詐欺-22

 その夜、警視庁の取調室で六太はしおらしくして、取り調べの時を待っていた。

「おいっすぅ~」

 長四郎はそう六太に声をかけながら、一川警部、絢巡査長、燐を連れ立って部屋に入ってきた。

「・・・・・・・・・」

 六太はむすっとした顔で長四郎を見つめる。

「まず最初に、共犯の鎌飯は逮捕したし、あっさりとあんたの事をこちら側に売ったよ。後、30分近く待ったけど彼女は姿を現さなかったよ。冷たい彼女だね」

「そうですか」

「つれない返事やねぇ~動画時みたいな元気はどうしたと?」

「こんな時に元気を出す方がおかしいと思いますけどね」

「そうかなぁ~」一川警部は首を傾げる。

「では、本題に入ろう。俺とラモちゃんを監禁してどうするつもりだった? あの女の子達と協力して殺すつもりだったのかな?」

 どうして分かったと言わんばかりな顔になる六太は「そ、そんな訳ないでしょう」そう言って誤魔化す。

「そうか。では、次だ。今回の事件の発起人はあんただそうだな。鎌飯と尾多から証言は取れている。聖人ぶってやることはしっかりやっているんだね。女の子達から如何わしい話をたくさん聞けたよ」

「あんたが女の子を酷い扱いしていたことをね」

 燐は机を叩き、六太を睨みつける。

 民はシェアハウス組ではなく、倉庫部屋に監禁されていた。

 そこで、もう二人のkuunhuberと共に、オンジンの身の回りのお世話、編集のお手伝い、下のお世話(無理矢理)をさせていた事を自供した。

 他の二人からも同様の証言が取れ、シェアハウス組は昨夜、鎌飯に連れ込まれて民たちと共に、監禁されていた部屋に長四郎達が助け出すまで閉じ込められていたとの事であった。

「あんた、自分が犯している罪が露見しているのにまだシラを切るの?」

「それは違いますね。僕は、彼女達を鎌飯の手から助け出したんだ。よって、これは不当逮捕だ」

「じゃあ、聞きますけどなんで警察に通報しないと? 普通の人間やったら通報すると思うったい」

「彼女達が怯えていたから」一川警部の問いにオンジンは、苦しい返しをする。

「怯えていたから一室に閉じ込めるの。変な話」絢巡査長がそう言うと「閉じ込めたわけじゃ。彼女達が間違えて入ったんじゃないかな?」

「一度、部屋に入ると外からしか開かない部屋に全員で入るの? あんた、自分で言っててきつくないの?」

 長四郎がそう言うと目を右往左往させながら、「じ、事実を言っているまでだ」と声を震わせながら答える。

「そうか。もう今日は、遅いし、ここまでにしよう」

 長四郎はそう言って、席を立ち四人一緒に部屋を出ようとしているとオンジンが口を開いた。

「いつから、僕を疑っていた」

「あんたが普段から配信している動画を最初に見た時かな」とだけ答えた長四郎は取調室を後にした。

 それからオンジンが逮捕されたというニュースは、世間を震撼させた。

 サイコパスなのではないかという声まで上がる始末で、連日ワイドショーや週刊誌が面白おかしく取り上げていた。

 そして、長四郎は捜査経過を聞くため警視庁を訪れ食堂で絢巡査長からその後の話を燐と共に聞いていた。

「なぁ、聖人君子面のサイコパス野郎は取り調べで「今まで清廉潔白でやってきたのに」って涙しながら自供したのってホント?」長四郎は週刊誌で得た情報が本当かどうか絢巡査長に聞く。

「ホントですよ。気持ち悪かったらありゃしない」

「ああ、そう」

「なんで、そんなこと聞くのよ。それより、絢さん。聖人君子面のサイコパス野郎は犯行を認めているんですか?」

「最初は認めていなかったんだけど。彼の弁護士が来てからコロッと素直に自供し始めた。スキャンダルを起こさないための一つの方法何だって」

「成程、手近に自分好みの女を手近に置いておけば外で女を連れ込む心配もないし、身の回りまでさせたりすると一石二鳥。金はあるから、贅沢な暮らしで黙らさせされると踏んだか。偽彼女は事務所の女の子って所かな?」

「よく分かりましたね。ご名答です」と絢巡査長は手を叩きながら長四郎の推理力に感動する。

 ここで捕捉説明すると、事務所の女の子はオンジンの彼女ではなく、その場しのぎの為に電話を掛け呼び出しただけで、倉庫部屋に長四郎達を閉じ込めた後に再度、その女の子に電話をして来ないように指示を出したという訳であった。

「でも急に自供したって、どういう事何だろう?」

「素直に自供すれば、裁判官の心証が良くなって求刑が少しでも軽くなるようにしているんだろう」長四郎はつまらなそうに燐にオンジンの意図を教える。

「そういうこと」一人納得する燐。

「長さんはいつから、オンジンが事件に関わっていると思っていたんですか?」

「ああ、尾多を追い込んでる時にさ、急にこちらに助け舟を出してきたのよ。その時かな、尾多の顔が明らかにオンジンに裏切られたような顔をしていたから」

「ああ。言われたらそんな表情してたかも。「脱いだ服見せたら」って言ってた時だよね」

 燐もその時の事を思い出したらしく、一人頷きながら言う。

「そう。そん時」

「じゃあさ、じゃあさ。私達を追い出した後は、隠し部屋について推理していたの?」

 燐のこの質問に、表情が固まる長四郎。

「あ、いや、それは・・・・・・・」

「何、答えられない事を話していたの?」

「そういう訳では・・・・・・・・」長四郎は顔を引きつらせて絢巡査長を見ると、全てを知っているといった顔でこちらを見ていた。

 燐もそれに気づき「絢さんは知っているんですよね」と聞くと黙って頷いて続けた。

「長さん達は、監禁されている女の子達がシェアハウス組とオンジンの部屋組のどちらかに監禁されているか。男三人で意見を出し合っていたんだって。オンジン好みの女の子の顔を品定めして」

「はぁ?」

 眉間にしわを寄せながら長四郎を見ると、あらぬ方向を見て燐と視線を合わさないようにしていた。

「追い出してやることはそれだったんかい!」

 長四郎の頭をわしづかみにし、自分の方に視線を合わすように頭を回す。

「で、でも的中率100%だったよ。だよねぇ、絢ちゃん」

「そうですね」とだけ答えると席を立ち命捜班の部屋に戻って行った。

「あ、絢ちゃん! た、助けて」

 だが、長四郎の声は絢巡査長に届くことはなく燐の「征伐!!」の号令と共にぐりぐり攻撃を受けるのだった。


                                     完

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