監禁-4
「鍵、借りて来たわよ」
燐はそう言いながら、職員室で借りて来た鍵を長四郎に渡した。
「Thank’s」長四郎はそう答え、鍵先を見るとボロボロであった。
そして、鍵を挿しこむのだが中々入らない。
「あれ?」長四郎はなんとか鍵を挿しこもうと努力する。
「あ、もしかして、壊したんじゃない?」
「そんな事するか。ラモちゃんじゃあるまいし」そう言い終えた時、自分が言ってはいけない事を理解したのか、恐る恐る燐を見ると満面の笑みの燐が拳を固めて立っていた。
「最後に言い残すことは?」燐の質問に長四郎は「母ちゃん、産んでくれてありがとう」そう答えたと同時に、燐の拳が顔面に叩きつけられるのだった。
「早く開けなさい」
「ひゃい(訳:はい)」
顔を腫らし涙目の長四郎は、再び鍵を挿しこんだ。
「あ、入った」
「ホントだ」
長四郎と燐は顔を見合わせて、驚く。
そして、鍵を回すとガリガリっと変な音を立てながら鍵をかけるのだった。
「これ、壊れてない?」
「そうだな」そう返事しながら、鍵をガリガリっと音を立てながら開ける。
「開いたわね」
燐の感想を聞きながら長四郎は鍵を引き抜くと、鍵の先端がボロボロになっていた。
「あーあ。ボロボロになっちゃった」
「ホントねぇ~何でだろう。鍵穴に何か詰まってんのかな」
「いや、違うね。無理矢理、開けたせいで、鍵の溝が傷ついたんだろうな」
「じゃあ、あんたが壊したんだ」
「ラモちゃん、この鍵持ってきた時に鍵先がボロボロになっているの気づかなかったの?
注意力散漫だな」
「やかましいわっ!!!」
再び、長四郎の尻に蹴りを叩きこむ燐だった。
鍵を返した二人は学校を出た。
「これからどこに行くの?」燐の質問に長四郎は「どこに行くんだろう。私達、人間は」と答えながら歩を進める。
「真面目に答えなさいよ」
「真面目にって言われても、犯人に繋がるような物は見つけきんなかったからなぁ~」
「それはそうだけど・・・・・・」
それから、二人は会話を交わすこともなく脚を前へと進めていく。
一方、絢巡査長と齋藤刑事は二重格人の主治医から攻める事にし、二人は警察病院系列の心療内科を主として扱っている病院を訪れた。
二重の担当医は、50代半ばの男性医師の
「それで、私にお聞きしたい事とは何でしょうか?」
診察室に通された絢巡査長と齋藤刑事に早速、要件を尋ねてくる表裏医師。
「こちらの患者さんの二重格人さんについてお話を聞かせてもらいたいのですが」
絢巡査長は二重の顔写真を見せながら伝えると「我々も守秘義務という物がありますから、全ては答えられませんよ」表裏医師はそう答えた。
「その事は分かっております。答えられる範囲で結構ですので」
「分かりました」
「では、二重さんの治療は進んでいるのでしょうか?」
「ええ、進んでいますよ。それより、二重さんの病名はご存知ですか?」
「確か、解離性同一性障害でしたよね?」ここで齋藤刑事が口を開いた。
「そうです。分かりやすく言えば、多重人格の症状です。二重さんは、別人格の方で殺人をしていました」
「そうなんですか。捜査資料には、解離性同一性障害であるとまでしか書いていなかったので」
「そうでしたか。二重さんの症状は特殊で別人格の時の記憶はないんです。普通は、別人格を認識していたり、別人格で動いている時の記憶を夢として認識していたりするのですが二重さんにはそれが無いんですよ」
「では、完璧に人格が分かれているそういう事でしょうか?」絢巡査長の問いに「そうです」とだけ答える。
「それで、二重さんの治療はどこまで進んでいるのでしょうか?」
「失礼ですが、二重さんは何かの事件に関わっているのでしょうか?」
「可能性の話です。消去法で調べているだけなので気にしないで下さい」
齋藤刑事は愛想笑いを浮かべながら、誤魔化す。
「そうでしたか。では、二重さんが犯人ではないことを証明するために現状を伝えておきます。オフレコという事で」
「分かりました。では、お願いします」
「はい。二重さんの症状は寛解の方向へ向かっていますので、多重人格が表出し人を殺すような事はないですよ」
自信満々に発言する表裏医師を見て、絢巡査長はこれ以上話を引き出せないと踏みここを引き上げることにした。
「分かりました。大変参考になりました。齋藤君、行くよ」
「はい」
齋藤刑事はそう返事をし、診察室を後にした。
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