第拾壱話-仲間
仲間-1
「はぁ~疲れたぁ~」
「女子高生。部活感覚で探偵事務所に来るな」
この探偵事務所の所長兼探偵の
「迷惑って訳?」
「はい、そうです」そう即答した長四郎は、事務所奥の自室に移動した。
「はい、そうですって。お得意様に向かって、それは無いんじゃない!」
燐がそう言った時には、長四郎の姿はもうなかった。
「失礼なやつね!!」
悔しそうに持参してきた紅茶の紙パック飲料をストローで口の中に流し込む。
その時、事務所の電話が鳴る。
「電話だよ!」燐は自室に居る長四郎に声を掛けるが反応がない。
仕方なく燐は、電話に出る。
「はい、熱海探偵事務所です」
「依頼をお願いしたいのですが、可能でしょうか?」
「はい、可能ですよ」
因みに、長四郎が今現在、どのような依頼を抱えているかも知らない燐は依頼を受けようとしている。
「あ、良かった。私、夏月産業社長秘書を勤めております、
「夏月産業の長部様ですね」燐はメモを取りながら復唱する。
「はい、そうです」
「ご依頼内容は何でしょうか?」
「弊社会長の
「護衛ですか?」
「はい」
「分かりました。お引受け致します。詳しくお話を聞きたいのですが、いつが宜しいでしょか?」
「出来れば、早いうちにお願いしたいのですが・・・・・・今日中というのは可能ですか?」
「今日中ですか? 少々お待ちください」燐はそう言って、保留音のスイッチを押して長四郎が操作していたノートパソコンでスケジュールを確認する。
今日のスケジュールの欄には、19時から映画とだけ入力されていた。
「これなら、大丈夫そうね」
燐はすぐさま、電話の保留を解除し「大丈夫です」と答えた。
それから、落ち合う場所、時刻を打ち合わせし電話を切った。
そのタイミングで、長四郎が戻ってきた。
「何、事務所の電話使っているの?」
「依頼が入ったわよ」
「え? これからじゃないよね?」
「これからに決まってるでしょ」
「噓だろぉ~ 今日、映画観に行こうかなって思っていたのに」
「仕事なんだから我慢しなさいよ」
「え~」
「つべこべ言わず、準備するっ!!」
燐は長四郎の尻を引っ叩き、喝を入れる。
二時間後、長四郎と燐は集合場所である大田区にある高級寿司屋を訪れていた。
店に入るとカウンターの向こう側に大将と思われる主人が「らっしゃい!!」と声高らかに二人に挨拶する。
「お待ちしておりました。熱海探偵事務所の方ですよね」
「うわぁ!!」
長四郎の真横から四十代ぐらいの高級スーツを身に纏った男性が突然、声を掛けてきたので長四郎は驚きの声を上げながら燐に抱き着く。
「この変態!!」抱き着く長四郎を振りほどき、ビンタを浴びせる。
「大丈夫ですか?」
「らいしょうふでひゅ(訳:大丈夫です)」と涙目で答える長四郎。
「あの、お電話頂いた長部さんですか?」
「申し遅れました。長部です」
長部は質問してきた燐に名刺を渡す。
「ご紹介しますね。こいつが、熱海探偵事務所の探偵・熱海長四郎です」
燐の紹介に、長四郎は無言で会釈する。
「私はこのアホの助手の羅猛燐と申します。今回はご依頼を頂きありがとうございました」
長四郎の頭を押さえつけながら、頭を下げる。
「いえ。では、会長に会って頂きます」
長部はカウンター席の奥にある個室に二人を案内する。
靴を脱ぎ、部屋に上がると和室で胡坐をかきながら寿司を頬張っている高齢男性が居た。
「会長、ご紹介します。今回、会長の警護を引き受けてい頂いた熱海探偵事務所の熱海さんとその助手の羅猛さんです」
長部が高齢男性に長四郎達を紹介すると「ふんっ」と鼻で笑いいくらの軍艦を口に入れる。
「あの一つ良いですか?」長四郎が発言を求める。
「何でしょう」
「警護って、どういうことですか?」
「今回の依頼は、この夏月産業会長・夏月秀彦の護衛なのですが。もしかして、お聞きになっていなのですか?」
「あ、そうでしたね。失念していました。申し訳ない」長四郎は取り敢えずそう言って、誤魔化すと夏月会長が「おい、長部。こんな子供で大丈夫なのか?」と訝しげに長四郎達を見ながら長部に尋ねる。
「大丈夫ですよ。数々の事件を解決なさってきた優秀な探偵さんですから」
「そうか」
夏月会長はそう答えると今度は、大トロのマグロを口に放り込む。
「では、狙われる背景について聞かせて貰えますか?」
長四郎は夏月会長の前に座りながら、長部に質問する。
「はい。ニュースでも大々的に取り上げられているのでご存知でしょう。弊社の役員が狙撃された事件を」
燐が何故、この依頼を受けたのか理解できた長四郎は長部の話に耳を傾ける。
「その事件が起きた後、秘書課にこのような物が届きまして」
長四郎に一枚の封筒を渡すと「拝見します」そう断って封筒から一枚の紙を取り出し、内容を検める。
その中身は想定通りの脅迫状であった。
秀彦の命を貰う。
この一文だけが筆で書かれていた。
「シンプルですね」率直な感想を述べる長四郎に「犯人は分かったのか?」と夏月会長が聞いてくる。
「いいえ。この一文だけで犯人が特定できたら超能力者ですよ」
長四郎のその言葉に返答することもなく、日本酒を飲む。
「それでですね。熱海さんにお願いしたいのは、会長の警護と犯人の特定です」
そう言う長部に、めんどくさい事件になりそうだなと長四郎は心の中で思った。
「分かりました。お引き受けします」
うんざりした口調で長四郎は依頼を正式に受けた。
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