詐欺-13

「大変なことが分かりました!!」

「何が分かったと?」一川警部は、きょとんとした顔で齋藤刑事に質問する。

「実はkuunhubで配信している女性の失踪が相次いでいることが、分かりました」

「長さんの言う通りだったですね。一川さん」

「そうみたいやね」

「僕も熱海さんに言われて調べてみたら、このような事実が出てきて驚きました」

 齋藤刑事は行方不明者リストを絢巡査長に渡す。

「じゃあ、この人たちが今回の事件に巻き込まれてるのか、裏付けするから手伝って」

「え! 俺もですか?」

「当たり前やないの。ほら、つべこべ言わずにやるっ!!」

 一川警部に背中をドンっと叩かれ、椅子に座らされる。

「はぁ~」

 齋藤刑事は捜査一課長に怒られるなと思いながら、作業に着手した。

 そして、長四郎と燐は鎌飯から聞き出したオンジンの住居兼撮影スタジオのタワーマンションに来ていた。

 事前に鎌飯からオンジンにアポイントメントを取っていてくれたので、すんなりとタワマンの中へ入ることが出来た。

 タワマンの最上階にオンジンは住んでおり、エレベーターを上がってすぐがオンジン部屋の玄関前に繋がっている使用であった。

 エレベーターから降りると、オンジンが二人を待っていた。

「いらっしゃい。鎌飯から話は聞いています」

 二人が挨拶する前にオンジンはそう言って、玄関ドアを開け手招きして部屋に招き入れる。

『お邪魔しまぁ~す』

 声を揃えて部屋に入る長四郎と燐は、撮影スタジオとして使われている部屋に通された。

 部屋は25畳程の広いリビングで、でかいソファーが窓際に置かれておりその1m先にカメラが設置されていた。

 昼間なのにカーテンは閉め切られていた。

「いや、動画で拝見していましたけど。本当に広いお部屋ですねぇ~」長四郎はキッチンで飲み物を出す用意をするオンジンに向かって言うと「ありがとうございます。これも貴方のような視聴者さんのおかげですよ」とコップにお茶を注ぎながら答えた。

「ここで、一人で動画を作っているんですか?」燐は部屋を興味深そうにきょろきょろと見回しながら、オンジンに質問した。

「ええ、そうですよ。企画、撮影、動画編集全部自分でやっていますから。良かったら、そのソファーに座ってください」

 キッチンからお盆を抱えて出てきたオンジンは二人にお茶をテーブルの上に置きながら促す。

「失礼します」長四郎はそう断りを入れ、燐と共にソファーに腰掛ける。

「今日はへケべケさんの事件について聞きに来たそうですね」

「ええ、そうです。では、本題に入りましょう」

 長四郎はそう前置きし、スマホを操作して例の「kuunhuberニュージェネレーションズ」の勧誘画面を見せる。

「これが何か?」

「このコンテストの詳細について何か知っているんですか?」

「いいえ。只、僕も審査員に参加する事しか分かっていません」

「そうですか。では、次の質問です。この勧誘を受けた参加者が行方不明になっているのですが、何かご存じじゃないですか?」

 ストレートな質問をする長四郎の考えることが読めず、燐は困惑しながらオンジンの返答に耳を傾ける。

「それ本当ですか? 今、初めて知りました」

 面食らったような顔をしてオンジンは驚いて見せる。

「残念な事ですが、事実なんです。あの、申し訳ないのですがお手洗いを貸して頂けませんか?」

「ああ、それでしたら、ここの部屋を出て左に曲がって突き当りにありますから」

「ありがとうございます!」

 長四郎は慌てた感じで、駆けってトイレに向かう。

「すいません」燐は恥ずかしそうにオンジンに謝罪する。

「いえ。それより、さっきの話は本当ですか?」

「ええ、本当みたいです。あの、私からも質問しても良いですか?」

「良いですよ」

「へケべケさんとは、仲良かったんですか?」

「まぁ、特に親しかったわけではありませんでしたけど。特段、いがみ合っていたりとかはなかったです」

「そうでしたか。何か変な質問してすいません」

「気にしないで下さい」

 そこから、燐とオンジンは会話に詰まり無言になってしまう。

 トイレに行ったはずの長四郎は、オンジンの家を捜索していた。

 手始めに洗面所の戸棚を開け閉めして、中身を確認する。

 洗面台の下の戸棚には女性用のヘアスプレーやスキンケア用品がしまってあった。

 そこの写真を撮影して戸を閉じ、その足で編集ルームと思われる部屋に入るとスリーブモードのノートパソコンと綺麗に並べられたゲーム機、モニターが載った机と椅子、グリーンバックの垂れ幕が置いてあるだけの殺風景な部屋であった。

 その部屋にかかっているカレンダーには、びっしりとスケジュールが埋まっていた。

 長四郎はそのカレンダーを写真に収める。

「何しているんですか?」

 振り向くとオンジンが、部屋の前に立っていた。

「あ、申し訳ない。ちょっと、迷ってしまって」

「こんなマンションで、迷うなんて珍しいですね」

「よく言われるんです」長四郎は恥ずかしそうに答える。

「そうですか。何事も無くて良かったです」

 オンジンは一向に帰ってこない長四郎を心配して様子を見に来たようだった。

「ご心配をおかけして、すいません。今日の所は帰ります。ラモちゃーん、帰るよぉ~」

 長四郎はリビングに居る燐に向かって大声で喋る。

「お忙しい中、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。何のお役にも立てず申し訳ありません」

「では、失礼します」

 長四郎はそうオンジンに告げ、部屋を出ると玄関前のエレベーターホールで燐が待っていた。

「来たわよ」

 最上階に着いたエレベーターに乗りこんだ二人は、一階へと降りていく。

「ねぇ、何か分かった?」燐は長四郎が部屋を探し回って事件に繋がる何かを調べていると踏んでの質問を投げかけた。

「それをこれから調べる」

「分かった」

 燐はそう返事をするだけだった。

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