帰国-8
長四郎と勇仁は賀美 金衛門の葬式会場に喪服姿で訪れていた。
「可愛い孫娘と一緒に居なくて良かったのか?」
「いいの、いいの。長さんと居た方が楽しいし、昔みたいでね」
「あ、そ」
そんな会話をしながら二人は、金衛門の遺体が安置されている本堂に向かって歩いて行く。
本堂に繋がる階段を上がると多くの弔問客が並んで、焼香の順番を待っていた。
長四郎達は黙って最後尾に並び順番を待つ。
それから約10分後に順番が回ってきたので、二人は焼香を済ませ遺族に一礼し会場を出て行く。
すると、後ろから「待ってくださぁ~い」と長四郎と勇仁に声を掛けてくる人物が居た。
振り返るとお目当ての人物、賀美 良器が自分達に向かって駆けって来る。
「どうした? 一人息子の良器さん」勇仁が駆け寄る良器に声を掛ける。
「いや、事件発生時はお客様達の対応をして頂いてありがとうございました。おかげで、パニックにならずに済みました」
「気にすんな。馴れっこだから」
「はぁ。それでこちらの方は?」
「どうも、初めまして。探偵の熱海 長四郎と申します」
長四郎は自分の名刺を良器に渡す。
「探偵さんですか」
「実は彼と一緒に金衛門さんの事件の捜査をしているんですよ」
「父のですか? 犯人は逮捕されたって聞いていますよ」
「じゃあ、その犯人が復讐殺人で、あんたの父親を殺していたとしたら?」
長四郎の問いかけに「どういう事です?」良器は聞き返す。
「良器さん、14年前に婦女暴行殺人事件を起こしているよね」
「は、はい」
「そん時の被害者遺族が、あんたの親父さんを殺したというわけ」
「まさか、そんな・・・・・・」
衝撃を隠しきれないのか、良器の顔は青ざめていく。
「それで単刀直入に言うと、俺はあんたが首謀者じゃないかと思っているんだよね」
「あなた、本当に探偵ですか?」
「探偵ですよ。ほら、ドラマとかで遺産目当てで自分の親父を殺す話とかあるでしょう。
それで、一番怪しいのは、賀美 良器さん。貴方だ」
「ドラマって。小上さん、彼の言う事を信じるんですか?」
「まぁ、どうだろうな? ただ、協力者が居ないとできない犯行ではあると思うわけよ」
「そんな・・・・・・・」
「ま、今日は挨拶だけなんで」
「そういう事で、じゃっ」
長四郎と勇仁は良器に別れを告げ、葬儀会場を出て行く。
すると、再び「待ってください!!」と別の男から声を掛けられる。
「何でしょうか?」長四郎が用件を尋ねる。
「14年前の事件について、伝えておきたい事が」
「その前にあんた、誰?」
「あ、申し遅れました。私、蒼間 育哉と申します」
蒼間は、二人に名刺を渡しながら自己紹介する。
「これはご丁寧にどうも」
長四郎はそう返事しながら、名刺を受け取る。
「で、俺たちに伝えておきたい事っていうのは?」勇仁が本題を切り出す。
「あ、そうでしたね。実はその事なんですが、良器は親父さんを憎んでいたんですよ」
『ほぉ』二人は声を揃えて、関心を寄せる。
「あの事件以来、彼と父親の間には大きな溝が出来たんです」
「というのは?」長四郎が具体的に聞き出す。
「まぁ、当人同士にしか分からないものなんでしょうけど。俺は、良器と付き合いが長いですから事件以降、良器の様子がおかしかったんです。飲みの席とかでそれまで口にしなかった親父さんの悪口を言うようになったんですよ」
「悪口ねぇ~」勇仁はそんなことかと言った顔で、蒼間を見る。
「一つ良い? なんで、その事を俺たちに話そうと思ったわけ?」
「それはあなた達が良器から話を聞いているのを見て、そう思ったから」
苦し紛れの答えに長四郎は「納得しました」とだけ返事し、勇仁と共にその場を後にする。
その頃、麻布署の取調室では福部 習子の取り調べが行なわれていた。
「福部さん、あなたが使用した拳銃はどこから入手したんですか」
絢巡査長の問いに「それは言えません」とだけ答える習子に今度は、燐が質問する。
「お姉さんの仇を討って、すっきりしましたか?」
「はい」習子は即答し続ける「どうして、その事を知っているんですか?」と。
「まぁ、偶然に点と点が一致したと」一川警部が恥ずかしそうに答える。
「あの気になっている事があるんですけど」燐のその言葉に「何かしら」そう答える習子。
「事件を起こした賀美 良器を殺すのではなく、父親の金衛門だったんですか?」
「勿論、金衛門を殺した後には良器を殺す予定だったんだけど。捕まっちゃったから。出来なくなったわけ」
「そうですか。でも、父親を殺す理由は?」
「あいつが無理矢理、示談にさせたのよ」
「だから、殺した」絢巡査長の言葉に頷いて、習子は同意する。
「じゃあ、質問を変えます。商社を辞めてから再就職するまでの空白の一年間どこで何をなさっていたのですか?」
「刑事さん。それが事件に関係あるとでも?」習子は絢巡査長に聞き返す。
「私達はそう考えています」絢巡査長が答えるよりも先に燐が答える。
「海外に居ました。どこの国か、言いましょうか?」
「お願いします」
絢巡査長はメモを取る姿勢に入る。
「私は前の職場を退職して、タイへと向かいました。
そこで、知り合った現地の殺し屋から銃の扱い方や格闘術等を学んでいました。
ウラ取りは難しいと思いますよ。師匠は殺し屋なので、その道の筋じゃないと居場所は掴めませんから」
「そうかぁ~」一川警部は困ったと言った顔をする。
「あの殺し屋の師匠がいると仰っていましたが、貴方、事件前にも銃を試射していますよね? プロから教わったはずなのに。
お爺様が貴方と会った時に硝煙の臭いがしたと言っていましたから」
「試射したから、私がプロではないと?」
「少なくとも、お爺様はそう言っていました。プロだったら事件前に硝煙の臭いなんてさせないって」
「貴方のお爺様侮れないわね」
「そう言って頂けると幸いです」燐は少し嬉しそうに答えた。
「じゃあ、どうやって現地で殺し屋に知り合ったか。教えてくれんね?」
「分かりました」
そこから習子は台本通りな感じで、殺し屋に接触した時の話をした。
タイに行き現地人に殺し屋を探していると聞きまわった結果、一人の殺し屋を紹介された。
その殺し屋に事情を話して弟子入りを認められ、一年間修行して帰国したというものであった。
「なんか、出来すぎてますね」燐は率直な感想を述べる。
「そう思うのは、勝手だけど。これが事実なんだから。
これ以上、話すことはありませんので、後は弁護士さんにお話します」
習子はそこから黙秘し始めたので、取り調べは中止された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます