美味-2

「それで、被害者がいきなり倒れたと言う訳ね」

「そうです」

 燐の通報を受け、臨場したあや巡査長に目撃した事を報告した。

「あの女の人は?」

「死亡が確認された。多分、毒殺じゃないかっていうのが鑑識の見解かな」

「そうですか」

「絢ちゃん、被害者の身元が分かったばい」一川ひとつかわ警部が絢巡査長に情報を共有しに来た。

「女性と谷原とかいう男性でしたよね?」

「うん、そう。まず、女性がね、ひとみ アリサさん。33歳でUNOテレビのADで、今日は取材でここに来たらしいと」

「谷原って人は誰なんです?」燐の質問に「あん人はね、純文学作家の谷原たにはら 雄一ゆういちっていう人ばい。ラモちゃん、知っとうとね?」逆質問する。

「いや、知らないですけど。偉くえばっていたんで」

「ああ、そう。まぁ、その業界では知らん人はおらんくて後、美食家で有名な人らしい」

「それで、あの食べ物を吐き出したんだ!」燐は一人納得する。

「ラモちゃん、どういう事」絢巡査長が説明を求めると「今回の事件って、毒殺じゃないですか。それで、鋭敏な味覚で違和感を感じ取って吐き捨てたんじゃないかな?」と自分の推理を警視庁捜査一課命捜班の2人に披露する。

「ラモちゃんの推理やと、谷原さんが殺害されそうになったっていう事?」

「そうじゃないと思うんです。瞳さんって人はその巻き添えを喰らったんじゃないかって」

「ラモちゃん、その話やと犯人はこの会場に居るってことになるけど。何か、心当たりがあると?」

「あります」燐が鼻の穴を膨らませてそう答えた時、「何だ。俺、来た意味ないじゃない」

と燐の真後ろから声がした。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 燐の素っ頓狂な声が会場に響く。

「そんな驚くことないじゃない」

 燐から連絡を受けた私立探偵の熱海あたみ 長四郎ちょうしろうの姿があった。

『長さん!』命捜班の2人が嬉しそうな声を揃ってあげる。

「それでラモちゃんの推理に基づく犯人を聞こうか?」長四郎は不満気な態度で燐に犯人を尋ねる。

「それは、あの人!!」

 燐が指差した先には、谷原と揉めていた男性が居た。

 それを聞いた大人3人『おおっ~』と拍手するのだった。


 燐が犯人であると断言した男の名は、空岡そらおか 喜朗よしろうと言いアルティメット出版社に勤務する雑誌記者であった。

 会場へ来た理由は、上下新聞社から取材依頼を受けたからだ。そして、被害者の谷原も偶然、居合わせて揉めたというのが空岡の言い分であった。

「というのが、あん人の言い分らしい」一川警部は聞き込みを行った刑事から受けた報告を絢巡査長、長四郎、燐に語った。

 本来であれば、直接本人から聞くべきなのだが長四郎が止めた。

「何でさ、空岡っていう人から話を聞かない訳?」燐が説明を求めると「だって、喧嘩してたっていうだけで犯人は早急しすぎるし、皿を渡した人物が怪しいとか思わない時点で甘いのよ」長四郎は気だるそうに説明した。

「長さん的には、今回の事件をどう見ると?」

「う~ん、無差別殺人のような計画的殺人なようなぁ~」

 長四郎が曖昧な答えを出していると、「私、問い詰めてくる!!」鼻息を荒くした燐が大人達の制止も聞かず空岡に向かっていった。

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