返金-23

「知りたくない! はよ、病院に連れて行けや!!」

 ピシャリは長四郎を怒鳴りつける。

「またぁ~ そんなに怒鳴ると傷に障りますよぉ~」

「うるさい。ほっとけ!」

 そう言いながら、ピシャリは痛む肩を抑える。

「聞いてもらえないので、教えますね」

「聞いとらんのに!」

 ピシャリの言葉を無視して話始める。

「殺されたのは、潜入捜査をしていた警察官ではなくその協力者。つまりは、ピシャリさん側から見たら裏切り者です」

 ピシャリはその事実に何も答えず、奈緒は驚いた表情をする。

「奈緒ちゃん。奈緒ちゃんが俺たちに隠れて仕入れた情報は間違っていた。だから、こんなバカな事をしたの。言わなかった俺達も悪いんだけど」

「そんな・・・・・・ じゃあ、彼は無事なんですか?」

「無事だと思うよ」長四郎は少し気まずそうに答えた。

「奈緒。信じたくないと思うけど、彼は今、指名手配犯なの」

「え? どういう事」奈緒は説明を求める。

「奈緒ちゃん。信じたくないだろうけど、事実。この前、ここで捕まえたお兄さん達が饒舌に語ってくれたから組織の解明がスムーズにいってね。もう、探偵要らずのなんのその」

「そんな・・・・・・ 何かの間違いだよね?」

「事実よ」絢巡査長はそれだけ言う。

「そう。ここで起こった事、話しては」

 長四郎はそう言いながらピシャリを見ると、物凄い形相で睨み付けていた。

「頂けなさそうなので、俺がお話しましょう。事が起きたのは、一か月前。組織の中に警察の内通者が居る。そんな噂が流れ始め、真っ先に疑われたのは組織に入りたての奈緒ちゃんの彼氏? で良いのかな? ま、その彼氏が筆頭候補に上がった。んで、元締めのピシャリさんは彼氏に接触を図った」

「知らないぞ。そんなこと!」

「と、当の本人は言っておりますが否認する権利はあるのでね。続けましょう。元締めのピシャリさんは彼氏さんを買収したんだよ。警察、給料安いから。で、若い血の気の多いお兄さん達が多い組織だから、裏切り者は許せない。そこで、白刃が立ったのは彼氏の内通者。事実、警察官と内通しているんだから、裏切り者であることに変わりはない。そこで、彼氏さんは自身の協力者を売った。んで、その内通者はここで集団リンチされて殺された。ですよね? ピシャリさん」

「一々、俺に聞いてくるな。ボケっ!!」

「で、これから、どうする? 奈緒ちゃん」

「どうするって。私は、もう警察官じゃないし」

 奈緒は今回の件で、警察官の職を辞さなければならないことはよく分かっていた。

「でも、その前に出来ることあるんじゃない?」

 絢巡査長は、へたり込む奈緒を立ち上がらせるのだった。


 ピシャリを逮捕して数日後。

 関西国際空港の国際線出発ロビーで、飛行機の出発を待つ男が一人。

 その男の背後から二人のサングラスを掛けた人間が近づき、両側から羽交い締めにされる。

「はい。動かないで」

「な、なんだ。お前たち」

「裏切り者を捕まえに来た。アサシンじゃ!!」

「じゃ。行こうか」

 こうして、空港警察に連れて行かれた。

「空港警察? なんで、俺を殺すんじゃないのか?」

 男がそう聞くとサングラスを掛けた二人組は、サングラスを外して口を開いた。

「殺さないよ。ホント、適当な事言うなよな。ラモちゃん」

「ごめん。こんなに効くとは思わなかった」

 謝罪するように見えて、開き直る燐。

「さ、あっさりと捨てた恋人との再会だぞ。どうぞ」

 長四郎がそう言うと、奈緒が姿を現した。

「や、やぁ」

 男は顔を引きつらせて奈緒に挨拶する。次の瞬間、男は奈緒のストレートパンチを受け吹っ飛ぶ。

「奈緒。スッキリした?」

 絢巡査長もここで姿を出して、感想を聞くと「ありがとう。おかげさまでスッキリした」と奈緒は目に涙を浮かべながら答えた。

「探偵さん、ラモちゃん。探してくれてありがとう。おかげで、心スッキリでこれから過ごせる」

 長四郎はピシャリを逮捕後、奈緒から婚約者の捜索を依頼され捜索した結果、関西国際空港から高飛びするという情報を得たので、こうして出張までして逮捕しに来たのだ。

「あ、因みに俺の中では、あんたが殺されているそう思ってたから、奈緒ちゃんには捜査から離れるよう進言したんだけど。裏面に出ちゃったんだけど。ごめんな。奈緒ちゃん」

「いえ、こうして探して頂いたんでチャラです」

「そう言って、頂けると助かる」

「じゃ、こいつ連れて東京に戻りましょ」

 奈緒は強気な事を言うが、その顔に一筋の涙が落ちるのだった。

                                    完

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