詐欺-21
「待ってください!!」
長四郎と燐が振り向くと、床に崩れ落ちていたオンジンがすくっと立ち上がり近づいて来る。
「隣の部屋片付けて来ますので、待っていてください」
「おかしいですね。あの動画では綺麗に片づけていたのに」長四郎が不思議そうに言う。
「頼みます。待っていてください」
誠心誠意を見せるといった感じで、オンジンは深々と頭を下げて懇願する。
「ホントに、キモい」燐は汚物を見るような目で頭を下げるオンジンを見下ろす。
「同感」
「分かりました・・・・・・」
恨みが籠ったような目で長四郎と燐を睨み付け、玄関のドアを開けて一人先に部屋を出て行くので二人はその後を追う。
倉庫として使われている部屋は撮影部屋の隣であった。
オンジンは指紋認証でロックを解除し、ドアを開けて長四郎と燐を中に入れる。
二人が入ったと同時にオンジンは扉を閉めた。
「あ!!」
燐が真っ先に戸を閉められたことに気づき、ドアを開けようとするが鍵がかかっており開かない。
「閉じ込められた!!」そう言いながら長四郎の方を見ると、落ち着いた様子で廊下をきょろきょろと見ながら闊歩していた。
「ねぇ、聞いているの?」
「ああ、聞いてるよ」
「鍵が開かないんだけど!!」
身体を目一杯押してドアを開けようと奮闘する燐に対して長四郎はリビングの方に入って行った。
「あ~クソっ!!」
びくともしないドアを蹴った燐は、長四郎の後を追う。
「ねぇ、居たの?」
リビングに入りながら話しかけると、キッチンで冷蔵庫の中を見ていた長四郎は「居ないよ」と答える。
「そんなところに居るわけないでしょう」
「でも、この家のどこかには居るはずだぞ」
「どうして分かるの?」
「これだよ。これ」
長四郎が冷蔵庫の中を指差すので、中を覗くと飲み物や調理前の食材が綺麗に入っていた。
「それにこのリビングを見る限り、生活痕がかなりあるもん」
長四郎は冷蔵庫の扉を閉め、キッチンを出てソファーに置いてあるクッションを指差す。
「これが何?」
「形が変でしょ。まるで、枕にしてたみたい。それも何回も」と言いながら、そのクッションを枕にし、ソファーに寝転がる。
「あ~いい匂い~」クッションの匂いを嗅ぐ長四郎。
「何、気持ち悪い事してんのよ!!」長四郎の頭を叩く燐。
「痛っ」
すると、別の部屋からガタンと物が倒れるような音がしたので、顔を見合わせる長四郎と燐。
「行くべ」長四郎は燐にそう告げ、恐る恐る音がした方にゆっくりと歩み寄る。
これまた、恐る恐る長四郎がその部屋のドアをノックすると力強いノックが部屋の中から返ってきた。
「ラモちゃん、開けてよ」
「嫌よ。あんたが開けなさいよ」
「俺だって、嫌だよ、怖いもん」
「あんた、男でしょ。早く開けな!!」
そんな押し問答をしていると、再び中からドンっと音が聞こえてきた。
「怒ってるって。ラモちゃん、早く。早く」
「チッ!」燐は覚悟を決めドアを開けた。
そこには、浦安民を含めたネグリジェを着せられた女性たちが固まって立っていた。
「無事みたいで良かった」燐はそう言って、ドアノブから手を離す。
「ドアノブから手を離しちゃダメっ! 開かなくなっちゃう」民がそう言うとドアが閉まっていく。
その場に居た女性陣がこの世の終わりだ。みたいな顔を浮かべる。
だが、その心配は気宇に終わった。
部屋に入ろうとした長四郎の頭にぶつかった為、ドアが閉まるのが阻止された。
女性達をリビングに移動させると、この部屋からの脱出方法を模索し始める。
「ここ電波通じないなんだけど」
燐は何度も救出の電話を掛けようとしているのを「時間の無駄無駄」と長四郎はスマホを取り上げて、ベランダに出る。
「ちょっと、何するのよ!!」燐も後を追って、ベランダに出る。
「ここもダメか・・・・・・・」
長四郎はスマホを返し、下を覗きこむ。
「う~ん」
「あの、ちょっと良いですか?」民は燐に声を掛け部屋の中に居る。
「ここから脱出しようと考えているんですか?」
「はい」
「無理ですよ。私達は何度も試しましたけど。ここの部屋内から鍵がかかっていますし。その鍵をオンジンが持っているので無理ですよ」
「諦めたらダメです。こっちには超優秀な探偵が居ますから」
燐は嬉しそうにベランダで考え事をしている長四郎を見る。
「ラモちゃん、この部屋に消火器があるか確認してくれ」
部屋に入って来るなり開口一番そう伝えると「了解」燐はすぐ返事をし、消火器を探し始める。
「消火器ってここで何かを燃やすんですか?」
民の質問に「そう」と答える長四郎は火おこしの準備の為、キッチンへと移動する。
「この部屋ってライターとかマッチとみたいなものあります?」
燃えそうなものを探しながら民に尋ねると、「確かあったかな」と朧げな記憶をたどっていると別の女性が「チャッカマンならあったわよ」と言って、キッチン下の戸棚から出し、長四郎に手渡す。
「どうも」
「消火器あったわよ」
消火器を抱えた燐が戻ってきた。
「ダンボールを用意してベランダに出して」
「分かった」燐は消火器をベランダの前に置いてダンボールを取りに行った。
「ヘアスプレー用意してくれます?」
近くに立っている民に頼むと、洗面所に行き直ぐにヘアスプレー缶を持って戻ってきた。
「これで、良いですか?」
「OKです」
「ダンボール用意したわよ」
「じゃあ、ベランダに出そう」
長四郎と燐はベランダにダンボールを出し、チャッカマンで火をつける。
煙をなるべく大きくさせるよう燐に指示を出した長四郎は、部屋の中に入り火災警報器の数cm横に向けてヘアスプレーを噴射し、チャッカマンに火を灯し噴射している部分に火を当てる。
ボォ~という音を上げながら、ヘアスプレーは火を噴いて天井を軽く焦がしたのを確認し、長四郎は簡易火炎放射器を止める。
すると、狙い通り火災報知器が大きな音を立てて鳴り響く。
そして、燐が舞い上げている煙がベランダから外に漏れだし、地上の人間にも薄っすらとだが煙を確認できる状態までに持って行くことに成功していた。
「ラモちゃん、下がって」
消火器を持った長四郎は、ダンボールの火を消していると、「何をしたんだ!!」と慌てふためいた様子のオンジンが部屋に駆け込んできた。
「さぁ、これであんたの化けの皮が剝がれたというわけだ」
長四郎は勝ち誇ったような顔で、オンジンにそう告げるとマンションのコンシェルジュが玄関ドアを叩き、「大丈夫ですか!!」と大声で聞いてくる。
長四郎は玄関ドアを開けて「大丈夫ですよ。ご迷惑をおかけして申し訳ない。後、、救急車を呼んで頂けませんか? 最低三台程」
「そんなにですか?」
「ええ、人数が多いものですから。けが人は居ないので、ご安心を」
「はぁ」不思議そうにしながら業務用として使われているスマホで救急車の手配を始めるコンシェルジュ。
地上階から上がってきたエレベーターから血相をかいた一川警部と絢巡査長が降りてきた。
「長さん、火事みたいやけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。消火も終わってますし、安心してください。それと、誘拐事件の犯人が中に居るので確保願います」
ドアが閉まらないようしっかりと体で抑えながら、中に招き入れる。
一川警部と絢巡査長が部屋に入ると、もぬけの殻となったオンジンが床にへたり込んでいた。
「遅かったじゃないですか」
煙のせいか、黒ずみが付いた顔で燐がサムズアップしながら二人を出迎える。
こうして、オンジンこと
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