映画-14

 一川警部に通報して20分程で、最寄りの警察署から捜査員が現場にお駆けつけた。

 長四郎は自分達の事情聴取は一川警部に行ってもらう旨を伝え、ショックを受けている燐のケアを優先させた。

 近くの自販機でペットボトルのお茶を買った長四郎は、所轄署の捜査員が乗ってきた覆面パトカーの中で塞ぎこんでいる燐にお茶を渡すが、受け取らない。

「何? 自分のせいで死んだと思っているわけ?」

 燐は静かに頷く。

「バッカだなぁ~」

 その一言にカチンときた燐は長四郎を睨みつける。

「お~怖っ!!」

 自分の体をさすって身震いする。

「バカにしてんの?」

「んにゃあ、そのつもりはござらんよ。

ま、死んだのはラモちゃんのせいじゃないよ」

「そんな訳ないじゃん!! 私が早く見つけてればこんな事に・・・・・」

 燐は俯き涙を流す。

「それは俺の台詞。良いから涙を拭け」長四郎はハンカチを燐に渡す。

「ありがとう」

 燐はハンカチを受け取り、涙を拭く。

「私が転校してすぐに声をかけてくれたのが里奈だったの。里奈が話しかけてきてくれなかったら、多分、ボッチだった。だから、里奈から「行方不明のお兄さんを探したい」って言われた時は、絶対に私が見つけなきゃと思ったわけ。でも、私は素人だから熱海さんを紹介したの」

「そういう経緯があったんだ」

 長四郎は買ってきたお茶を口にする。

「でも、見つけられなかった」

「うん」

「私、里奈に合わす顔が無いよ。

絶対、見つけるって息巻いていたのに」

「ラモちゃんが友達思いなのはよく分かったけど、死んだのはラモちゃんのせいではないぞ。何度も言うけど、本職の俺がこの部屋を見つけておけば死なずに済んだじゃないのかな」

「でも・・・・・・」

「それに過去は変えられないし、里奈ちゃんのお兄さんに何があったのかを突きとめてあげるのが、最適解じゃないのかな。俺は、そうするつもり」

 そんな時、窓をコンコンと叩かれる。

 音がした方を見ると、一川警部が笑顔で手を振っている。

 長四郎は覆面パトカーを降り、ショックを受けている燐を絢巡査長に任せて一川警部と共に現場に入る。

 所轄署の女性刑事が部屋に入ってきた2人に開口一番「お疲れ様です!! こちらで見て欲しい物が」と言われ、ウォークインクローゼットに案内される。

 そこには、血塗られたレインコートがあった。

「あ~これは、クロやね」一川警部は、それを見ながら呟く。

「そうみたいですね」

 長四郎は首を縦に振り、一川警部の意見に賛成する。

「死体を確認しますか?」

 女性刑事が2人に尋ねる。

「お願いします」長四郎は真っ先に答える。

 恵一の遺体はうつぶせに倒れており、その死に顔は何かに絶望したような顔であった。

「なんで、こんなに苦しんでいるんやろ?」

 一川警部は首をかしげる。

「死因は、毒を盛ったことによる可能性が高いようです。司法解剖してみないと詳細は分かりませんが」

 女性刑事の説明内容に聞き耳を立てながら長四郎はしゃがみ込み、恵一の遺体をしっかりと観察する。

 恵一の服装は、ノーネクタイでカッターシャツとパンツスーツ姿で少し臭った。

 髪の毛も脂ぎっていて、風呂に入っていないようであった。

「ん?」

 恵一の手首に何かの痕があるのを、長四郎は見逃さなかった。

 死体をなるべく動かさないように、カッターシャツの袖口をめくると手首を拘束されていたような痕であった。

「一川さん、これ」

 長四郎は手首の痕を見せる。

「えっ!! 何でこんな物があると?」

「これの通りだと腑に落ちますよ」

 女性刑事がプリントアウトされた遺書を二人に見せる。

「何々?」

 長四郎と一川警部は顔をくっつけながら、遺書を読む。

 遺書の内容は、次のようなものであった。

 池元 知美から始まった一連の殺人事件は自分が行ったと。

 犯行の動機として、当初は池元 知美を殺害するだけであったが一度、人殺しの快楽を覚えてしまい次々と犯行を重ねていった。

 今回の被害者を持って最後の殺人とし、手首の痕は死ぬ前に被害者が襲われる気持ちを知りたいと思いSMプレイをマゾ側で行った際、女王様に手首を拘束されてできたものであると書かれていた。

 最後に、里奈に迷惑をかけてごめん。

 兄は死をもって償うという文面で、締め括られていた。

「これ、信用できます?」

「う~ん。ウラを取ってみないと分からんけん」

 長四郎の問いかけに、差し当たりの無い答えを伝える一川警部。

「ですよね」

「まぁ、本人が認めとるわけやし。証拠品もねぇ」

 一川警部は絶賛、鑑識作業中の捜査員を見ながら話す。

「ああ、そう言えば里奈ちゃんには?」

「もう連絡しとるんじゃなかと?」

 長四郎は依頼人の里奈になんと説明すればよいものなのかと考えていると、燐が絢巡査長に連れられて部屋に入って来た。

「もう良いのか?」

 目を晴らしている燐に、長四郎は質問する。

「うん」

 燐は静かに頷いて、返事をする。

「私、お兄さんに何があったかを自分の口できちんと説明したい。

それが今の私に出来る事だから」

「分かった」

 燐の真剣な眼差しを受けて、長四郎は了承した。


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