彼氏-7

「あの人達、組長先生のお友達なのかな」

 燐はビルの写真を撮影する長四郎に尋ねると「ああ、そうかもな」と素っ気ない返事をしてスマホでどこかへ連絡をする。

「あーはいはい」返信を見て、長四郎は一人納得する。

「何一人で納得しているの?」

「いや、今度のスーパー戦隊は王様と昆虫の組み合わせらしくて」

「はぁ? そんな事。調べてたの。呆れた」

「いや、大事なことでしょ。詐欺集団的なアジトが入っているビルなのは分かったから良いんじゃん」

「そっちの方が重要じゃん!!」

「そうなんだ。へぇー流石、女子高生名探偵。すごい。すごーい」

 長四郎は心の籠っていない空拍手を燐に送る。

「なんか、すっげーバカにされている気がするんだけど」

「いつもの事じゃん」

 燐はムッとした顔で、長四郎を睨み付ける。

「あそこの人達は、刑事だろうな」長四郎はビルを監視し続ける強面の男達を見ながら燐に教える。

「それホントなの?」

「分からん。取り敢えず、写真を撮って一川さんに確認してもらおう」

 長四郎は強面男2人の写真を撮り、「暖かい部屋で休憩しよう」と燐を連れてメイド喫茶へと場所を移した。

「おかえりなさいませ。ご主人様♡お嬢様♡」

 長四郎と燐の接客を任せされたであろうルリ子という源氏名のメイドがいつもの決め台詞を言う。

「ど、どーも」と照れる燐に対して、鼻をでれぇっとさせながらルリ子を見る長四郎。

「ご注文は何になさいますか?」

「じゃあ、私はカラメルマキアートを」

「俺はオムライスとオレンジジュース」

「かしこまりました。では、お持ちするまでの間何をなさいますか?」

「じゃあ、黒ひげ危機一髪を」

 迷いなく注文する長四郎に、ドン引きする燐。

「はい。少々お待ちください」ルリ子は注文をキッチンに通しに行った。

「あんたにこういう趣味があったとはねぇ~」

「何とでも言え」

「でも、タダでここに来たんじゃないでしょ」

「何でそう思うの?」

「ここ数ヶ月、あんたと共に行動して分かっきた。そんな感じかなぁ~」

「ほぉ~」

「あれれ、もしかして、デート中でしたか?」

 黒ひげ危機一髪を持ってきたルリ子が会話に入ってきた。

「いや、そんなんじゃないです」

「え~ホントですかぁ~そんな風に見えなかったですよぉ~」

「そんな良いから。始めようぜ」

「はい。ご主人様♡」

 ルリ子の接客態度を見て、燐はメイドはかなりの客を抱え込んでいるだろうなとそう思った。

「じゃあ、俺から」

 長四郎は先陣を切って、樽に剣を刺す。

「セーフ」

「じゃあ、次は私」燐も続いて樽に剣を刺すが黒ひげは飛ばない。

「では、私が」

 ルリ子も剣を刺すが何も起こらなず、これが2周半した頃に黒ひげが飛んだ。

 燐が刺した瞬間、黒ひげは宙を舞い燐の「ひげぇぇぇぇぇぇぇぇ」の絶叫が店内に響き渡る。

「お嬢様、他のご主人様たちもいらっしゃるので、もう少し静かにしてください」

「あ、すいません」

 燐は年甲斐もなくはしゃいだ事を反省しつつ、ルリ子に謝罪した。

「では、お嬢様には罰ゲームを受けて貰います」

「ば、罰ゲーム!!」

「はい」当たり前だと言わんばかりの顔で返事をするルリ子。

「じゃあ、ラモちゃんの罰ゲームはここに居るお客様に向けて「お帰り、お兄ちゃん」って奴をやってもらおうか?」

 長四郎の提案に、店に居た男性客たちから「おおおっ」と歓喜の声が上がる。

「お願いします。お嬢様」

「くっ、お、お」覚悟を決めた燐は全力の「お帰り、お兄ちゃん♡」を男性客たちの前で披露した。

「凄いな。♡まで入れたよ」関心する長四郎を他所に燐は恥ずかしさのあまり机に突っ伏す。

「お嬢様、よく出来ました。これはご褒美です」

 ルリ子は茶封筒を燐の横にそっと置く。

「これは?」燐が説明を求めるとルリ子ではなく長四郎が答えた。

「中身を見れば分かるよ」

 燐は茶封筒の中から3枚の紙を取り出す。

 それは、日向が居た雑居ビルに入っているテナントの情報が書き記されたものであった。

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