愛猫-6
「待ってよ!」
燐は先を行く長四郎を呼び止めるのだが、長四郎はそんなのお構いなしで歩を進めていく。
「聞いてる?」そう尋ねる燐に、「聞いてない」とだけ答える長四郎。
燐はこれ以上言っても無駄だと判断し、黙って長四郎について行くことにした。
だが、長四郎が向かった先はホームの事務所であった。
長四郎は事務所に入ると、事務作業をするデスクに置いてあるノートパソコンの電源を入れる。
パソコンが立ち上がると長四郎は、インターネットブラウザを開き「CATエモン」と入力して検索を開始する。
「はい、これ」
そう言って、長四郎に珈琲を差し出す燐。
「紅茶が良かった」
「カッチーン!」
長四郎の心無い言葉に怒りを覚えた燐は、長四郎に渡すはずのホットコーヒーを一気飲みする。
「熱っつ!!」
飲み終えた燐の感想はその人だけであった。
「そら、ホットを一気飲みしたら熱いやろ」と長四郎はモニターを見ながら反応する。
「くっ!!」
燐は悔しそうな顔を浮かべながら、紅茶を淹れに行く。
そして、長四郎の目には「CATエモン」のレビューが映っていた。
平均レビューは、☆5
口コミの感想欄には「猫ちゃん達も可愛くて、店員さんも人が良くとても居心地の良い店でした」「店長さんがとても良い人で、猫思いの素晴らしい方でした」「お勧め料理は、ナポリタンです。ですが、猫ちゃん達が物欲しそうに寄って来るので心辛いです。でも、美味しいので一度、食べてください」「尚道っていうオス猫が居るんですが、中々人に懐かないらしいのですが私に懐いてくれてとても嬉しかったです。また、行きます」等々のコメントが多く見られ、アンチコメントは見受けられなかった。
「何、見てんの?」
紅茶を差し出しながら、燐が尋ねる。
「アダルトビデオ」
「最低っ!!」燐はそう言い、そっぽ向き長四郎から離れる。
長四郎は気にしないといった感じで、作業を続ける。
次に「CATエモン」の運営元について調べ始めた。「CATエモン」の運営元は保護猫支援を行うNPO法人ペガサスという組織であった。
ボランティア活動を行う割には、店舗拡大とは商売根性が凄いなと感心する。
捨て猫などを保護し、里親を見つけたり活動資金を稼ぐために猫カフェを運営したりするのがペガサスの活動内容とのこと。「CATエモン」は代表店舗らしく、ペガサスのホームページにデカく店舗案内が掲載されていた。
「ここと揉めていたのか」
「えっ、何?」
何気なく呟いた長四郎の一言を燐の地獄耳は聞き逃さなかった。
「何でもないです」
「はい、ウソォ~」
「ウソじゃないですぅ~」
「何をそんなに隠したがる訳?」
「探偵には秘匿義務があるから、何も答えられません」
「好江さんが店の運営で悩んでいたのを教えたの。誰だっけ?」
長四郎の前に立つ燐の顔は勝ち誇ったような顔をする。
「絢ちゃん」
「違うでしょ!!」
頭ぐりぐりの制裁を受ける長四郎。
「許してください。許してください!」長四郎は涙を流しながら許しを請う。
「それで、運営元が怪しいって訳ね」
「はい、左様でございます。というより、可能性の範疇を超えないので、そこはお忘れなくなく」
そんな忠告も聞き入れず、燐は「そうか。運営元か」とやる気をメラメラと燃やす。
「聞いてない」
長四郎は顔に手を当て呆れはてるのであった。
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