映画-18

 長四郎は舞香を事務所近くのスタバに呼び出し、説得にかかろうとする。

 舞香は関係各所の対応に追われ、疲れ切っている様子が伺えた。

「すいません。お忙しい中、お呼びしてしまって」

 長四郎はそう言いながら頭を下げ、燐もまた一緒に頭を下げる。

「いえ、事務所に居るのも辛くて・・・・・・」

 里奈が使い物にならなくなり、監督責任を問われているのだろうと長四郎は察した。

 でも、舞香のせいではないのも事実である。

「あの、傷口に塩を塗るようで申し訳ないですが、捜査に協力して欲しいんです」

「私がですか?」

「はい」

「失礼ですが、貴方はお兄さんの捜索が依頼内容でしたよね。何故、警察のような真似を?」

「申し上げにくいのですが、個人的に気になるんですよ。どうして、お兄さんがあのような形で見つかったのかが」

「はぁ」

 こいつは何を言っているんだと言った顔をする舞香。

「里奈さんとは連絡を取り合っていますか?」

「それは、勿論」

「変わったようなことは?」

「塞ぎこんでいる? 感じです」

「そうですか・・・・・・」

「あの私達は、里奈のお兄さんに何があったか知りたいんです」

 燐は必死に訴える。

「ラモちゃん、それじゃあ野次馬根性丸出しな感じだよ」

 長四郎のその言葉に、「お前もだよ」と心の中で舞香はそう呟く。

 舞香が何を思ったのかをその顔を見て察した長四郎は咳ばらいをし、仕切り直す。

「まぁ、早い話。里奈さんが一連の事件の犯人として疑われているんです」

「ちょっと!!」

 燐が長四郎の腕を叩く。

「それ、本当ですか?」

「こんな事、噓をついても仕方ありませんからね。何だったら、里奈さん本人に「あんた、警察から疑われているらしいわよ」と喋っても構いませんよ」

「そんなまさか」

「事務所としては、大事になる前に手は打ちたいでしょう」

「そういう問題じゃない!!」長四郎を怒鳴りつける舞香。

 周りの客の視線が、長四郎達の座るテーブルに向けられる。

「すいません。何でもないですから」

 燐がすぐ様、釈明すると客の視線を元あった所に戻るのだった。

「やっぱり、貴方は事務所とは違う考えのようだ」

「どう意味です?」

「貴方は、真剣に里奈さんの身を案じていらっしゃる。だからこそ、協力して欲しいんです。これ以上、被害者を増やさない為にも」

「・・・・・・・やっぱり、私のせいでしょうか」

「いや、違いますよ。原因は、池元さんですよ。ま、死んだ人を悪く言うようですが」

「分かりました。私は何をすれば?」

 燐は何故、舞香があっさりと長四郎の言葉を信じるのか不思議でしかなかった。

「この日付のスケジュールを教えて欲しいんです」

 長四郎は事件があった日の日付が書かれた紙を差出し、話を続ける。

「でも、プライベートまで詮索する必要はありませんので。もし、分かるのであれば教えてもらうと助かります。里奈さんに尋ねるといった事はしないでください。良いですね?」

「はい、分かりました」

「宜しくお願いします。分かり次第、自分のスマホに連絡を入れてください」

「じゃあ、失礼します」

 舞香はその紙を持って、事務所に戻って行った。

「ねぇ、何であの人はあんたの話を信じたんだと思う?」

 舞香が見えなくなって、燐はすぐに長四郎に質問する。

「心当たりがあるからじゃね?」

「心当たり?」

「そう、心当たり」

「何それ」

「知りたい?」

「うん」

「役者としては、正解かもだけど・・・・・・現実にそれを持ち込みようじゃだめだよねってこと」

「えっ、役のせいだって言うの?」

「今日は、勘が鋭いじゃない。それじゃあ、これ吞んだら、里奈ちゃんに会いに行こうか?」

 長四郎の提案に、飲んでいたカフェオレを噴き出す燐。

「汚ねぇ~な」

 長四郎は、ナプキンでテーブルを拭く。

「ご、ごめん」

「全く。ラモちゃんは、もう帰りな」

「何でよ!!」

「うっかり、喋っちゃいそうだから。

それに折角、綺麗にした部屋が元のゴミ屋敷になっていないか、家庭訪問しなくちゃぁな」

「げっ!!」

 燐の部屋は少しずつであるが、元の状況に戻りつつあった。

「だから、訪問中にお片づけをする事をおすすめしておきまっせ。ラモちゃん」

「ふっふふふっ! 見て驚くことなかれ」

「おっ、綺麗なのね。楽しみぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 そう言いながら、店を出る長四郎はまだ知らなかった。

 燐が再び、長四郎に掃除をさせようとしていることを。

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