行方-18

 眩しい光が気絶していた燐を起こした。

「ここは?」

 部屋を探索しようと身体を起こそうとするが、身体が動かなかった。

「え? 何?」燐はその身に起こった事を確認する為、身体に視線を移す。

 今、自分は花嫁衣装で大股開きをして手術台に身体を固定されていた。

「は? 何これ?」燐は身体を捻って拘束から逃れようとする。

「無駄だよ。自力で外せる物ではないからね」

 そう言いながら、イヴが姿を現した。その恰好は白いタキシード姿であった。

「おい、結婚式でも始めるって言うんじゃないよね?」

「察しが良くて嬉しいねぇ~ これから僕と君は永遠に結ばれるんだから」

「キモっ」

「よく言われるよ」

 イヴはそんなのお構いなしで手術器具を検め始める。

「ねぇ、こんな事を他の女の子にもやっている訳?」

「・・・・・・」

 イヴは何も答えない。だが、燐は話を続ける。

「やっているんだろ? 変態」

「口が悪いな。君は何か勘違いをしている」

「勘違い?」

「僕はね。大切な人を殺すなんていう愚かな事はしないんだよ」

 イヴはそう答えながら、メスを愛おしいそうに見つめる。

「変態に何を言っても無駄って訳か・・・・・・」燐の顔は困ったなといったと言っていた。

「君は何か誤解している」

「誤解だって?」

「私は変出者ではないし、美しい女性をこよなく愛する紳士だ」

「自分で言うかね」

「もうこのくらいで良いだろう。さ、結婚式を始めようじゃないか」

 メスを持ち燐にゆっくりと近づいていく。

「麻酔もなしに身体を切り刻む気?」

「麻酔を御所望と言う訳か」

 出来るだけ気を逸らすようにして時間を稼ごうという燐の作戦であった。

「困った姫だな」イヴはまんまと燐の作戦に乗り、別の部屋に置いている麻酔薬を取り出ていった。

「ふぅ~」

 取り敢えず、難を逃れた燐は安堵する。

 にしても、この状況から抜け出せたわけではない。普通、こういうヒロインのピンチな状況であればヒーローが助けにくるはずだ。なのに、来ない。

 こうなったら、自分の力で抜け出す必要がある。燐は自身が抜け出す為の道具がないか周囲をきょろきょろと見回すがそう都合よく見つかるわけないのだ。

 そうしていると、イヴが部屋に戻ってきた。

「さ、麻酔薬を持ってきたよ。ハニー」

「ハニー呼びかよ」心の声を漏らす燐。

「今から麻酔薬を注射するからね」

 注射器に麻酔薬を注入し、イヴは燐の長く白い腕にアルコール消毒を施す。

「これから、君は眠りの世界へと誘われる」

「そうかい。これで勝ったと思うなよ」

 燐は今言える精一杯の悪口であった。

「では、お休み」

 イヴが燐の腕に注射器の針を誘うとしたその時、部屋のドアが勢いよく開いた。

 燐とイヴはドアの方に視線を向けた。

「動くな!」と拳銃を構えた絢巡査長、遊原巡査、明野巡査が部屋に入ってきた。

「絢さん! 泉ちゃん!」燐は助かったという安堵の表情を見せる。

「イヴ・ウィンガード。営利誘拐、監禁並びに暴行の容疑で逮捕する!」

 絢巡査長がゆっくりとイヴに近づいてその身柄を確保しようとする。

 が、イヴは持っていた注射器を絢巡査長目掛けて投げつけ、その隙にメスを手に取って燐の首に突きつける。

「Don’t Move!!(訳:動くな!!!)」

「絢さん。どうします?」遊原巡査が尋ねる。

「Throw away a gun!!!(訳:銃を捨てろ!!!)」

 イヴは三人が手を出せないように矢継ぎ早に怒鳴りつける。

「何言ってんの? この人」明野巡査が情けない事を言っていると「Throw away a gun!!!」と再度、怒鳴りつける。

「銃を捨てろって言っているんじゃね?」

 遊原巡査は英語を理解したようなことを言うが、実は当てずっぽうで明野巡査に言ったのだ。

「言われた通りにしよう」絢巡査長は人命優先で、銃を床に投げた。

 しかし、イヴは燐の首にメスを突き立てたまま目の前に居る刑事達と膠着状態に入る。

 すると、絢巡査長達の背後からブーメランが飛んできた。ブーメランはイヴの額にバチンっという痛そうな音を立てて当たった。

「Shit!(訳:クソッ!)」イヴは思わぬ痛みに耐え兼ねメスを床に落とす。

 その瞬間、遊原巡査がイヴに飛びかかって身柄を拘束する。

 ブーメランはドアの方に向かって戻っていった。

「全く、チミ達は」

 返ってきたブーメランを畳みホルスターに戻す男が部屋に入ってきた。

「ラモちゃん。太った?」

 長四郎の余計な一言を言うと同時に、解放された燐のキックが浴びせられた。

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