帰国-7

 長四郎達は、福部 習子が入院している警察病院へと来ていた。

 例の空白の一年間について聞く為だ。

 そして、習子が居る病室に向かいながら燐は質問する。

「ねぇ、彼女に何を聞く事があるの?」

『秘密』長四郎と勇仁は二重唱で返答する。

「二人揃って何よ」

 習子が居る病室の前に着き、ドアを開けると習子の姿はなかった。

「あれ? 居ない」

 長四郎は部屋をキョロキョロと見回す。

「ねぇ、ここに居た福部 習子って女の子が入院していたはずだけど。どこ行ったか知らない?」

 近くを通りがかった看護師に周子の行方を勇仁は尋ねた。

「福部さんですか? 彼女は麻布警察署に連行されましたよ」

「麻布ね。ありがとう」看護師に礼を言うと看護師は会釈だけし、自分の仕事に戻って行った。

「長さん、麻布だって。どうする?」勇仁に尋ねられた長四郎は「ギロッポンかぁ~一川さんとこ行くか!」と答えた。

「All Right!!」

 勇仁はサムズアップで返事する。

「なんか、ムカつく」燐はムッとする。

 警視庁に移動した長四郎達三人。

 命捜班の部屋に入ると、互いの顔を見つめあいながら一川警部と絢巡査長が睨みあっていた。

「何々、どうしたの? 二人共」

 ただならぬ雰囲気にも関わらず、長四郎は意気揚々と声を掛ける。

「聞いてください。実は・・・・・・・」

 そこから絢巡査長は、蒼間刑事部長から依頼された内容を長四郎達に語った。

「如何にも警察らしい話だな」

 真っ先に反応したのは勇仁だった。

「お爺様、感心しないで下さい」燐は呆れながら勇仁を諌める。

「それで、その少年Bの正体は?」

 長四郎は興味津々と言った感じで質問した。

「蒼間 育哉。当時、19歳だった男」一川警部がつまらなさそうに答えた。

「その名前、どこかで・・・・・・・」

 燐は聞き覚えのある名前に記憶を辿る。

「なんか、知っとうっと?」

 一川警部が燐に聞くと「思い出した!」と燐の記憶が呼び起された。

「こいつ、あのパーティー会場に居ました!!」

「それ、ホント?」絢巡査長が言質を取る。

「ホントもホントです。こいつにナンパされたんで」

「ラモちゃんにナンパする奇特な奴がいたとはね」長四郎は独り言を呟くと勇仁もうんうんと賛同するように頷いた。

「何か言ったかしら?」

 燐は長四郎を絞め上げながら尋ねると「何でもありません」とだけ返答し、解放される。

「ラモちゃん、そのパーティー会場に来ていた男はこの男?」

 絢巡査長は捜査資料にプリントされた蒼間の写真を見せた。

「あ、そうです。写真より老けていますが私をナンパした男です」

「蒼間って奴がBって事は、Aもいるわけだろ? それが誰か分かる?」長四郎は何か思いついたような顔で、刑事二人に質問する。

賀美がび 良器よしきです。あっ!!」

 捜査資料を読んだ絢巡査長も何かに気づいたようだった。

 賀美 良器とは、賀美 金衛門の一人息子で、事件現場で金衛門に縋りつき泣いていた男である。

「この事件と金衛門銃殺事件の接点が見えて来たんじゃない?」勇仁はそう発言すると、勝手に命捜班のコーヒーを来客用の紙コップに注いで飲む。

「14年前の事件の被害者の名前は?」長四郎が絢巡査長に質問した。

福部ふくべ 藤枝ふじえさんです・・・・・・」

「クロやね」

「ですね」一川警部の意見に同意する長四郎。

「じゃあ、今回の事件の首謀者は息子の仕業って事?」燐は自分の推理を発言した。

「可能性はあるな」長四郎もその推理に同意すると「よしっ!!」小さくガッツポーズをとる燐。

「参ったな。これじゃあ、忖度しづらいばい」

「忖度なんて言葉知っていたんですか? 一川さん」

「長さんも酷い事言いよんね」

「まぁねぇ~」長四郎は髪をかき上げる仕草をする。

「じゃ、息子の良器から話聞く? それとも、麻布に居る習子ちゃんを攻めるか? どうする? 長さん」

 勇仁の問いに「息子で行くか。勇仁」と答えた。

「すいません。福部 習子は、麻布署に居るんですか?」

 絢巡査長はその事を知らなかったのか、長四郎にそう尋ねた。

「そうらしいよ。な、勇仁」

「うん、可愛い看護師さんが教えてくれた。にしても、あそこの警察病院の看護師さんはレベルが高かった」勇仁は余計な一言を告げて返事する。

「お爺様!!」燐は勇仁の耳を引っ張ってお仕置きする。

「仲の良い家族ですね」

 絢巡査長は燐に𠮟られる勇仁を見て言うのだった。

 そこから一川警部、絢巡査長、燐の警視庁チームと長四郎、勇仁の探偵チームに分かれて行動を開始した。

 警視庁チームの三人は習子に取り調べをする為、絢巡査長が運転する車に乗り麻布署へと向かっていた。

「ラモちゃん、長さん達と行動せんで良かったと?」後部座席に座る一川警部が助手席の燐に問いかける。

「行動って。なんか、男二人楽しそうで私が入る余地なんてないんで」

 燐のその言葉に一川警部と絢巡査長はほくそ笑む。

「それに、お爺様がいると長四郎をぶっ飛ばせないので」

「そ、そうなんや」一川警部は。必死に笑いを堪えながら返事する。

「何がおかしいんです?」

 燐は身を乗り出して肩を揺らす一川警部を睨み付ける。

「いや、おかしくないよ。ぷっ! もうダメっ」

 一川警部は堪えきれなくなり大笑いするのを見て、燐は絢巡査長にアイコンタクトで絞めて言いか確認すると絢巡査長は頷いてゴーサインを出した。

「ハゲっ!! てめぇ!!!」

 燐はパトランプを一川警部に向けて投げつけ、気絶させた。

「人の恋を笑う奴は、パトランプに頭をぶつけて死ねっ!」

 絢巡査長がそう言うと「絢さん、何か言いました?」と燐が聞いてくるので「ううん、何でもないよ」と答えた。

 そして、車は麻布署の駐車場に入って行くのであった。

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