返金-18
翌日、長四郎は一人でピシャリが住むマンションの前で、目的の住居人が出てくるのを待っていた。
そうすると、見慣れたワンボックスカーがこちらに走ってくるのが見えた。
「おっ、出てくるな」長四郎は手ぐすねを引いて待つ。
ワンボックスカーがマンションの前に停車したと同時に、マンションからピシャリが出てきた。
「来たっ!!」
ワンボックスカーに乗り込むピシャリと一緒に長四郎もワンボックスカーに乗り込む。
「何だ! お前!!」驚いたピシャリは長四郎を追い出そうとする。
「いやいや、追い出さないで。運転手さん。車、走らせて」
「おい! 警察!!」
「は、はいっ!!」運転手はスマホを手に取り、警察へ通報しようとする。
長四郎は運転席を蹴り、「早く、車を出せ!!」と怒鳴りあげる。
「はいぃ!!」
運転手はアクセルを名一杯踏み、車を急発進させる。
「おいっ! 警察を!!」
「まぁまぁ。ピシャリさんとお話をしたくて、こんな荒い手を使わせてもらいました」
「俺に話?」
「そうです。実はね、面白い話を聞いちゃったんですよ」
「面白い話?」
「ええ、とんでもなく面白い話です」
「勿体ぶらず、早く言えよ! こっちは、時間ないんだよ!!」
「怒りっぽい人だな。彼女さんの前でもそうなのかなぁ~」
長四郎は以前に撮影した写真を見せる。
「なんや、週刊誌の人間か。どこの週刊誌や」
「ノンノン。週刊誌ではごじゃりません。探偵です」
「探偵? その写真を買ってくれって話しか」
「ノンノン!! これは、ほんのプロローグ」
「プロローグ?」
「担当直入に言いますね。あんた、人殺してるでしょ?」
「いきなり、何を言い出すかと思えば・・・・・・ そんな訳ないやろ!!」
「そんな怒らなくても良いのに。ま、そんなに怒るのを見て確証に変わったんで」
「何が確証や。お前、名誉毀損で訴えるぞ!」
「名誉毀損って。俺がいつ、あんたが殺人犯だって言いふらしたよ。言いふらし回っているなら、それが通るけど」
「お前、何者だ?」
「だから、ただの探偵ですよ」
「目的は何だ? 金か?」
「金、金、金って。これだから、成金はや~ねぇ~」
「ムカつく奴だな」
「よく言われます」
ピシャリと長四郎を乗せたワンボックスカーは銀座で停車した。
長四郎はいの一番に車を降りて、ピシャリに向けてこう告げた。
「最後に、あんたが誰を殺したのかは察しがついているから。宜しくね」
長四郎はバキューンとピシャリを撃つジェスチャーをし、銀座の街へと消えていった。
「何だ? あいつ」
「さぁ?」運転手は首を傾げるしか出来なかった。
ピシャリと別れた長四郎は銀座の歩行者天国を歩きながら、一川警部に電話する。
「一川さん。当該の人物に接触しましたよ」
「行動力凄いなぁ! 長さん」
「いやいや、警察じゃできない事をやっただけです」
「手厳しいこと言うねぇ~ そいで、相手の反応は?」
「めっちゃ、怒ってきましたよ。名誉毀損で訴えるとも言われました」
「そら、一大事じゃない」
「もう一大事中の一大事ですよ」
「で、これからどうするの?」
「う~ん。それは相手の出方次第ですかねぇ~」
長四郎はそう答えながら、自分を尾行する男に視線をさり気なく目を向けるのだった。
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