返金-10

 次に長四郎が取った行動は、マンション周辺の聞き込みだった。

 手始めに近所のコンビニにから、情報を聞き出そうと行動を開始した。ピシャリのファンと偽り、世間話ついでに目撃情報やその地域の人間が知っていそうな情報を聞き出そうと試みていた。

「この近くって、有名人とか住んでるんすか? 昔、聞いたことあるんですよ。Kuun huberのピシャリがこの周辺に住んでる的な」

「ピシャリ君ね。気さくで良い子よ」レジのパートのおばちゃんは、あっさりと喋ってくれた。

 タイミング良く店も空いている時間だったので、おばちゃんから搾り取れる情報を引っ張り出そうとする。

「気さくなんすね。動画で見た通りだ」

「そうなんだ。私、あの子の動画見たことなくって」

「ヘェ〜 でも、知ってるんすか。ピシャリの事、知っているんですか?」

「子供から聞いたの」

「ああ、お子さんでしたか。じゃあ、自慢できるんじゃないんですか。ピシャリと顔馴染みだって」

「そう言ったんだけど、信じてくれないんだよね」

「辛いっすねぇ〜」

「辛くはないけどね。でも」

「でも?」

「ここ最近、お兄さんみたいなピシャリ君のファンだっていう子の来店が少なくったのよ。その代わりに、強面の人たちがうろつくようになって」

「強面は怖いっすねぇ〜」

「ほんと、それ」

「その強面の人たちがうろつくようになったのは、いつ頃からなんですか?」

「う〜ん。ここ一年ぐらいかな」

「直近っちゃ、直近すね」

「うん」

「なんか、その話聞いたら、ここら辺うろつくの怖くなってきたなぁ〜」

「ま、時たまだけだから、またのご来店をお待ちしております」

「あ、はい」

 長四郎はコンビニを出て、次に向かったのは写真週刊誌にすっぱ抜かれていた時に撮られていたスーパーへと移動した。

 スーパーは激混みの時間帯で、話を聞けるとかそういった雰囲気ではなかったのでピシャリのスタッフが客として来ていないか。

 買い物をしているフリをしながら、ピシャリ本人、スタッフを探す。

「誰か、居ないかなぁ〜」

 長四郎はカートを弾きながら店内を徘徊する。

 気づいたら、野菜コーナー、鮮魚コーナー、精肉コーナーと回る普段の買い物ルーティーンの行動をする長四郎。

「あれ? ここに来たのって何でだっけ?」

 長四郎は自分でも訳の分からないことを言っているのは自覚できた。

「誰か居るのか、居ないのか。居るのか、居ないのか。居るのか、居ないのか。でも、居ない〜」早口言葉を言いながら、店内を歩き回るのだがあまり長居しても意味はないと踏み諦めてスーパーを出ようと入口に向かって歩き始めた時、入口に見覚えのある人物が店内に入ってくるのが見えた。

 ピシャリのカメラマンを務めるマスヤであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る