愛猫-5

 長四郎と絢巡査長は、肩を落として帰っていく夜田の後姿を見送る。

「まさか、身の上話まで聞かされるとは思いませんでしたね」

「そうだね。そんでもって、大した話は聞けなかった」

 困ったなといった顔をする長四郎。

「あ、居た! 居た!!」燐はこちらへと駆け寄ってくる。

「いつのまにか、復活してる」

「ホントですね」絢巡査長は長四郎の言葉に賛同する。

「分かったかも、犯人の手掛かりが!」

 燐は嬉しそうに報告する。

「手掛かり?」

「そう。手掛かり」

「取り敢えず、中に入って聞くから」

 絢巡査長に言われた燐は「はい」とだけ返事をし、署に入って行く。

 一方、防犯カメラ映像を確認する一川警部は頭を抱えていた。

 近所の防犯カメラ映像には事件に繋がるような人物は居なかったからだ。

「はいたぁ~なんも見つからんっ!」

 一川警部のその言葉に、同じ作業をする捜査員一同は納得するように頷いた。

「一川さぁ~ん」

 ドアから顔を半分出した長四郎が一川警部を呼ぶ。

「どげんしたと?」

「ラモちゃんから、大事な話があるとのことで」

「はいよぉ~」

 一川警部は椅子から立ち上がると、そのまま部屋を出て燐達が居る部屋へと移動した。

「そんで、話って何?」椅子に座った一川警部は話を切り出した。

「ラモちゃん、話して」

「うん、分かった」長四郎にそう言われて燐は話し始めた。

「犯人は、店の運営に関わっている人だと思うの」

「その根拠は?」絢巡査長が質問する。

「昨日、好江さんが言っていたんです。「この店がどうこうなる訳でもないんだけどね。一番はこの子達が幸せに寿命を全うしてくれることが大事だから」って」

「つまり、好江さんは店の運営に何か悩みを抱えていたっていう事かぁ~」

「そうなりますね」

「という事は、店の関係者に話を聞かんとね」

「そうなりますね」と絢巡査長は再び同じ返事をする。

「じゃ、店に居た翡翠って人に話を聞きに行きますか!」

 長四郎はそう言って、椅子から立ち上がる。

 こうして、4人は「CATエモン」へと場所を移した。

 「CATエモン」は、事件があり閉店中ではあったが、猫達は店内をいつも通り徘徊していた。

 目的の相手、翡翠は尚道を抱きかかえながら1人ぼぉーっとしながら座っていた。

 正面玄関の戸が締まっていたので、コンコンっと叩き開けてもらうようにする燐。

 それに気づいた翡翠はすぐさま正面玄関の鍵を開け、4人を店内に入れる。

「あの何か?」翡翠から話を切り出した。

「いや、少しお話を聞きたい事がありまして」

 長四郎がいの一番にそう答えると「はぁ」とだけ返事し、翡翠は4人分の飲み物を用意しにバックヤードへと引っ込んでいった。

「飲み物何が良いですか?」

 バックヤードから聞いてきたので、燐は「カフェモカを4つください」と燐が真っ先に答えた。

「俺、カフェモカいらないんだけど」

「なんか、言った?」

 燐は長四郎に睨みを利かすと「何でもありません」とそれだけ答え、長四郎は近くに居た猫を抱きかかえ大人しくなる。

「お待たせしましたぁ~」

 翡翠が4つ分のカフェモカを持って戻ってきた。

「すいません」絢巡査長はそう言いながら、カフェモカを飲む。

「それで、聞きたいという事は?」

「いや、この店の運営にについて何かトラブルがあったという話を聞きつけましてね」

「もうそこまで調べたんですか」

 長四郎の発言を素直に認める翡翠。

「という事は事実なんですね?」絢巡査長の質問に「事実です」と答えた。

「どのような事なんです?」

「店舗拡大についてです。店長はその事に反対していたんです」

「反対ですか」猫を撫でながら長四郎が反応した。

「はい。私は賛成派なので、よくケンカしてました」

「その事を知っている人たちは、居るんでしょうか?」

「彼氏さんは知っていたんじゃないかな」

「ああ、ここに泣いて来とった人ですね」一川警部の言葉に「そうです」とだけ翡翠は答えた。

「分かりました。ありがとうございました」

 長四郎はそれだけ言い、1人店を出て行った。

「あ、待ってよ。すいません。失礼します」

 燐は翡翠、一川警部、絢巡査長に頭を下げて後を追うのだった。

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