対決-15
「保険のセールス?」
声を掛けてきた男は不審者を見るかのような目で、燐と芽衣を見る。
「そうです。本日、財前慶次様にご依頼頂きました保険のプランをお持ちしました。あの、財前様は?」
燐は動揺する事なくスラスラと男に目的を伝える。
「財前は、不在です。本当に財前とお約束を」
「はい、そうです」
「参ったな。少々お待ちください」
男はそう言って、バックヤードに戻っていく。
「芽衣ちゃん。すぐにでも逃げる準備しといて」
「え?」
「私、一人じゃ手に負えないかもだから」
昨晩、長四郎がボロボロの状態で帰って来たのを今頃になって思い出した。
長四郎が手こずるという事は、自分一人じゃ芽衣を守りきれないそう考えていると芽衣のスマホに着信が入る。
「お兄ちゃんから」
「芽衣ちゃん。その電話に出ないで」
「でも・・・・・・」
「良いから」
「分かった」
芽衣は了承し、二人は急いで金星創業のビルを出ていく。
ビルを出て一目散に逃げ出す二人。
どのくらい走ったのか、取り敢えず追っ手が自分達を見つけるまで時間がかかる場所まで逃げてきた。
その間も芽衣の兄・慶次から着信が立て続けに入っていた。
「ら、羅猛さん。電話に出ても良いかな?」
息を切らしながら燐に尋ねると、燐は黙ったまま頷いて返事をする。
芽衣は電話に出る前にふぅ~ っと深呼吸すると、スマホの通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「もしもし。俺のこと探してるのか?」
「あ、うん。連絡付かないから」
電話の向こうの声は、慶次本人であった。
「悪かったな。今まで海外に行ってたからそれで連絡が付かなかったんだ」
「海外?」
「そう。ちゃんと、お土産もあるから。だが、もう少し仕事に時間がかかりそうなんだ。お土産はその後でって事で良いかな?」
「あ、うん。気を付けてね。たまには、連絡してよね」
「分かったよ。急な出張だったから、許してくれよ。じゃあな」
慶次から通話を切った。
「全く。君の妹にここまでの行動力があったとは驚かされたよ」
そう慶次に告げたのは、金星創業社長・
「すいません。ご迷惑をおかけして」
前尾に謝罪する慶次の頬には大きな痣が出来ていた。
今回の不始末で前尾から制裁を受けたのだ。
「過ぎたことだ。それより、例の目障りな探偵の事だ」
「はい。報告によれば、楊が始末したと」
「死体は確認したのか?」
「そこまでは・・・・・・」
前尾は椅子から立ち上がると、慶次の顔目掛けてハイキックを浴びせる。
床に倒れた慶次を何度も何度も踏みつける前尾。
「死体がなきゃ意味ないだろ!! 馬鹿野郎がっ!!!」
「すいません。すいません」
慶次はただ謝罪するしかなかった。
慶次がそんな目に合っているとも知らない芽衣は安堵するのに対して、燐はこの状況が不気味で仕方なかった。
長四郎に相談しようかとも思ったが、祖父と何かを追っているので頼りにならないと考え、命捜班の二人を頼る事にした。
芽衣を自宅まで送り届けた燐は、絢巡査長と指定されたファミレスで合流した。
「変なタイミングで、お兄さんから連絡があったんだね」
絢巡査長はタブレット端末にメモしながら、燐に尋ねる。
「はい。気味が悪いくらいのタイミングで。しかも、前日にはお兄さんの部屋が荒らされていたんですよ? 絶対、何かを隠しているに違いないと思うんです」
「そうね。芽衣ちゃんは、その事について何か言っているの?」
「いいえ。お兄さんと連絡が取れたので、それで安堵したみたいで」
「そう。ラモちゃん」
「はい」
「怒らないで聞いてね。この件から手を引いて欲しいの」
「どうしてですか? 長四郎が襲われたからですか?」
「知ってるの」
「そりゃ、ボロボロな感じで帰って来たんで。流石に分かりますよ」
「じゃあ」と絢巡査長が言いかけた時「分かりました。芽衣ちゃん次第で手を引くか。決めます。私の依頼人は芽衣ちゃんなので、依頼人に従います。それと、今、話した内容を彼女に話しても? 勿論、オブラートに包んだ上で、ですけど」
「構わないわよ。但し、調査を続けるなら必ず連絡して」
絢巡査長は真剣な目で燐に告げるので、今回は本当にただ事ではない事を察した燐。
「分かりました」と燐もまた真剣な目で返事するのだった。
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