仲間-11
次に訪れたのは、バイクディラーであった。
店に入ると同時に店員が「いらっしゃいませ、バイクのご購入ですか? 試乗もできますよ」と鴨が葱を背負って来たと言わんばかりな笑顔で営業マンが話しかけてくる。
「いえ、バイクに用があるんじゃなくてこちらにお勤めの
「あ、磯部ですか。居りますよ。少々お待ちください」
眼の光が消え失せた営業マンは、磯部を呼びに行く。
それから間もなくして、磯部が姿を現した。
「お待たせしました。磯部です」
バイクの整備をしていたのか、少し油で汚れたつなぎ姿で長四郎達の前に現した。
「どうも、お忙しい中すいません。私、探偵の熱海と申します」
「探偵さんが、私にどのような御用件ですか?」
「ご友人の新垣さんについて、お聞きしたい事があるのですが」
「正道の事ですか?」
「はい。すぐに終わりますので」
「分かりました。こちらへ」
磯部は二人を商談スペースへと案内した。
『失礼します』長四郎と燐は声を揃えて言いそれから、席に着く。
「それで正道がどうしたんですか?」
「夏月産業の事件はご存知ですよね。どうも、その事件の根本に新垣さんの事件が関わっている可能性がありまして。まぁ、新垣さんの事件はあのような幕引きで終わってしまったので、その時の捜査ミスがないかどうかを確かめるために新垣さんを良く知る人物の人達からお話を聞かせて頂いているんです」
「と言っても、俺も最後に会ったのは7年前の知人の父親の葬式の時ですから」
「そうですか。では、その時に何か変わった所とかは無かったですか?」
「そんな事はなかったですね」
磯部がそう答えた時、磯部のスマホにメッセージが届いた着信音が鳴る。
それを確認した磯部は「仕事に戻っても?」と聞いてきたので、長四郎は食い下がることもなくそれを許可した。
「失礼します」磯部は二人に告げ、離席した。
「大した成果なかったね」
「そうだな」
二人は店を後にしながら、そんな会話を交わす。
一方の絢巡査長は、凶器の特定を行っている科捜研へと来ていた。
「凶器の特定は出来ましたか?」
担当の分析官に話しかける絢巡査長。
「自作の銃の可能性はあります」
「というと?」
「この弾なんですが、既存の銃では使うことは出来ません。それによく計算されて作られてます。空気抵抗を最小限に抑えるようになっています」
「へぇ~」
「それでですね。この弾を撃つための銃身は想定して作ってみました」
絢巡査長に試作の銃身を手渡す分析官。
「意外と軽いんですね」持ってみた感想を率直に述べると「そうなんです! これくらい軽くないと飛距離が出ない仕様になっているんです」意気揚々と分析官は答える。
「それでお聞きしたいのがあって」
絢巡査長は、長四郎が隠し撮りした河合の車の写真を見せる。
「これなんですけど。このくぼみながこの弾を発射する点火装置的な物の痕と考えて良い物でしょうか?」
「どうでしょう。でも、気になりますね。このくぼみ」
「そうなんです。車種はこれなんですけど」
絢巡査長は車種、この車がどのような用途で使われているかの情報が記載された紙を渡す。
「少し待っててください」
分析官はすぐに3Dソフトを起動させ、車種のデータから3Dモデリングを作り仮想空間上でこのくぼみが出来るような状況を作成する。
写真に定規を当て、推定のくぼみの深さを算出しその数値をソフトに入力しそのくぼみが出来るような立方体を作成し、車の3Dモデリングにその立方体を載せる。
「現物を見ていないので何とも言えませんが、このような30kg程の物が長時間ここに置かれていたのでしょう」
「これが点火装置的なものだとは考えられませんか?」
「成程、エアコンプレッサー的なものという事ですか」
「私も詳しくは分からないのですが、そうなのかな? と思っただけで」
「そうですか。でも、その考えは正しいかもしれませんよ」
「あ、ありがとうございます」
そう答える絢巡査長だが、内心は長四郎の受け売りだとは言い出せずにいた。
「では、この大きさ、重さでその様なエアコンプレッサーを作成しておきます」
「よろしくお願いします」
絢巡査長は分析官に願い出て、科捜研を出た。
警視庁に戻る為車に乗り込みエンジンをかけたその時、スマホに着信が入る。
「もしもし、絢ちゃん」電話に出ると、長四郎の吞気な声がスピーカーから聞こえてくる。
「何か分かりましたか?」
「いいや、例の二人には白を切られたぐらいかな」
「そうですか。収穫無しですか」
「まぁ、残念ですがそういう事になりますな」
「私の方は、長さんが言っていた品物を作ってくれることになりました」
「情報量が少ない中で、よくそういう方向にもってけたね」
「ウチの科捜研は、優秀ですから」
「然様ですか。俺達はこれから会長の元へ行くから、17時に警視庁で報告会でいかがでござんしょう」
「了解です。成果を期待してます」
「期待に応えるよう頑張ります」
そこで、通話は終了したので絢巡査長は車を走らせた。
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