトボードのオンジンのコラ画像を指差して、理由を尋ねる。

 被害者のへケべケや事務所社長の鎌飯、尾多の写真は証明写真なのだが、オンジンの写真はネットで誰かが作った変顔の表情のオンジンの顔がゴミ袋に突っ込まれゴミ捨て場に捨てられているコラ画像であった。

「ネットで画像検索して一発目に出て来た写真だったから」

「にしても、この写真はないんじゃない?」

「細かい事は気にするな」長四郎は悪びれる様子もなく再び写真を小突いた。


 翌日、長四郎と燐はkuunの事務所を訪れた。

 長四郎はいつも通り、受付の女性に社長に用があると伝えるとこれまた、いつも通りに社長室へと通された。

 だが、今回はいつもと違って鎌飯が社長室で二人を待っていた。

「あ、どうも。社長」

 部屋に入ると同時に長四郎は軽い挨拶をする。

「どうも」いつになく素っ気なく返事をする。

「今日、伺ったのはですね」長四郎が用件を伝えようとした時「こう、毎日訪ねて来られると迷惑なんですよ」鎌飯は迷惑だと言わんばかりの顔で長四郎を見る。

「すいません。今日でこちらに来るのは最後です」

 その一言に鎌飯の眉がピクリと動く。

「というのも、オンジンさんのお宅の住所を教えて頂きたいんですよね。ああ、決して変な事に使おうって訳じゃないんで。ご安心を」

「じゃあ、一体何に使うんって言うんだ?」

「事件解決の為に、捜査協力をお願いしたいだけですよ」

「捜査協力って。へケべケの事件は解決したんでしょう?」

「いいえ。あの事件の根源は明らかになっていのでね、解決とは言えないんですよ。な、ラモちゃん」

「うん。そんなにほじくり返されたくないような事があるの?」

 燐にそう言われた鎌飯は、苦虫を嚙み潰したような顔で燐を見る。。

「まぁ、清廉潔白で売っているオンジンさんが犯人だとは思っていませんから。いや、待てよ。そこまで拒否するってことは、事件と関係あるんじゃないか?」

「そうかもね。一川さん達に報告しよう」

「頼む」

 燐がスマホを取り出し、一川警部に連絡しようとすると「待ってくれ!! 教える。教えるから、大事にしないでくれ」鎌飯はそう懇願した。

「じゃ、教えて頂けます?」

 長四郎はそう言って、勝ち誇った顔でニヤッと笑うのだった。

 その頃、警視庁の廊下を走り、齋藤刑事は命捜班の部屋に向かう。

「大変なことが分かりました!!」

 その言葉と共に、齋藤刑事は部屋に居る一川警部と絢巡査長に大声で報告した。

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