仲間-10
メッセージには「明日、9時に事務所集合」と書かれていたので、燐は指定された時刻を30分程過ぎた時間に長四郎の事務所を訪れた。
だが、事務所には鍵がかかっていた。
燐は仕方なく長四郎には内緒で作った合鍵を使い事務所に入るのだが、長四郎の姿は無く奥の住居部屋に入った。
ベッドルームに真っ先に行くと、布団を蹴散らしパジャマが捲れ腹を出し大きく口を開けた長四郎がベッドに横たわっていた。
「全く」燐は呆れながら、長四郎のパジャマを整え、布団をかけ直してベッドルームを出た。
それからすぐにキッチンへと向かい、朝食の準備をする。
長四郎は調査がない時は、自炊をしているらしく冷蔵庫の中には食材がそこそこ入っていた。
「今日は、洋ね」
燐は献立を決め手際よく調理を始める。
その匂いで目が覚めた長四郎は、ベッドルームから恐る恐る出ると燐が出来上がった料理をテーブルに並べている所であった。
「おはようございまぁ~す」
「おそようでしょ。ほら、食べる」
燐にそう言われて長四郎は席に着く。
今朝の献立は、トースト、目玉焼き、カリカリベーコン、サラダ、カップスープであった。
「頂きます」長四郎は合掌し、食べ始める。
「それで、今日は何をするわけ?」
「今日は、工場見学に行く」
「工場見学?」
「そぉ、工場見学」長四郎はそう答えながら、カリカリベーコンを口に入れる。
「その工場見学が、事件解決に役立つの?」
「それは行ってみない事には分からないけど。ラモちゃんも何か調べてたんでしょ」
「何で?」
「隈」長四郎は自分の目の下に指を当て、燐に鏡を見るように促す。
燐は化粧ポーチから手鏡を取り出して、自分の顔を見る。
「あ、ホントだ」
長四郎の言う通り、燐の目の下に隈が出来ていた。
「夜更かしは美容の大敵だよ」
「やかまいしわ」
燐の作った朝食否、朝昼食を食べ終えた長四郎は工場見学の為の準備をする。
「行くぜ!」
冬用のロングコートを着ながら、燐に宣言する。
「はいよ」燐はそう返事をし、工場見学へと向かった。
長四郎と燐は、町田にある貴島製作所という町工場を訪れた。
工場のシャッターは開けられており、誰でも出入りしやすい状態であったので長四郎達はそのまま工場に入った。
工場内は鉄板に穴をあける掘削機の音、鉄板を切断する切断機の音などがひしめき合っており、大声を出しても近くで作業する工員には聞こえないといった感じであったので長四郎と燐は、事務所を探す。
「お宅ら、誰?」
事務所を探す長四郎と燐に、職人という言葉が似合うジジィが声を掛けてきた。
「あんだって?」
周りの音がうるさくジジィが何を言っているか理解できない長四郎は耳を立てて聞き返すのだが、ジジィも長四郎は何を言っているか理解できずこちらも耳を立てて「あんだって?」と聞き返す。
このラリーが、10数回繰り返される。
長四郎とジジィも互いに疲れてきた頃、別の工員が長四郎と燐に気付き機械を止めるよう他の工員に合図し、機械音が鳴りやむ。
そして、工場に響いたのは二人の『あんだって!!』という言葉だけだった。
「あ、聞こえるようになった」燐がそう言うと長四郎とジジィは嬉しそうに握手を交わす。
「で、お宅らウチに何の用?」ジジィが満面の笑みで用件を聞いてきた。
「ああ、ここの社長さんに用があってきまして」
「
ジジィは近くにいた若い工員に指示を出し、若い工員はすぐさま社長を呼びに行く。
それから、間もなくして堀の深い顔立ちをした社長が若い工員に連れられながら姿を現した。
「社長の
「ええ、
長四郎はドストレートな用件をぶつけた。
「正道の事ですか。こちらへどうぞ」そう言って、長四郎達を応接室に通す。
「あなた方は、警察の方ですか?」
長四郎達が応接室の椅子に座ったと同時に、貴島は質問してきた。
「いえ、違います。我々は探偵ですが、警察の捜査のお手伝いをしています」
「はぁ」
「それで新垣さんの事についてなのですが、自殺なさる前にお話をなさったりなどしていませんよね」
「いいえ。その事なら昔、警察にも答えましたよ」
「申し訳ないです。形式的な質問なので気にしないで下さい」長四郎は愛想笑いを浮かべながら、質問を続ける。
「新垣さんは昔、あなた達と共に暴走族に所属していたんですってね」
「そうですけど、それが何か?」
「いえ、そういう人達って言うのは更生しても仲が良いイメージがあるものですから。疎遠になるイメージがないと言いますか」
「何が言いたいんです?」
「率直に申し上げます。あんたらが、夏月産業の徹田さんや長部さんを殺したんじゃないかって事です」
燐は長四郎のその発言を聞き、「あんたら」の部分に引っ掛かりを覚える。
「僕たちがですか? 勘弁して下さいよ。そんな真似するわけないじゃないですか」
「そうですよねぇ~なんか、変なこと聞いちゃったみたいですいません」
「いえ」
「あ、今聞いた事は忘れてくださいね。ラモちゃん、失礼するよ」
「あ、うん」
長四郎と燐はそのまま貴島製作所を後にした。
少し離れたところで、燐が口を開いた。
「ねぇ、あんたらってどういう意味?」
「あ、まだ言ってなかったな。あの打ち込まれた弾に書いてあった紋章が、あのおっさんが昔、所属していた暴走族のマークだって分かったの」
「ああ、それで。でもさ、現役の人達かも」
「残念、29年前にそのグループは解散しているんだよ」
「そうなんだ」
「それに河合って奴はその後継グループに所属していたみたいでな。上の世代と繋がりがあっても不思議じゃないなと思って来たわけ」
「でも、あんたらって複数形じゃん。あの人以外にも今回の犯行を手助けしている奴がいると思ってんの?」
「さぁ~どうでしょうねぇ~」
長四郎は答えを濁しながら、次の目的地へと向けて移動するのだった。
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