支援-12

 長四郎は東と源を尾行していた燐と合流して、追跡を続けていた。

「俺が居ない間に動きあった?」

「なかった」

「そう」

 東と源は談笑しながら、高級レストランに入っていく。

「金あるか?」

「勿の論よ」燐は、ブラックカードを見せる。

「ゴチになりますぅ~」

 長四郎と燐は後を追うように、入店した。

 店は、高級フレンチレストランであった。

 予約なしで席に着けるか、心配であったが杞憂で終わった。

 今日は二席分空きがあるとの事で席につくことができ、かつ、東と源が座る席から目立たない充分な距離が取れた席に座る事が出来た。

「ラッキーだったね」

 燐はそう言いながら、席に着く。

「ああ」

 長四郎はそう答えながら、ギャルソンにメニューを渡してもらう。

 メニューを見ると流石、高級レストランといった値段のメニューが書かれてあった。

 長四郎は何を頼もうか考えていると、対面で座る燐からうなり声が聞こえてきた。

 恐る恐る見ると燐がしかめっ面で、メニューを見ていた。

 多分、メニューに何が書いてあるか分からないのだろう。

 なんせ、メニューは全てフランス語なのだから。

 長四郎はすぐ様、頼む品を決めギャルソンを呼ぶ。

 ギャルソンはすぐに注文を伺いに来た。

「お決まりでしょうか?」

「あ、はい。俺は」

「彼は私が頼む物と同じ物でいいです。私は・・・・・・」

 長四郎の注文を遮り流暢なフランス語を駆使し、燐は注文を完了させる。

「では、少々お待ちください」

 ギャルソンはそう言い、2人の元を去った。

「おい、勝手に決めんなよ」

「その話は後」

 燐はそう言って、席を立ってトイレに向かって歩き始めた。

 時を同じくして、東達が座る隣席の50代ぐらいの女性客もまたトイレに向かっていった。

 それから10分程、帰ってこなくスープが届き何をしているのか、少し心配になりながらスープを口に付ける長四郎。

 すると、何もなかったように燐が席についた。

 その姿を見て長四郎は、スープを口から噴き出しそうになる。

 燐はミニスカポリスの服装から、ぶかぶかの正装の服に身を包んでいたのだ。

 そして、燐が着ていたミニスカポリスの衣装を今にもはじけそうになりながらその身に包んだ50代ぐらいの女性が自分の席に戻っていった。

「あ、もう来てたんだ」

 燐はそう言うと、少し冷め始めたスープを飲む。

「お、おいその服・・・・・・」

「ああ、あの格好恥ずかしいから着替えさせてもらった」

「そういう事じゃなくてだな」

 すると、東達が席の方からガシャーンと皿が割れる音が聞こえてきた。

 そちらに視線を向けると、50代ぐらいの女性の旦那であろうが床に倒れていた。

 奥さんが突然、訳の分からない姿をして帰ってきたのでショックのあまり失神したようであった。

「あ~あ。ラモちゃんのせいで、おじさんが倒れちゃった」

「奥さんが若返りを図っただけで、倒れるなんてやわな男ね」

 燐はそう言って、鼻で笑う。

 隣席に座っている東達は、我関せずといった感じで食事を続けていた。

 何を話しているのか?

 そんなことを考えながら長四郎は、次々と出てくる料理を食べる。

 燐は料理を食べながら時々、下を向き何かをしていた。

 マナーがなっていないなと長四郎は思ったが、注意はしなかった。

 だが、これが後々、功を奏するのだ。

 それから2時間が経過した頃、お互いのテーブルにデザートが届きコース料理を食べ終えた。

 東はキザな感じでシェフを呼び、何か話していた。

「美味しかったわね」

 東達の方に、目を向けている長四郎に話しかける燐。

「ああ」

「写真撮らなくて良いの?」

「言われなくてもやっとるわい!」

 長四郎がかけていたサングラスは隠しカメラ付きの物なので、尾行中の映像もバッチリ記録しているからだ。

 東達はシェフとの話を終えて店を退店したので長四郎と燐は少し間を置き、後を追うと東と源が別れるところであった。

「どうする?」

 燐が尾行を続行するか聞いてくる。

「いや、今日の所は帰ろう」

「じゃあ、帰ったらこの録音データ聞かないとね」

 燐は自身のスマホをちらつかせながら、にやつく。

 そうして、夫人の豪邸に帰った2人。

 夫人はどこかのパーティーに出かけたらしく、不在であった。

「で、いつから録音していたのかな?」

 ソファーに座りながら、長四郎は質問する。

「あんた、探偵なのに気づかないの? 鈍いわねぇ~」

 燐はやれやれといった感じで、長四郎を見る。

「少し、待っていて」

 燐はぶかぶかの正装から、自分の服へと着替えに行った。

 すぐに、燐は着替えて戻ってきた。

「これ、見憶えない?」

 燐は長四郎にある機械を見せつける。

「あ、それ!!!」

 その機械は、長四郎が調査の際に使用する盗聴器であった。

「これをあの服に仕込んでいたの」

「マジか・・・・・・」燐の行動力に感服する長四郎。

「そんな事は、どうでもいいの。さ、聞きましょ」

 燐は、盗聴した音声データを再生させる。

「記事の評判は、どうですか?」

 源の声だ。

「ああ、評判は好評ですよ。ですが・・・・・・」

「もしかして、東さんの所にも変な探偵が来たんですか?」

「ええ。でも、気にしないでください。あの探偵、問題ありの探偵なので」

「そうでしょうね」

「まぁ、安心してください。今、私の事務所のスタッフ達が総出で彼らの不正を暴こうと動いてくれていますから」

「何が不正だよ!! 不正してんのは、そっちだろうがっ!!!」

「ラモちゃん、しっ!」

 長四郎が注意すると「ごめん」とだけ言い、再び耳を傾ける。

 東と源はそれから軽い世間話をし始めた。

 長四郎は音声を、スキップさせる。

「それで、私を呼び出した理由は他にありますよね? 東さん」

 丁度、良いタイミングで本題に入る所までスキップできた。

「大変失礼な質問ですが、本当に林野が横領したんですか?」

「も、勿論。だからこそ、貴方に確かなる証拠と共にリークしたのですよ」

「そうですよね。気分を害させてしまって申し訳ない」

「いえ、無理ないですよ。もしかして、林野が貴方に接触してきましたか?」

 そこから30秒程、無音の後に東は重い口調で話し始めた。

「実はそうなんです」

「奴はなんと言っていましたか?」

「脅されたんですよ。記事を撤回したうえで、謝罪文を掲載しろとね」

「そうでしたか。他にはなんと?」

「自分が無実だという証拠を持っている。

これが公表されたら、あんたのジャーナリスト生命は終わりだとね」

「その証拠を見せられたんですか?」

「いいえ。持っていなかったので、逆に名誉棄損で訴えるって言ってやりましたよ」

「その通りですよ。証拠なんてあるわけないんですから」

 2人は笑い始めたところで、燐は音声を止めた。

「胸糞悪い」

 燐はその一言だけ呟く。

「そうだな」

 長四郎は賛同し、頷く。

「これで、俺達が次にやる事が分かったな」

「うん」

「明日、その証拠品とやらを探そう」

「でも、どこにあるんだろう。その証拠って」

「それは・・・・・・分からん!!!」

 長四郎は、そうきっぱりと答えるのだった。

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