仲間-2

 結局、寿司を食べられずじまいで長四郎と燐は、夏月会長の家まで送ることになった。

 燐は別行動を取ることにし、夏月会長が雇った民間の警護人が運転する車に長四郎が同乗させてもらう形で田園調布にある家に向かった。

 夏月会長の隣に座りながら、長四郎は助手席に座る長部に話しかける。

「最初の被害者って、役員の方でしたよね?」

「役員の徹田てった 鉄也てつやです」

「その徹田さんの時には、脅迫状は届いてなかったんですか?」

「そのような事はなかったかと」

「マヌケが気づいていないだけだろう」夏月会長は長部に悪態をつく。

「申し訳ありません」

 助手席から謝罪する長部を見て、大変だなと少し同情する長四郎であった。

 最悪な空気になり、そこから一人も喋ることはなく田園調布の家に着いた。

「お疲れ様でした」

 長部はドアを開けて降車する夏月会長に言うのだが、無言のまま家に入って行った。

「大変ですね」長四郎は家に入って行く夏月会長を見送りながら、長部に話かけた。

「そんなことは」

「そう言えば、長部さんは社長秘書ですよね? 何故、会長の秘書みたいなことを?」

「ちゃんとした会長秘書は居るんですけどね。どうも、馬が合わないみたいで私がしょっちゅう呼び出されるわけです」

「成程。そういう事でしたか」

「ええ、そうなんです」

「警護人の方も多く雇っているみたいなので、一旦、準備の為に帰っても宜しいでしょうか?」

 長四郎の言葉通り、警護人達が屋敷の中を散策していた。

「分かりました。戻ってきた時に入れるように警護人に話をつけておきますから」

「お願いします」

 長四郎はその場を後にし、事務所に戻った。

 その頃、燐は警視庁に来ていた。

「おいっすぅ~」

 絢巡査長に言われた捜査本部が設置された会議室に呑気な声を出しながら入室すると、捜査報告会をしていた刑事達の視線が燐に向く。

「あ、部屋間違えちゃったかな?」

 燐が部屋を出て行こうとすると、上座に座る幹部警察官が燐を見た途端、「起立!!」と号令を掛けると刑事達全員が起立すると同時に燐の方を向き、声を揃えて「おいっすぅ~」と挨拶する。

「えっ! 何々?」ノッてくるとは思わず戸惑う燐に「ラモちゃん、もう来てたの?」とあや 小町こまち巡査長が背後から声を掛けてきた。

「絢さぁ~ん、部屋間違えているんじゃないですか?」

「いいや、合ってるよ。ここで」

 絢巡査長はそう答えて、部屋に入ると刑事達が「おいっすぅ~」のポーズを取って固まっている。

「声が小さいぞ! おいっすぅ~」

 絢巡査長が刑事達に号令を出すと、先程よりでかい「おいっすぅ~」が返ってきた。

「あ、絢さん?」

「ああ、ごめん。ごめんラモちゃんが知りたい事件の捜査本部はここだから。皆さんがご所望でした。熱海長四郎の相棒の羅猛燐さんがご到着されました!!!」

 絢巡査長が紹介すると「おおっ!」と歓喜の声が上がる。

「絢さん、どういうことですか?」燐は説明を求める。

「今、この捜査本部には長さんの力が必要なの」

「はぁ」

「取り敢えず、説明するから席に座って」

 絢巡査長に上座が、すぐ目の前という最前列の席と案内された。

「じゃ、お願いします」

 燐の隣に座った絢巡査長がスクリーンの前に立っている強面の刑事に説明を求める。

「事件は、三日前の金曜日に発生しました。被害者の徹田鉄也さん、56歳が町田にあるダッフンダゴルフ場で狙撃されました。現場付近に不審人物の目撃情報はありませんでした」「あの、狙撃場所は特定されているんですか?」

「はい。100mまで離れた場所とまでは分かっているんですが薬きょうは落ちてはなく硝煙反応も出ませんでした」

 燐の質問に答えたのは、強面の刑事ではなく坊ちゃん刈りの鑑識捜査官であった。

「ありがとうございます。続けてください」鑑識捜査官に礼を言い強面の刑事に話を続けるように願い出る。

「はい。我々は怨恨の線で事件を追っているのですが、特に該当するような人物は居ませんでした」

「居ない? そんな訳ないでしょう」

「ラモちゃん、それどういう意味?」

「殺された徹田さんが役員を勤めている会社の会長が犯人から命狙われていること知らないんですか?」

 燐のその発言に刑事達はびっくり仰天といった顔となる。

「ラモちゃん、その話ホントなの?」

「ホントですよ。だからあのバカに頼まれてここに居るんです」

「その話が本当だったら、大変なことですよ」強面の刑事が事件捜査を指揮する監理官に話しかける。

「うむ」監理官は顔の前で手を組みニヤとっと笑う。

 そんな監理官を無視して、燐達は話を続ける。

「それで、長ちゃんはその会長からどんな依頼を受けたの?」

「護衛と犯人の特定です」

「成程。でも、警察に通報しないんだろう」

「警察に捜査されたら都合が悪いことがあるんだろう」監理官は先程と同じ姿勢で絢巡査長の疑問に答える。

「私達も今日、依頼を受けたばかりで詳細を掴んでないんです」

 燐は申し訳なさそうに監理官に現状を伝える。

「構わないよ。では、こちらは徹田さんの捜査を進めるけど、会長の捜査は君達の方で追ってくれないか?

そこで得た情報は共有と形で、我々の協力が必要な場合はいつでも言ってくれ」

「はい、分かりました」

 燐は決め顔で返事するのだった。

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