結成-6
食事を終えた長四郎と一川警部は、4件の事件を担当したお茶の水署を訪ねる。
会議室で4件すべての事件を担当した刑事から話を聞けることになっていた。
「どうも初めまして。
一川警部に名刺を渡す菅刑事。
「頂きます~」
名刺を名刺ケースにしまい、一川警部は話を切り出す。
「あの私立芸春高等学校で起きている4件の自殺事件についてなんですけど」
「それより、この方は?」
菅刑事は、一川警部の隣に座る長四郎の身元を尋ねる。
「ああ彼はね」
「どうも私、こういう者です」
一川警部が説明しようとするのを遮って、長四郎は名刺を渡す。
因みに今、渡した名刺は噓の名刺ではない。
「探偵さんですか?」訝しむ菅刑事。
「聞いたことないとですか?
彼は、10年前、数々の難事件を解決してきた高校生探偵の熱海長四郎君ですよ」
「さぁ? 聞いたことないですけどね」
菅刑事に一蹴され、2人揃って肩を落とす。
「それより、刑事が探偵とつるんで刑事ドラマごっこですか。
私、暇そうに見えて結構、忙しいんですよ」
ちくりと嫌味を言ってくる菅刑事に、愛想笑いで誤魔化す一川警部。
「忙しいから杜撰な捜査をなさるんですね。合点がいきました」
長四郎は、一人頷いて納得する。
「どういう意味です?」
長四郎を睨みつける菅刑事。
「言葉通りの意味です。これを見てください」
長四郎はスマホの写真を見せる。
それは、燐が武道館の屋上で発見した血痕の写真である。
「これ、血痕ですよね。事件発生時に臨場して発見できなかったんですか?
この血痕、大きいですよね。発見できそうなものですが」
「それは・・・・・・・」
菅刑事は明らかに言い訳を考えているが長四郎は構わず話を続ける。
「それと普通に考えて4年連続で、自殺事件を起こしている学校はおかしくありませんか?」
「偶々、不幸が立て続いているだけじゃないですか」
「そんな訳ないでしょう」ここで一川警部が口を開いた。
「ど、どうしてですか」
まさかの味方であるはずの警察官から否定の言葉が出てくるとは思わず、菅刑事は戸惑う。
「あたしがここを訪ねたのはね、菅刑事。4年も立て続けに同じ敷地内で自殺事件が起きているのに、何もしないというのはね。事件性があるとしか考えられないんやけど。それについてどの様に考えているとですか?」
一川警部は、少し語気を強めて喋る。
「なんにせよ、今回の事件も自殺として処理いたしますので。例え本庁の方でも、口出ししないで頂きたい。失礼します」
菅刑事は、足早に会議室を出て行った。
「あ~あ。一川警部が怒らせるから出て行ったじゃないですかぁ~」
「なんば言うとると。長さんが吹っ掛けるから相手が怒ったやないの」
「で、どうします? 協力得られなくなりましたけど」
「そうねぇ~こっちの問題はあたしに任せて貰える?」
一川警部は悪代官のような悪い笑顔を浮かべる。
「まぁ、良いですけど」と返事しつつ、長四郎はあの菅という刑事人生が少し心配になる。
何故なら、この表情を浮かべる時の一川警部は恐ろしい事を考えているからだ。
「じゃあ、今日は解散という事で。送らんでもよか?」
「大丈夫です。自分で帰ります」
「そういうことで」
一川警部はその足で本庁に戻り、長四郎も事務所に帰る。
一方、燐は岡田槙太が起こしたとされる不祥事について捜査を開始していた。
手始めに、噂の出所をターゲットとして調査を行っていた。
「とはいうものの・・・・・・・何処から手をつければよいか・・・・・・・」そう呟く燐。
今日は全校集会後、保護者説明会の準備の為、生徒は下校となっていた。
燐は行く当てもなく学校をふらつき2時間が過ぎた頃、校長室の前を通りかかると「今回の件も、家庭環境の問題による自殺という事で保護者に説明してください」という声が中から聞こえた。
慌ててスマホの録音アプリを起動させ、会話を録音する燐。
「はい、分かりました。それと今朝、来た刑事は事件をデータベース化する為と言っていましたがあれ、噓ですよね?」田中山校長は了承すると共に、菅刑事に質問する。
「安心してください。私が書いた報告書の通りに事が運びますから」
「そうですよ。校長先生、私も協力させて頂きますから」
「
田中山校長は、PTA会長の青山の言葉に安堵する。
「取り敢えず、原因についてどう説明するかですね」
青山のその一言を受けて、他2人も考え始める。
「家庭環境による問題で片付けましょう」
菅刑事が真っ先にアイデアを出す。
「またそれですか」青山は呆れ口調になる。
「でも、学校側に問題というわけにはいかないですよ。
ねぇ、校長先生」
「はい・・・・・・・・」
気まずそうな顔で菅刑事の提案に賛同する田中山校長。
「分かりました。他の保護者は兎も角として、被害者遺族にはどのような説明を?」
青山は菅刑事に被害者遺族の対処について、質問する。
「まぁ、「突発的な自殺でした。」とでも言っておきますので安心してください。
いじめとかそう言った問題はないんですよね。校長」
「はい。神に誓ってそのような事実はございません」
田中山校長は真っ直ぐな目で、菅刑事に返答する。
燐は怒りに震えていた。
生徒の中で、真偽の程は定かとして変な噂が多数流されているのに何もないなんて言う事はないのだ。
「おっ、そろそろ保護者会の時間だ。行きましょう。校長」
青山の一言で燐はすぐさま校長室前から去った。
校長室のドアが開き、3人が姿を現す。
出たと同時に、青山は辺りをきょろきょろと見まわす。
「どうしましたか? 青山さん」校長が真っ先に尋ねる。
「いや、誰かに見られている気がして。気のせいみたいです」
そう言って歩き出す3人の姿を燐は、物陰から写真に納めるのだった。
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