対決-30
「ったく、こんだけ暑いと参っちまうよな」
勇仁は照りつける陽射しにやられるぅ~ みたいなジェスチャーをする。
「だったら、日陰に入りゃあ良いじゃん」
「長さん。夏は陽射しに当たってこそ、楽しめるものじゃない」
長四郎は今、海外へ渡航する勇仁を見送る為に羽田空港のオープンテラスへと来ていた。
「言ってること、滅茶苦茶だな。まるで、孫みたい」
「誰が滅茶苦茶だって!」
燐は長四郎の耳を思いっきり引っ張る。
「痛たたたたた」
「燐、恥ずかしいから止めて」
「お爺様。恥ずかしいって、どういう意味ですか?」
今度は、勇仁の耳を引っ張り始める。
「痛たたたたた。長さん、助けて。助けて!」
「全く、何をやっているんだか」
引っ張られた耳を抑えた長四郎は仕方ないといった顔で、燐を勇仁から引き離した。
「ラモちゃん。おじいちゃんは大事にしないと、別れる時が辛くなるだけだぞ」
「何よ。それ」
「ま、死んでから分かる話さ」
「長さん、不吉な話するね」
「こういうのは、キチンと言わないと分からないよ」
「何、それ」
「何、それ」
祖父と孫の連携プレイに、たじろぐ長四郎。
「悪かったよ」
「分かりゃあ良いんだよ」
燐からそう言われた長四郎は、少しカチンときたが黙っておくことにした。
「で、長さんがなんで俺を見送りに来てくれたわけ?」
「なんでって。一緒に事件を解決した相棒が帰るんだ。お見送りぐらいさせろよ」
「相棒だって」勇仁が嬉しそうに言うと、燐は不満げな顔をする。
「お爺様、飛行機に乗り遅れるんじゃないんですか!」
燐は急に勇仁の背中を押して、手荷物検査場へ移動させようとする。
「ちょっと、何。あらぁ~」
何とも情けない声を出しながら、燐に連れて行かれる勇仁。
「じゃあな。長さん」
「ああ、またな。今度も派手にあぶない事をやれるよう祈ってるぜ」
探偵二人は固く握手を交わす。
「燐も元気で」
「お爺様も」
勇仁と燐はハグし、同じタイミングで「じゃ」と別れの言葉を言い合い勇仁は搭乗口に入っていった。
「おじいちゃんが行って寂しい?」
「そこまで子供じゃないし」
「ああ、そ。そう言えば、例の友達は?」
例の友達とは、芽衣の事である。
「芽衣ちゃんね。怪我も順調に回復してるって」
「そこじゃなくて。兄貴さ。兄貴」
「彼女、強いわ。今回の事件で彼女のSNSにも酷い中傷コメントとか書いている奴らにも動じずにリハビリしてるんだもん。それに」
「それに?」
「この可愛くて可憐な女子高生探偵の羅猛燐ちゃんが付いているんだもん。大丈夫に決まってるでしょ」
「え? もう一回、言ってくれる? 勇仁と付き合ってたせいで、耳が遠くなったみたいで」
「人のお爺様をバカにすんな!!」
脛に蹴りを入れられ悶絶する長四郎を置いて、燐は空港を後にするのだった。
完
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