映画-13

 現場に着くと、野次馬がひしめき合っていた。

 気合いを入れて野次馬の中に飛び込もうとすると、制服警官が声を掛けてきた。

「探偵の熱海さんですか?」

「そうですけど」

「話は聞いております。どうぞ、中へ」

 制服警官は野次馬に「開けて下さぁ~い」と大声を挙げながら野次馬を搔き分け長四郎を事件現場に案内する。

 規制線の前に着くと、規制線テープを持ち上げ中に通してくれる。

「ありがとうございました」

 長四郎が礼を言うと制服警官は、はにかみながら敬礼する。

 現場で鑑識作業をする鑑識捜査員の邪魔にならないよう死体がある場所まで、移動し死体を囲っているブルーシートの中に入る。

 すぐに手を合わせて、死体を確認する長四郎。

「あっ!!」と思わず、声を上げる。

 そこに倒れていたのは、昨日、里奈にサインを求めてあれこれ話していたヒョウ柄の服を着ていた女性であった。

「被害者は、多摩たま スミさん、56歳。専業主婦だそうです」

 長四郎の近寄って来た絢巡査長が、被害者の身元を教える。

「専業主婦ね。この人、昨日サイン貰っていた人だよね?」

「え? そうでしたっけ」

 絢巡査長は覚えていないようだった。

「そうだよ。ウラ取ってみな」

「なんで、あんたが命令するのよ」

 燐が会話に入ってきた。

「命令って言うけどな、そういうバカ女(燐)は、ここで何してんの?」

「私は事件解決の為に、協力してるのよ」

「何が、「協力してる」だよ。迷惑かけているだけなのに。てか、何で、制服でうろついているの!?」

 燐の服装を見て、長四郎は驚く。

「仕方ないじゃない! 学校行こうかなぁ~と思っていたんだけど。事件が私を呼んでいるっていう勘が働いたから今、こうして居るわけ」

『はぁ~』

 その場にいる燐以外の人間は、呆れて何も言えないといった感じの溜息をつく。

「死因は?」

 燐の事を気にしないと決めた長四郎は、被害者の死因を尋ねる。

「頸動脈を刺されたことによる失血死だそうです。犯人も相当の返り血を浴びたようで。これを見てください」

 絢巡査長が地面を指差し、点々と血痕がありどこかへ続いていた。

「これ、どこに続いているの?」

「こちらへ」

 絢巡査長はそこから、30m離れた所にある公衆トイレに案内する。

「ここの男性トイレの個室まで続いていました。犯人は、ここで着替えたものだと思われます」

 トイレ内で鑑識作業が行われている為、邪魔にならぬよう中に入らず外で説明を受ける長四郎。

「近くに防犯カメラは無いようだね」

 長四郎は辺りを見まわし、防犯カメラの有無を確かめる。

「ええ。警告用のシールは貼っているのですが」

 絢巡査長はトイレの入り口に貼ってある「防犯カメラ設置」のシールを指す。

「パフォーマンスね」

「それと、近所の住民から犯行時刻とされる午前5時頃にバイクのエンジン音を聞いたという証言を得ています」

「じゃあさ、その人にあのバイクのエンジン音に近いか、確かめてくれる?」

「同じ型のバイクを持ってくる。ということですか?」

「いやいや、YouTubeで該当の車種を検索したらレビュー動画がヒットするし、それを見せればいい。正確じゃなくても、近い音かどうか確認できるでしょ」

「確かにそうですね。やってみます」

 盲点だったと言わんばかりの顔でメモをとる絢巡査長。

 その二人の会話を聞いていた燐は、当たり前な顔をしてバイクの車種を特定している二人が不思議で仕方なかった。

「捜索の方はどうなっているの?」

「取り敢えず、多数の捜査員を動員して捜索していますが、まだ」

「そう。後は、絢ちゃんに任せるとして。これから俺、ここに行くから」

 里奈が稽古部屋として使っていたビルに行くことを伝え、住所を控えさせる。

「分かりました。何かあったら連絡ください」

「あいよぉ~」

 長四郎はそう返事をし、事件現場を去る。

 燐はすぐ様、距離を取りつつ長四郎に気づかれないよう尾行を開始する。

 稽古場が入っていたといわれるビルは、里奈の住むタワマンからバイクで15分の距離にあった。

 長四郎はビルが合っているかを確認し、物陰に隠れている燐に向かって話し始める。

「それで尾行できると思ったら大間違いだぞ」

「チッ!!!」

 長四郎にも聞こえるくらいの舌打ちをして、燐は物陰から姿を現す。

「いつから、分かってたの?」

「あの現場を離れた所から」

 長四郎の答えを聞き燐は再び、「チッ!!」と舌打ちをする。

「ラモちゃん、良いか? 付いてくるのは構わないが、ここから何かあっても自己責任。

怪我しても知らないからな」

「分かった」

 長四郎の真剣な表情を見て、燐も覚悟する。

「行くぞ」

 長四郎はそう言うと、燐を連れて三階にある部屋へと昇っていく。

 部屋の前に着き、チャイムを鳴らすが反応はない。

 電気メーターに長四郎は目をやると、回っていた。

 つまり、中で電気が使われている証拠であった。

 今度は、ドアをノックする。

 しかし、反応はない。只の屍のようだ。

 今のは、忘れてくれ。(筆者談)

「反応なし・・・・・・」

 長四郎がポツリと呟くと、ガチャっとドアが開く音がした。

 音がした方向を見ると、燐がドアを開けていた。

「お、おい!!」

 中に入ろうとする燐を引っ張り出す。

「入っちゃいけないの?」

「今は、な。ラモちゃんは、ここで待ってな」

「なんでよ! 私も行く」

「これだから、素人は・・・・・・部屋の中に、殺人犯が居るかもなんだ。2人、一緒に入ってやられても仕方ないだろう。だから、ここで待機。もし、俺が出て来ず別の奴が出てきたら一目散に逃げろ。良いな?」

「わ、分かった」

 燐も状況を理解し、了承する。

 そして、部屋の中に入って行く長四郎を見送る。

 中に入った長四郎はリビングの部屋からエアコンの動く音が聞こえてきたので、そろりそろりとリビングに近づいていく。

 ドアを開ける前に一呼吸置き、一気にドアを開けると恵一が倒れていた。

「大丈夫ですか!」

 長四郎が声を掛けて息をしているか確認すると、恵一は息をしていなかった。

 手を取り、脈を確認するが脈もない。

「くそっ!!!」

 長四郎はすぐ様、一川警部に連絡すると同時に燐がリビングに入ってきた。

「噓でしょ・・・・・・」

 燐は口元を押さえて、その場にへたり込み涙を流し始める。

 長四郎はそんな燐を眺めながら、一川警部に現状を報告する。

「じゃ、そういうことで。お願いします」

 長四郎は通話を終え、燐に歩み寄り「部屋を出よう」とだけ告げると泣きじゃくる燐を支えながら部屋を出て一川警部たちの到着を待つのだった。

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