希望-16

 旭は大人しく逮捕された。

 そして、SUITOが頭に直撃した長四郎はというと・・・・・・

「んっ」

 意識を取り戻した長四郎が瞼をゆっくり開けると、目の前に心配そうな顔をした燐の顔が最初に映った。

「あ、起きた!」

「起きた! じゃねぇ~よ」そう言いながら、身体を起こそうとするが燐に阻止され寝ていたソファーに寝かされる。

「ホント、バカなんだからっ」

「はい? ラモちゃんが、あいつを蹴飛ばさなきゃこんな事にならなかったでしょ」

「それ言う?」

「言いますね」

「まぁまぁ、2人共。長さん、大丈夫ですか?」

 絢巡査長にそう尋ねられた長四郎は「大丈夫」と一言だけ返す。

「なら良かったです。あのこんな時で申し訳ないんですけど」

「何?」

 長四郎は額に手を当てながら、腫れている所が無いか確認する。

「どうして、旭が70番搭乗口に向かうことが分かったんですか?」

「う~ん、もしもの時の為にスペアのSUITOがあるだろうなぁと思って。取り敢えず、第2ターミナルへ誘ったの」

「第1ターミナル、第3ターミナルでも良かったんじゃない?」

「ラモちゃん、近すぎても遠すぎてもダメなのよ。適度な距離が良いの。そんで、事を起こすなら、捜索していない搭乗ロビーにした方が警察の鼻を明かせるじゃん」

「成程。それでどうして、70番搭乗口だったんですか?」

「あそこは、あの時間に搭乗が行われる搭乗口だったから事を起こすなら人が確実に居る場所の方が良くない?」

「確かに」燐はうんうんと頷いて納得した。

「それで70番搭乗口だったんですね」

「そう」

 長四郎は身体をゆっくりと起こそうとすると、燐に押さえつけられる。

「動かない!」

 燐のオニの形相で長四郎を見るので、「はい、すいませんでした」と謝罪しそのままソファーに体を預けるのだった。


「計画が失敗しただと!?」

「はい。そのようです」

 東京の夜景が見回せる大部屋で、高級スーツに身を包んだ初老の男と森林管理官が話していた。

「はい。変な私立探偵に邪魔されてしまいまして」

「変な私立探偵?」

 窓から景色えお見ながら報告を受けていた初老の男は、森林管理官の方を向く。

「はい。熱海長四郎という」

「熱海長四郎? あいつか!」

「ご存知なのですか?」

「貴様も覚えているだろう。12年前に我が組織への資金提供を断った裏切り者を葬った事を」

「確か、そのような事があったような」

「その時に、我々の同志を警察に突き出した生意気な高校生が居てな」

「それが、熱海長四郎だと?」

 初老の男は、黙って頷き認める。

「取り敢えず、奴は我々の計画には邪魔だ」

「消しますか?」

「いや、次に我々の邪魔をするような事があればで、良いだろう」

 悔しそうな顔を浮かべる初老の男は、葉巻ケースから取り出した葉巻を親指で折るのだった。


                                     完

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