返金-3
長四郎は早速、部屋を物色し始めた。
「ねぇ、勝手に触って大丈夫なの?」
燐が小声で尋ねると「大丈夫なんじゃね?」そう無責任な答えが返ってきた。
「ここは、ダミーの場所だな」
長四郎は机の引き出しを開けて、中を覗きながら自分の推論を言った。
「ダミーってことは、やっぱり詐欺してるんだ」
「単細胞の考え方だな」
燐は、放り出されたキャスター付きの椅子を長四郎めがけて蹴飛ばす。
椅子は勢いよく長四郎の元へと走って行き、背もたれが丁度腰の辺りにヒットした。
「痛って! 何すんだよ!」
「単細胞だから分かりませぇ〜ん」
嫌味ったらしく答える燐。
「生意気なガキだな。てか、ラモちゃんも手掛かりになりそうなものを探せよ」
「はいはい。仰せのままに」
自分からこの場所に連れて来といてその態度はおかしいだろ。と口に出しそうになったが、今度は机でも飛んできそうな気配がしたのでグッと我慢する。
今度は、机から離れて本棚に場所を移して、探し始める。
本棚の戸を開け、中に入っているファイルを手に取りファイルの中身を検める。
ぎっしりと詰まっているファイルなのだが、全てが白紙のコピー用紙であった。
「これは、これは。面白いなぁ〜」
「何か? 見つかったの?」
燐が近寄って来て、パラパラとファイルをめくる長四郎が見ている物を見ようとする。
「これ、何? 何も書かれていないじゃん」
「そこが、面白いんだろ。お、手が空いているなら他のファイルも取ってくれ」
何が面白いのか、分からない燐は指示された通りずっしりと重いファイルを取り出して、机に置いた。
「ご苦労」と言いながら、今度は燐が取り出したファイルを見る。
そのファイルも白紙のコピー用紙だけのはずだった。
中身を検め始めて、20ページ程開いたところで小さな文字で何かが書かれていた。
“ピシャリを追え”と。
「ピシャリを追え? どういう意味だろ?」
「さぁ、どういう意味なんだろうな?」と言いながら、長四郎はそのページを破り綺麗に折りたたみズボンに突っ込む。
「そんなことして良いの?」
「え? 何が」長四郎は、すっとぼける。
「おい! ここで何してる!!」
金髪の顔までタトゥーが入った男が、これまた金髪の部下二人を引き連れて部屋に入ってきた。
「何してるって。ラモちゃん、教えてあげなよ」
「この詐欺師めっ!!」
燐は相手を指差してドヤ顔を決め込む。
「何ぃ〜 詐欺師だぁ〜」先頭に立つ金髪が首を振り後ろに突っ立ている部下に長四郎と燐を拘束するよう合図する。
「まずい。逃げるぞぉ〜」
長四郎は一目散に窓の方に向かって駆け出す。
「逃すな!!」
金髪のその言葉に発破をかけられた部下二人も駆け足でその身柄を拘束しようとする。
だが、長四郎は窓を開け「さらば、地球よ!!」と叫びながら飛び降りた。
「ちょっと、嘘でしょ!!」
自分一人、置いて逃げ出す長四郎に呆れるのと五階から飛び降りた長四郎に驚く燐。
燐は長四郎が飛び降りた窓の下を覗き込む。
何故、長四郎が躊躇なく飛び降りたのか察した燐もまた「さらば〜イ!」と言って窓から飛び降りた。
「マジかよ」
部下の一人が恐る恐る下を覗くと、自販機の補充トラックのゴミが積まれている荷台に寝転ぶ長四郎と燐の姿を見つける。
「おい、奴らは車だ。追え!」
もう片方にそう指示を出し自分も下に降りる。
だが、下に降りた頃にはトラックは消えていた。
「クソッ!!」
上でその様子を伺っていた金髪こと菜済 章は、スマホを取り出し電話をかける。
「もしもし。菜済です。侵入者に逃げられました。ええ、ファイルを漁っていました。取り敢えず、取られたものがないか確認してから連絡します。じゃ」
そう言って、通話を切った。
菜済は、長四郎と燐がそのままにしていったファイルを確認する。
そこで、不自然に切り取られたページを見つけここに入っていたものを思い出そうとする。
すると、下に行っていた部下二人が戻ってきた。
「逃げられました。すいません」
「仕方ない。おい、取られたものがないか確認するぞ」
「はいっ!」部下二人は元気いっぱいに返事をして、作業に取り掛かる。
その間、菜済は嫌な予感がして仕方なかった。
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